ラウンジの業務が終わり、賄いを食べ終えた皿を片付ける為にキッチンに戻ると、今日の賄い担当だったフロイド・リーチが鼻歌を歌いながら流し台で皿を洗っていた。
「ごちそうさま、おいしかった」
「はぁい。皿は洗うからそこ置いといて」
「うん。……あっ」
スレイドが声を掛けると、皿洗いに集中しているフロイドは、洗っている皿から目を離さずに、泡だらけの指で流し台の横を指さした。
スレイドは彼の言う通りに皿を置いてキッチンを出ようとしたが、ふと近くのまな板に残っている「ある物」が目についた。
「ねえ、フロイド。あれ貰ってもいい?」
スレイドが指さしたのは、まな板に放置されたまだ身が残っているマグロの尻尾だった。
「あー、マグロの尻尾?今日の賄いには使わなかったし、もう料理作る気分じゃねーから、別にいいよ」
「やった、ありがとう」
「包丁とか使うなら自分で洗いなよ」
「大丈夫、使わないから。じゃあお疲れさま」
「お疲れー」
半ば生返事でもフロイドから了承を得たので、スレイドは機嫌よくマグロの尻尾を抱えてその場を立ち去った。
「……あれ?ウツボちゃん、あのマグロそのまま持って帰った?」
隣で調理でもするのだろうと思っていたフロイドは、予想外の事にようやく我に返って手を止めたが、その時にはスレイドはマグロを持ってキッチンから出て行った後だった。
「ただいま、バイト」
「ああ、おかえり。……って、なんだそれ?」
ラウンジから帰ってきたスレイドを出迎えたバイトは、ベッドから身を起こしながら彼が持っている大きな魚の尻尾を見て怪訝な顔をした。
「ふふ、お土産。バイトにあげる」
「わっ……えっ、この匂い、マグロ!?」
「うん。ラウンジの余り物貰って来ちゃった」
バイトは魚の尻尾を不意打ちで手渡されて、あわあわしながらも受け取ると、その血の匂いに目を見開いてスレイドを見上げた。
「うわあ、マグロなんて久しぶりだぜ。生きてる奴には劣るけど、かなり新鮮な匂いがするな。ありがとうなスレイド。これ食べていいか?」
「うん、もちろん」
興奮気味にマグロを色んな角度から眺めたり、匂いを嗅いである程度堪能した後、食べていいか尋ねるバイトに、スレイドは微笑んで頷いた。
「じゃあ、いただきます」
バイトは大きく口を開けると、その鋭い歯をマグロの尻尾に突き立てた。
そしてそのまま体ごと捻るように頭を動かして、マグロの肉を思い切り抉り取ると、そのまま口を大きく動かして抉り取ったマグロを咀嚼した。
「どう?」
「んんんー……擬似だけど、やっぱりこの食い方が一番最高だな。生かしておけば何度でも抉り取れるし、「食ってる」ってカンジがする」
リスの様に頬にマグロの身をパンパンに詰めて、マグロを味わっているバイトの顔は、とても満足そうに緩んでいた。
「ふふ、よかった」
「お前の分は?」
「俺は賄い食べて来たから大丈夫、全部バイトが食べなよ」
「ひひっ、そうか。じゃあ遠慮なくいただくぜ」
嬉しそうにマグロを頬張るバイトを見つめながら、スレイドは頼まれていたスペルチェックをする為に、彼の机の上に置いてあるレポートに手を伸ばした。

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