15、「あんたにとって、俺はあんな風に見えてたんだね」

ツイステッドワンダーランド生き別れのウツボの人魚

「ひとまず確認できた現時点で、寮生の被害者は三年生が五名、二年生が十三名、一年生が三名の計二十一名で全員ですか」

 何故かいないリーチ兄弟に代わって、三年生達の協力を得て談話室に集まってもらった寮生達を確認して、アズールは被害者達全員をリストアップした。
被害者達は軒並み適当な落書きみたいな顔に変わってしまっていて、VIPルーム前に来ていた二年生みたいに嘆いている者、誰とも分からない犯人に怒りを募らせている者、この現状に困惑している者と、反応は様々だった。
ちなみに顔が一人ホラーチックになってしまったスレイドは、誰かに顔を見られる度に驚かれたり、悲鳴をあげられたりするので、顔を隠すように他の寮生達からお願いされて、寮生達の集まりの後ろの方のソファで、抱えた膝の間に頭を埋めさせられていた。

「この中で、こういった状況になりそうな授業の失敗をした者はいませんか?……ちなみに黙っていても何にもならないので、正直に、速やかに名乗り出てください」

 商人としての経験で積み上げた鋭い観察眼を持つアズールを前に、嘘を隠して完璧に欺ける者は少ない。
そしてそれでもアズールを欺き、害を及ぼそうものなら、後の報復が恐ろしいのも、寮生達は骨身に沁みる程に理解している。
しかしそんな彼を前にしても、手を挙げる者は誰もいなかった。

「では、何か関わりがありそうな事を、思い当たる事をしっている方はいませんか?」 
「はい」
「はい、どうしました?スレイドさん」

周りを伺いながらも誰もが口を噤んでいる中で、集団の後ろの方で控えめに手を挙げたスレイドに、アズールが発言を促すと、彼は立ち上がって集団の前の方へ歩き出した。
 
「さっきから気になってたんだけどさ」
「なんですか?」

寮生達は今のスレイドの顔が怖くて、皆サメから逃げる小魚の様に逃げてしまう。
なのでソファから降りて歩き出したスレイドと前に立っていたアズールまで、一直線に道が出来上がった。
スレイドはそのままアズールの前に立つとアズールを、正確には彼が深く被っている式典服のフードを見つめた。
 
「アズール、なんでお休みの日に式典服なの?それに俺でもないのに、こんな室内でフード被っちゃってさ」
「……これは式典服のほつれを実際に着用した状態で確認していただけなので、お気になさらず」
「ふーん……えいっ!」
「なっ!?」
 
スレイドの問いに冷静な表情でありながらも、やや間を空けて答えるアズールを見て、スレイドはさほど興味なさそうな相槌を打ちながらも、相手が反応できない程のスピードで、アズールの式典服のフードを思い切り跳ね上げた。

「え、アズールその顔……」
「……うわっ、顔怖っ!?」

スレイドは露わになったアズールの顔を見て硬直し、対してアズールはどアップになったスレイドのホラーチックな顔を、ストレートに罵倒した。

「え、酷……まあ、今はいいや」

 どストレートな罵倒にスレイドは少し傷ついたが、気を取り直してアズールの顔をまじまじと見つめた。
アズールの顔は一見いつもと変わらないように見えたが、よく見るといつもより目がギラついていて、顔つきがいつもより漢らしく見える。
やや線画の線が太くなったように見えるアズールの顔を見下ろして、スレイドはカクリと首を傾げた。
 
「なんだろ。いつものアズールとそう変わらないのに、イデアさんが部活に持って来てたバトルシーンばっかりの漫画に出てきたキャラクターと雰囲気が似てるような……こういうのなんて言うんだろ?バイトわかる?」
「え!?あー……うーん……言っていいのかこれ?……アツクルシイ?」
「ああ、それだね。しっくりきた」

突然話を振られたバイトは、顔が変わったアズールを見つめると、気まずそうな顔でしばらく言い淀んでからようやく一言絞り出すと、スレイドはようやく納得した。

「それより、アズールもやられたの?」
「……ええ、不覚にも」

変貌したアズールの顔にポカンと口を開けている寮生達に目を向けてから、アズールは苦虫を嚙み潰したような顔をして頷いた。
 
「部屋には僕しかいませんでした。他の寮生達と同じ、犯人は見えなかった。おそらくこれは相手に直接掛ける魔法ではない。綿密に組み上げられた大規模な魔法か、魔法道具による犯行でしょう」
「大規模な魔法か魔法道具……その割にはあまり強力な魔力は感じなかったけど……」
 
アズールの考えにスレイドは首を傾げながら、幼馴染に意見を仰ごうと考えると、当のバイトは訝し気な顔で他の寮生を見ていた。
 
「バイト?どうしたの?」
「いや、みんなアズール先輩の顔に対しては反応薄いなあって。うちの寮長がやられたんだから、スレイドより騒がれそうなのに……って思ってたんだけどな」
 
バイトの言葉にスレイドも他の寮生達を見てみると、彼の言葉を聞いていた近くの寮生達は、気まずそうな顔や、面白がるような顔、それぞれ様々な表情を見せながら、暑苦しくなったアズールの顔を見た。
 
「いやスレイドのインパクトが強くて、そこまで思わないっていうか……」
「寮長の顔。ラウンジのフェアの初日とかだと、いつもあんなかんじだし」
「そうそう。アーシェングロットって、普段から商売絡むとこんなんだし。特にビジネスチャンスの時とかこんな顔じゃなかったか?」
「むしろ胡散臭さが減ってこれはこれでアリじゃない?」
「うるさいですよ!!」
 
主に上級生達を中心に、遠慮なく言いたい放題の寮生達相手に、アズールは目を吊り上げて大声で彼らの言葉を遮った。
 
「とにかく!なんとしても、この馬鹿げた事態を終わらせますよ!今日中に犯人を吊るし上げて、たっぷり慰謝料を請求してやります!!」



「……といっても、どうしようかな。闇雲に探したってエネルギーの無駄にしかならないし」
「なあスレイド、ちょっといいか?」

アズールから一旦解散を言い渡されて、散り散りになり始めた寮生達を眺めながら、スレイドはこれからどうするか思案していると、いつの間にか隣に立っていたバイトが声を掛けて来た。
 
「なに?」 
「ちょっと顔を触らせてくれ、診てみる」
「わかった。眼鏡持ってた方がいい?」
「ああ、頼む」

 バイトはスレイドに遮光眼鏡を渡すと、彼の顔に手を伸ばした。
バイトの僅かな魔力を纏った冷たい手のひらが頬に触れたので、スレイドが大人しく目を閉じると、慎重に動く指先が頬から鼻先へと滑る。
しばらくしてバイトの手が離れたので、スレイドがそっと目を開けると、彼は目を閉じたまま難しそうな顔で口元に手を当てていた。

「どうだった?」
「今の見た目のお前には鼻が無いけど、触ると鼻の感触があった。触った限りはいつもの顔と同じだ。顔が直接変わっている訳じゃねえ、そう見えるようになってるだけみたいだ」
「そうなんだ。じゃあ幻覚系の魔法かな?」
「ああ。でもただの幻覚魔法じゃねえな。……なんだろうな、これ。なんか違和感が……他の奴のも診てみるか」
「じゃあ、同じ学年の奴に声掛けてみようか」
「ああ」

 それからスレイドとバイトは、顔が変わってしまった同じ学年の被害者二人にも声を掛けて、彼らの顔を診させてもらい、一通り彼らの顔を診終わったバイトは、談話室のソファに座ると、考え込むように腕を組んで目を閉じるとそれきり動かなくなった。
スレイドは彼の隣に座って、じっと彼が目を開けるのを待つ。
談話室の外を泳ぐ魚が十五匹ほど窓を横切った頃、バイトはようやく目を開けた。
 
「バイト、どうだった?」
「バイトさん、何か分かりましたか?」
「あ、アズール」
 
スレイドが声を掛けたタイミングで、バインダーを持ったアズールがやって来た。
 
「ああ。アズール先輩の言った通り、これは一対一で掛けられた魔法じゃねえ。おそらく一対多数へ掛けるタイプの魔法だ。この魔法を掛けた大元の『何か』。それを叩けばこの魔法は解ける。……けど」
「けど?……なに?バイト」

途中で言葉を切って難しい顔をしたまま俯いたバイトに、スレイドは首を傾げて続きを促した。
 
「……一つの魔法を発動させたにしちゃ、診た奴の顔から感じる魔力量が少なすぎる気がするんだ」
「確かに。二十名以上の人間相手に一斉に掛ける魔法なら、もっと大きい魔力が必要となるはずですね」

アズールはバイトの話を聞いて小さく頷き、僅かにずれた眼鏡の位置を指先で直した。
 
「だろ?だったらこの学園の奴が一人も気づかないなんて事にならない筈だ。となるとおそらく魔法道具の類……それで何らかの条件を満たしてしまった奴相手に発動していると思う」
「なるほど、魔法道具ですか……」
「アズールの方は何かわかった?」
「ええ。……と言いつつも、犯人を特定する決め手にはなりませんでしたが」

スレイドはアズールが何か知っていそうな様子でこちらに訪ねて来たのを思い出して聞いてみると、彼はバインダーに挟んでいる紙を一枚捲り上げた。

「顔が変わってしまった寮生をリストアップしたら、見覚えのある名前の並びだったので、試しにモストロラウンジのシフト表を確認してみたんです。そうしたら被害者の生徒は全員、昨日シフトに出ていたメンバーでした」
「だから昨日シフトに出てなかったバイトは何も起こってなかったんだ……じゃあ、犯人は昨日のシフトを知ってた奴?」
「だったら、うちの寮の奴は全員知ってるよな。あとここで働きに来てる他の寮の奴」
「怪しい奴は大分絞れそうだね」
「他の寮の奴らはどうなんだ?スレイド達みたいな、落書きみたいな顔の奴はいたのか?」
「他寮のマジカメのアカウントを何人か確認してみましたが、そのような投稿は無さそうなので、今の所他寮生に被害者は出ていないと考えていいでしょう。……もし他の寮にも被害が出ていたら恩を売るチャンスがあったのに、本当に迷惑でしかない魔法だ」
「……アズール先輩、こんな時でも商売の事考えてたのかよ」

アズールはスレイド達に一頻り説明した後に小声で悪態をついたが、耳のいいバイトはそれをしっかり聞いていて、彼の見上げた商売根性にやや呆れた目を向けた。

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