14、「気が向いたらまたやろうね」

ツイステッドワンダーランド生き別れのウツボの人魚

「アズールお疲れ~」
「お疲れ様ですアズール。モストロラウンジの締め作業が終わりましたよ」
「お疲れ様です。今日の売上はどうでしたか?」
「こちらです」

 モストロラウンジの営業終了から三十分後、締め作業が終わったジェイドとフロイドは、アズールがいるVIPルームにやって来た。
書類作業をしていたアズールに、ジェイドは今日の売上の報告をし始めた。
アズール達が話している間、フロイドは部屋の真ん中のローテーブルで、青い色鉛筆を握ってお絵かきをしているスレイドに目を向けた。
テーブルには彼が描いた絵の紙が、テーブルを埋め尽くす勢いで沢山散らばっている。
普段のスレイドの趣味がスケッチなので、今のスレイドもお絵かきは気に入るだろうと考えたアズールの予想は的中したらしい。
スレイドは熱中して絵を描いているし、その間は静かにしているのでVIPルームで騒がれる心配も少なくなる。
どうやらアズールは少ない労力で、スレイドの面倒を見る事に成功したみたいだ。

「ただいまウツボちゃん、いい子にしてた?」
「わっ」

スレイドが絵を描くのを一時中断して一息つくタイミングで、フロイドは彼の隣に座り、その小さな頭を撫でてやった。
スレイドは撫でられた頭を触ってポカンとしていたが、すぐに今自分が描いている絵の続きを描き始めた。

「描いた絵、見てもいい?」
「うん」

 顔すら上げなくなったスレイドから了承を得て、フロイドは手近にある紙を何枚か手に取ってみた。
これはまだ珊瑚の海にいた時の彼が、群れから離れてまで見ていた物なののだろうか。
基本は青色を中心に描かれている絵が多く、光に反射して光る金色の泡、海底に隠れている鮮やかな色の貝、海面付近を泳ぐ銀色の小魚の群れなど、子供らしいやや拙い線の描き方でも、そこで見ていた物を思い出して描いていたとすれば、どの絵もちゃんと特徴が捉えられていて、中々の精度で描かれていた。

「へえ、小さいウツボちゃんも絵上手いんだね」

 フロイドが感心していると、一つだけ色合いが違う絵が目についた。
手に取って見ると他の絵よりも一際拙く見えたが、「出来が悪い」というよりも、「見慣れていない」という印象を受けた。
稚拙な線で描かれた細い緑が刺さった木と、そして大きさが違う黒い線が入った青い頭をした黒い塊が二つ、緑の原っぱに乗っかっていた。
黒い塊は木に向かって手を伸ばしているらしく、その先にはマジカルペンらしき先端が薄い紫で書かれた黒い棒が握られていた。

「ウツボちゃん、これって中庭でやった木の葉ダーツを描いてくれたの?」
「……うん、さっきの、このはダツ」

フロイドが持っている絵にチラリと目をやると、小さく頷いてからすぐに今描いている絵に目線を戻した。

「おや、スレイドさんはお絵かきをしていたんですね。どれもとてもお上手です」
「そうみたい。ほら、今日の昼にウツボちゃんとやった木の葉ダーツの絵」

アズールへの報告が終わってソファの後ろにやって来たジェイドに、フロイドがスレイドの絵を手渡すと、彼は絵をしばらく眺めて頬を緩めた。

「なるほど。これがフロイドでこっちがスレイドさんですか、上手く描けていますね。それで、木の葉ダーツとは?」
「魔法で木の的に葉っぱをダーツみたいに当てんの。ウツボちゃん、一つの的ならもう全部ど真ん中に当てれんの。すごくね?」
「もうそんな事もできるんですか?僕も見てみたかったです」
「ウツボちゃん、今は何書いてんの?」
「……きょうだい」
「そっちの絵も見てもいい?」
「……ん」
 
 自分の絵について、二人がどんな感想を抱くのかはあまり関心がなかったらしく、スレイドは二人が自分の絵について話している間も、ずっと手を動かしていた。
フロイドが絵を見ていいか尋ねると、スレイドは少しだけ考える素振りと見せると、描いていた絵を彼に手渡した。

「ん~~?ほとんど青で描いたんだね」
「おそらく海の中でしょうね。この小さな青い丸が僕達でしょうか」

 スレイドが見せてくれた絵に描かれているのは、周りが深い青で囲まれた大きな岩棚の間に、丸い部分に黒い線がくっついている青いオタマジャクシの様なものが描かれている絵だった。
青いオタマジャクシはほとんどが不規則に散らばっており、泳いでいる方向も若干ばらつきがある。
絵を見ているフロイド達が不思議そうな顔をしているのを見て、スレイドは身を乗り出してオタマジャクシを指さした。

「おおきいの、はやいの、これにくっついてるやつ、くいしんぼう、しきりや、びくびくしてるの」

スレイドが一つ一つ話しながら指さしているオタマジャクシは、よく見ると大きさも長さも違っていてちゃんと個体差があった。

「あ……あ~!確かにいたいた、そんな奴ら」
「確かに、彼らがまだいた頃はいつもこんな隊列で泳いでいましたね」
「うん。すっげー懐かしい」
「ええ。……おや?スレイドさん。これだけ他の兄弟達と形が違いますが、これもあなたの兄弟ですか?」

 群れの最後尾の方から少し離れた所に、二本の線で繋がっている二つのオタマジャクシが描かれていた。
拙い線で描かれているので、逆さまのサクランボの様にも見える。
それが気になったジェイドが絵を見せながら尋ねると、スレイドはジェイドの顔をぼんやりと見上げてから、絵に描かれているサクランボ状態のオタマジャクシを指さした。

「……いつも、はなれたところ、てをつないでる」
「……あ。ジェイド、これあの頃のオレ達じゃん!」
「え?本当ですか?」

フロイドはスレイドの言葉を聞いて、興奮したように声をあげた。
ジェイドがオタマジャクシを見返すと、頭にあるメッシュと思われる部分は、確かに自分達と同じ向きに生えていた。

「本当ですね。確かにあの時の僕達です」
「ウツボちゃん、オレ達の事全く知らなかった訳じゃなかったんだね」

嬉しそうに話している二人の顔を見上げて、スレイドは不思議そうに首を傾げた。

「ねえねえウツボちゃん。この手を繋いでる奴らって、こんなカンジの奴とこんなカンジの奴?」

そう言ってフロイドは、自分の目尻を指を使って一度下げて、次に思い切り引き上げた。
するとそれを見ていたスレイドは、ポカンと口を開けて目が零れるほど大きく見開いた。

「……なんで、しってるの?」
「やっぱり!ウツボちゃん、これ昔のオレ達だよ」
「え……」

嬉しそうに自分を指さすフロイドを見上げて、スレイドは難しそうな顔をして、フロイドの足を中心に彼の身体を触り出した。

「んん?……どしたの?」
「……あし、ちがう。て、ちがう。……でも、かみのけ、おなじ。め、おなじ。……どっち?」

突然の行動に困惑するフロイドの身体を、しばらくペタペタと触っていたスレイドだったが、フロイド達と自分との違いを確かめていたらしく、結局分からなくなってしまったスレイドは顔をしかめて、フロイドを見上げると首を傾げた。

「んふふ、そうだよね。今のオレ達全然違うもんね」
「わっ」

フロイドは機嫌良く、自分の膝にスレイドを抱き上げた。

「オレ達ねぇ、人魚だけど変身薬使って人間になってんだ」
「にんぎょが……にんげん?」
「不思議に思うでしょう?でも本当なんですよ」

ジェイドもフロイドの隣に座って、不思議そうな顔をしているスレイドの頭を撫でた。

「僕達人間の姿になってここで魔法の勉強をしているんです」
「べんきょう?」
「難しい事が沢山できるように、沢山の事を知るんです。勉強をすれば、こんな事もできるんですよ」

ジェイドがマジカルペンを振ると、半透明の青い小魚が現れて、スレイドの顔の周りを泳ぎ始めた。

「わあ……!」

いきいきと宙を泳いで彼の髪とじゃれつき始めた魚の幻影に、スレイドは目を輝かせて魚に両手を伸ばした。

「すごい、おれも、べんきょう、やりたい」
「あなたがもう少し大きくなったら、勉強できますよ」
「ウツボちゃんも大きくなったら、オレ達みたいに人間の姿になってここに通って勉強してんだよ」
「ほんと?」
「ええ、だから楽しみにしててくださいね」
「うん、たのしみ」

二人の笑顔を見上げて、スレイドも子供らしく笑った。

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