15、「あんたにとって、俺はあんな風に見えてたんだね」

ツイステッドワンダーランド生き別れのウツボの人魚

「むうぅううう……」
「…………」
 
 寮生達が総出で捜査を始めてから数十分後。
昨日被害者が全員働いていたモストロラウンジに何かあるのではないかと考えたスレイドとバイトは、ラウンジのカウンターでホール全体を見渡していた。
あれからこれと言った進展も無く、時間だけがただただ過ぎていき、こうしている今も時折新たな被害者の悲鳴が聞こえてきて、寮内の被害は着々と広がっていく。
そんな中カウンター席に座っていたバイトは、気まずい思いでカウンターに凭れる形で立っているスレイドを横目で見上げた。
顔が変わってしまったスレイドは、見た目だけは表情が全く変わらないので、何を考えているのか非常に分かりにくい。
しかし明らかに苛立っている様子で、スレイドは俯いてしきりに小さな唸り声を出していた。
 
「あー……理由は分からなくもないけど、一応聞くぜ。どうしたんだ?スレイド」
「……なんか、イライラしてきた」
「イライラ?」

低い声で唸るように呟くスレイドの言葉に、バイトはその珍しさから目を丸くした。

「……珍しいな、お前これくらいの事じゃあんまり動じねえだろ?」
「みんな一々俺の顔見る度にビクビクしてさ。俺VIPルームでやった嘘泣き以外、何もしてないじゃない」
「あれのせいでビビってる奴もいると思うけどな」
「絶対犯人見つけて絞め落とす。じゃないと気が済まない」
「お、おう……」
 
まだ見ぬ犯人へ呪詛を吐くスレイドの本当の顔は、据わった目で眼光鋭く犯人を睨みつけているのだろう。
彼が纏う、どす黒く淀んだ空気に、バイトはたじろぎながらも小さく頷いた。 

「……よな」
「ああ……でも……は?」
「それが……だよな……」

 ヒソヒソとした話し声にスレイドが目を向けると、ラウンジのキッチンの入口で、顔が変わった二年生二人が自分へ向けて視線をやりながら話しているのが見えた。
それがなんとなく気になったスレイドは、カウンター席から降りて彼らに近づいた。 
 
「なに?どうしたの?」
「「うわっ!?」」

スレイドが二年生達に声を掛けると、彼らはスレイドの顔を見るなり、大袈裟なほどに飛び跳ねた。

「…………」
「わ、悪い。やっぱり分かってても、いざその顔を見るとビックリするからさ」

自分の顔で驚いた二人を無言で見つめると、自分が今かなり不機嫌なのが伝わったらしく、スレイドは彼らが慌てて謝る姿を真っ黒な目で時間たっぷり見つめてから、わざとらしくため息を吐いた。
 
「……まあ、今はいいや。何か気づいたみたいに見えたけど、何かあったの?」
「あ、ああ。お前の顔見てたらリーチ達も昨日のシフトに入ってたの思い出してさ。あいつらの顔はどうなってるのかな、って話してたんだ」

 彼らが言った通り、今日スレイドは一度もリーチ兄弟二人の姿を見ていない。
先程VIPルームに押し掛けていたメンバーの内、一部の二年生が彼らに連絡を取ろうとしていたのを思い出して、スレイドは「ああ」と声を漏らした。 
 
「そういえばすっかり忘れてた。あいつらも顔変わってるのかな?」
「だと思うだろ?……でも。……だとしたら、おかしくないか?」

もう一人の二年生が、一段声を落としてスレイドに尋ねた。

「なんで?」
「だってこれだけ寮生が騒いでるのに揃って姿が見えないんだぜ?いくら寮の外にいたとしても自分が被害に遭ってたら、どこかで騒ぎになって誰かの耳には入るはずだろ?」
「言われてみれば……そうだね」
「もしかしたらあいつらが犯人、もしくはそれに関わってるとk「ジェイドーーー!!!」」

 二年生の憶測を打ち破るように、ドアを乱暴に開けて怒鳴り声を発しながらモストロラウンジに入って来たのは、この騒動が起こってから一度も姿を見せていなかった双子の片割れの、いくらかすっとぼけた雰囲気の顔に変わってしまったフロイド・リーチだった。
どうやら相当怒っているらしく、ドスドスと床を鳴らしながらラウンジのホールを歩き回っている。
ラウンジにいた寮生達は、怒っている彼にすっかり気圧されて、小魚の様に散り散りに逃げて行った。

「騒がしいですよフロイド。……って、ああ……お前もやられたんですね」

怒声をまき散らすフロイドに、ちょうどラウンジに入って来たアズールが苦言を呈したが、適当に描いた顔みたいになったフロイドの顔を見て苦い顔をした。
 
「アズール!ジェイド見てない!?これ絶対アイツだって!」
「……なんですって?」

何かを知っている様子のフロイドに、アズールがツカツカと歩み寄って彼の肩を思い切り掴んだ。
人間離れした握力を持つアズールの指がフロイドの両肩に食い込んで、フロイドは途端に涙目になって悲鳴をあげた。
 
「いだだだだ!!痛いって、肩外れるってアズール!」
「フロイド、知っている事を全て吐きなさい」
「分かった!分かったから!!手ぇ離せってば!!」
「…………」
  
ドスのきいた低い声で瞳孔をかっ開いて、脅すように迫るアズールに対して、フロイドが全力でバシバシと彼の手を叩いて抗議したので、彼は舌打ちでもしそうな顔のままフロイドの肩から手を離した。

「いってえ~~……マジ、骨逝ったかと思った」
「手加減はしてやったんです、早く話しなさい」
「分かったってば」

ようやく解放されて痛そうに肩を摩るフロイドに、アズールが鼻を鳴らしながら話を促すと、彼は悪態をつきながら事の経緯を話し始めた。
 
「オレが昼食を作ろうと思って部屋からラウンジに移動してたら、廊下でジェイドを見かけたんだよ。遠くだったからよく見えなかったけど……その時なんか抱えてたのが見えたし、めっちゃ楽しそうな顔してたから。あれ絶対面倒くさい事起こす時の顔だったって」
「お前がそこまで言うなら、何かしらこの騒動の原因の一つになっているでしょうね。……それで、今ジェイドはどこに?」
「知らねーって!オレも顔がこんなんになってから、ずっと学園中探してるけど見つからねえし」
「隠してもタメになりませんよ。知ってるなら教えなさい」
「だから知らねぇってば!!」
 
詰め寄るアズールと、彼の迫力に気圧されるフロイドのやり取りと聞いていたスレイドは、カウンターで座っていたバイトの元へ戻り、彼の耳元へ顔を寄せた。
 
「……バイト、聞いた?」
「ああ」
「自律する疑似餌(オート・デコイ)、使ってよ」
「はあ……だよな」

予想はしていたとはいえ、自分にユニーク魔法を使わせようとするスレイドに、バイトはため息をついた。
確かに姿が見えないジェイドを探すなら、バイトのユニーク魔法を使うのが一番手っ取り早いが、魔法に使う魔力量だって馬鹿にならないので、そう易々と使える代物でもないのだ。
 
「ねえ、早く」
「ああ、はいはい。わかったよ」

乗り気でないバイトの態度は、機嫌の悪いスレイドの癪に障ったらしい。
有無を言わさないスレイドの低い声を聞いて、バイトは半ば投げやりになって、自分のマジカルペンを構えた。

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