14、「気が向いたらまたやろうね」

ツイステッドワンダーランド生き別れのウツボの人魚

 大食堂から抜け出して、日当たりのいい中庭の片隅のベンチの背もたれにもたれかかったフロイドは、日光で誘発される眠気で重くなる瞼を無理矢理持ち上げながら、芝生に足を投げだした状態で座らせたスレイドの様子を眺めていた。
スレイドはポケットに入っていたマジカルペンが気になっているらしく、マジカルペンを両手で持って色んな角度で眺めたり、日光にかざして魔法石が反射して光るのを見ていた。
稚魚が初めて見るオモチャに興味を持っているようなものだろうなと欠伸をしながら見ていると、今度は木の葉に興味を示したらしい。
スレイドはマジカルペンを片手に地面に落ちている木の葉を拾って、日光にかざして眺め始めた。

「はあ……あれ」

代わり映えの少ない退屈な光景にフロイドがため息をついていると、スレイドは地面に置いた木の葉に向かってマジカルペンを構えた。
しばらくすると魔法石に弱々しい光が宿り始め、木の葉が地面から浮き上がり、フロイドは驚きで目を見開いた。

「え?ウツボちゃん……マジでいつから魔法使えるようになってんの?」

浮いた木の葉はよろよろと不安定に宙を滑り、数メートル先に生えている木の幹に当たって地面に落ちた。
魔法が発現したばかりの子供ができる距離ではない。
しかしスレイドには不満だったらしく、少しだけ顔を歪めて口を尖らせると、もう一度マジカルペンを構えて足元の葉っぱを魔法で浮かしては、木に当てるのを繰り返し始めた。

「ねえウツボちゃん、何してんの?」
「……じっけん」

フロイドが試しにベンチから声を掛けて聞いてみると、彼はフロイドに顔も向けずに一言だけ呟いた。

「なんの実験してんの?」
「……」

実験の内容を聞いても言葉を返さないスレイドに、フロイドは諦めてベンチに寝転んで昼寝をしようとしたが、先程のジェイドとのやり取りを思い出してしばらく待ってみる事にした。

「……これ、さかなのほね、にてる」
「え?」

しばらくして突然喋り出したスレイドに、フロイドは体を起こした。
スレイドが魚の骨に似ているといいながら持っているのは、先程から魔法で浮かしているただの木の葉だった。

「ウツボちゃんにはこれが魚の骨に見えてんの?」
「うん」
「え~?……ああ、そういうことね」

最初はスレイドが言っている意味が全く分からなかったが、彼が持っている葉をよく見ると、フロイドはなんとなくその訳を理解した。
葉には中心から枝分かれした葉脈が浮き出ている、スレイドにはそれが魚の骨に見えていたのだろう。

「さかなのほね、ささる」
「そうだね」
「これ、ささる、どうだろう、ためす、やりたい」
「ふうん」

 そう言ったきりスレイドは再び黙って、また葉を木に向かってぶつけ始めた。
彼の動かしている葉は酷く不安定に蛇行しながら飛んでいるので、固い木の幹を撫でるだけで刺さる様子は無い。
珍しく少し長い単語の羅列で話し始めたスレイドに少しだけ興味が湧いたが、再び黙って木の葉を浮かし始めたので、フロイドは飽きてクワ、と欠伸をすると、もう一度ベンチに寝転んだ。

「また黙っちゃったし……ウツボちゃん、オレ寝るから。ここから離れちゃ駄目だよ」
「うん」

今の彼はまともに歩けないので遠くに行く事はないだろうが、念のためにスレイドに声を掛けると、フロイドは今度こそ目を閉じて規則的な寝息を立て始めた。


「……んあ?」

 耳を掠めた風を切る音に、フロイドは目を覚ました。
一時間程寝ていたのだろうか、寝る前は授業中だったので静かだったが、遠くで教室を移動する賑やかな生徒達の話し声が聞こえてくる。
フロイドが手を隠さずに大きなあくびをすると、のそりと身を起こして伸びをした。
固い所で寝た事で凝り固まった背中の筋を伸ばして、未だ重い瞼をショボショボさせながら辺りを見渡すと、自分が寝た時と同じ場所にスレイドは座り込んでいた。
フロイドが寝ている間もずっと練習していたのだろう、浮いた葉は真っすぐに木に当たるようになるまで上達していた。

「ウツボちゃん、まだやってたの?」
「……」
「はあ~……ねーオレ飽きたんだけど」

 声を掛けても反応しないスレイドにしびれを切らしたフロイドは、胸ポケットにあるマジカルペンを取り出して足元の木の葉を浮かせると、スレイドがずっとぶつけていた木に向かってダーツのようにそれを突き刺した。
いきなり自分の背後から顔を掠めて木に突き刺さった葉に驚いたのか、スレイドは息を呑んで固まった。
フロイドはベンチから立ち上がって、固まったまま動かないスレイドの隣にしゃがんだ。

「葉っぱをダーツみたいに刺したいんだったら、葉を強化してもっと早く飛ばさねえといつまでもできねえよ?ほら、できるって事は分かったでしょ?いい加減にしねえと、ブロット溜まるよ?」
「……」

スレイドは自分を見下ろすフロイドを穴が開くほど目を大きくして見上げると、慌てたようにまたマジカルペンを構えて葉を浮かし始めた。

「って、えーまだ続けんの?」
「おれも、やりたい」

 フロイドは大きな実力差を見せつけて、スレイドの「実験」を諦めさせるために魔法を放ったが、それがかえって刺激になったらしく、スレイドは先程よりも真剣な顔つきで魔法を使い始めた。
自分にとって理想的な手本を見たスレイドは、回数を追うごとに葉を飛ばす速度を上げていく。
最初は呆れ混じりに見ていたフロイドだったが、手本を一度見ただけでどんどん精度が上がっていくスレイドの魔法に次第に興味を持ち始めて、彼の隣に胡坐をかいてもう少しだけ見守る事にした。

ヒュウ

「はやいと、いたい」

ヒュ

「かたいと、ささる」

トンッ

「ダツみたいに」

トッ

「もっと、はやく」

シュタッ

スレイドが放った葉は風を切って、フロイドが刺した葉の隣に突き刺さった。

「……できた」
「へえ~、ウツボちゃんすげーじゃん。よくできました」
「……ふ、ふふ」
「あ、ウツボちゃんやっと笑った」

 自分が成功した事に驚いて目を丸くするスレイドの頭を、フロイドは自分の大きな手でワシャワシャと撫でてやると、子供の彼も最初はポカンとした表情で、撫でられるに任せて首をグラグラ揺らしていたが、次第にくすぐったそうに笑い始めた。
小さくなってから一度も笑っていなかったスレイドの笑顔を見て、フロイドもパッと表情を明るくした。

「じゃあさ、できるようになった魔法使って、遊んでみない?」
「やる」
「食い気味じゃん」

フロイドがマジカルペンを振るうと、木の幹に二重線の円が浮かび上がった。

「あの丸の真ん中に交代で葉っぱを刺して、真ん中に近かった方が勝ちね。分かった?」
「わかった」
「じゃあ、先にオレがやるね」

その後鋭く風を切る葉が、数十分にも渡って宙を何度も飛び交った。

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