13、「やっぱりこの食べ方が一番おいしいんだよね」

ツイステッドワンダーランド生き別れのウツボの人魚

「ふふふ……やっぱりマダコはミズダコより歯応えがあっておいしいな」

 休日で誰もいないモストロ・ラウンジのキッチンで、タコを頬張りながらスレイドは微笑んだ。
普段眠たげな無表情が常の彼が、珍しく頬を赤くして嬉しそうに顔を綻ばせるスレイドを見て、隣に立つバイトは微妙な顔でその様子を見つめていた。
 
「……オレお前がタコ食べてるの初めてちゃんと見るけど、いつもそんな食い方してるんだな。ビビる奴が出そうだから部屋で食わねえか?」
「別にいいじゃない。それよりこれ、すごくおいしいよ。バイトにだったら一本分けてあげる」
「いや、いい。この前の礼だからお前が全部食え」
「そう?じゃあ、次は岩塩にしようかな……」
 
摘まんで差し出した一本のタコ足を、手で押しやって断るバイトを見て、スレイドは気にしない様子で、そのタコ足に大口を開けて食いついた。
 
「あれ?おーいスレイド、バイト。そこで何してるんだ?」
「ん?ふぁに(なに)?」
「ぎゃああああああ!!!!」

たまたま通りがかった一年生の寮生は、無人のキッチンに立つ同級生達が気になって声を掛けたが、振り返ったスレイドの顔を見た瞬間、その場で腰を抜かして悲鳴を上げた。

「おい、どうしたんだよ……って、うわああああ触手!!!」

同級生の悲鳴を聞いてもう一人一年の寮生もやって来たが、同じくスレイドの顔を見て同じように腰を抜かした。

「ススススレイド!!お前何食ってんだよ!」
「ふぁこ(タコ)」
「触手が口からはみ出してホラー案件なんだけど!せめて口に収めろよ!!」
「昨日の映画で見たエイリアンかと思った……」

最初に腰を抜かした同級生は、恐怖と驚きとドン引きのあまり、怒鳴るようにスレイドにツッコミを入れ、もう一人は昨日見ていた映画を思い出し、バクバクと暴れる心臓を押さえながら立ち上がった。

「だから言ったろスレイド、ビビる奴が出そうだから部屋で食おうって」
「ふぇー……ふぇふにひいひゃん(別にいいじゃん)」

やや呆れ顔のバイトを一瞥してから、スレイドは周りの視線は気にせず、歯と手を使って口からはみ出たタコ足をモゴモゴと口内に納めた。
 
「……ゴクン。やっぱりこの食べ方が一番おいしいんだよね。特に足の根元のところが好きなんだ」

 スレイドは口に入っていたタコ足を飲み込むと、しばらくビクビク動く残ったタコの足をつついて遊び、ひとしきり楽しんでからその足を根元から噛みちぎった。
歯を立てられた瞬間にタコ足は激しくのたうち、スレイドの顔に吸盤を貼りつかせたが、彼はそれすらも楽しそうに引き剥がして、足先から吸盤を一つ二つ潰すように、暴れるタコ足を少しずつ口の中に詰め込んでは咀嚼し、ゴクンと大きく喉を鳴らして飲み込むのを繰り返した。
最後に一番好きな足の根元部分を飲み込むと、スレイドは満足そうに目を細めて、自分の手のひらについたタコ足の汁をベロリと舐めた。
 
「うええ……黙っていれば整った顔してるのに、食い方がワイルドすぎる……」
「これモストロのアカウントで動画あげたらバズるかな?」
「やめとけ、トラウマもんだし大炎上間違いなしだ。アズール先輩に殺されるぞ。こんなのでも一般開放日の女性客からミステリアス系美青年でそこそこ人気なんだから。……チッ、滅びればいいのに」
「ん?なんか言った?」
「い、いーや?何も言ってないぜ?」
「そう?」

一般開放日にラウンジに来店する年上のお姉さん達から、そこそこ可愛がられているスレイドの姿を思い出して、同級生は小さな声で悪態をついたが、本人が耳聡く反応したので、彼は明後日の方に顔を向けて誤魔化した。
 
「スレイドは調理しないのか?リーチ先輩達も、よくタコ焼きとかカルパッチョとかにしてるだろ」
「だって殺したら意味ないじゃない。タコは生きたまま口いっぱいに頬張るのが一番おいしいの」

ジェイドとフロイドの好物を思い出したもう一人の寮生が指摘すると、スレイドは笑顔でキッパリと言い切った。

「それで……踊り食い?」 
「うん。ラウンジのキッチンの調味料見て、一度味変しながら食べてみたかったんだ。味変できるっていいよね、海じゃできないからちょっと贅沢な気分」

 そう言ったスレイドの前の調理台には、岩塩、醤油、レモン汁と、少量の調味料がいくつか小皿に並べられている。
彼は次に食べる足の先を小皿に入った醤油に浸して、その足先を思い切り食いちぎった。

「……食い方はワイルドだけと、結構美味そうに食うな。それそんなに美味いのか?」
「うん。俺の大好物」
「へー……」

最初はスレイドの食べ方にドン引きしていた同級生だったが、彼がおいしそうに食べている様子を見てだんだん興味が湧いてきていた。

「なあ、ちなみに足一本分けてもらうのは無理?なんか気になって来た。俺も食べてみたい」
「…………えーーーーー」
「頼む!代わりにこのチョコバーやるから」
 
同級生は試しにタコ足を譲って貰えないか聞いてみたが、スレイドはあからさまに顔を歪めたので、たまたま制服のポケットに入っていた安いチョコバーを差し出した。
 
「んー……もう一声」
「そう言われると俺も気になって来た。俺のミントガムもやるから一本譲って!」
「うーーーん……そこまで言うなら二人で一本ね。バイト、包丁取ってくれる?」
「ああ、ちょっと待ってろ」

チョコバーを差し出されて渋っていると、もう一人からもミントの板ガムを差し出されたので、スレイドは少し勿体ぶった言い方でタコ足の交換に応じた。

「はい、どうぞ」
「ありがとう。うわ、切ったのにまだ動いてる……ほんとに活きがいいんだな」
「あっ、うわ!?めちゃくちゃ暴れるな、このタコ」
「しっかり掴んだ方がいいよ、逃げるから」

 スレイドはバイトに用意してもらった包丁で、タコ足の一本をまな板の上で切り落とすと、それを二等分にして二人に手渡した。
おっかなびっくりの状態で受け取った二人は、切られてもなおヌルヌルと動くタコ足が手から逃げないように格闘しながら、手の中で蠢くタコ足をまじまじと見つめた。

「スレイド、どの調味料がおすすめ?」
「俺が食べた中じゃ醤油が一番美味しかったよ。その次は……岩塩かな?吸盤が危ないから、しっかり噛み潰してから飲み込んだ方がいいよ」
「じゃあ醤油で食べてみようかな」
「俺もそうしよう。いただきます」

二人はスレイドに勧められるまま足先を醤油に浸すと、口の中にタコ足を詰め込もうとした。 
 
「いっ……!!いてててて!!吸盤!!吸盤が!!」
「痛い痛い痛い!!唇に付いた!しかも取れないんだけど!!」

食べられようとしているタコ足は最後の悪あがきと言わんばかりに、吸盤を彼らの口の中や唇に吸い付かせ、彼らの口内で暴れまわり、同級生達は痛みに悶絶した。
 
「ふっ、ひひっ……クククッ……アハハハッ!」
「……ぷっ、キャハハハっ!!あんた達すごい変な顔!」

張り付いた吸盤と取ろうとして、唇や頬が引っ張られて珍妙な顔になってしまった彼らの見て、スレイドとバイトは堪えきれずに大声で笑い声をあげた。

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