15、「あんたにとって、俺はあんな風に見えてたんだね」

ツイステッドワンダーランド生き別れのウツボの人魚

「あれ、顔が戻ってる!」
「戻った、やった!」
「よかったあ……このままだとどうしようかと思った……」
  
 ラウンジのホールでは、突然顔が元に戻った寮生達によって賑わっていた。
安堵から涙を浮かべる者、未だに分からない原因に首を捻る者、寮生の反応は様々だが解決した問題に対して、純粋に喜ぶ者が大半だった。
アズールとフロイドも元の顔に戻ったが、彼らだけはまだ怒りの表情を浮かべて、犯人疑惑のあるジェイドを探しているが、まだ見つかっていない。
その事に二人が苛立っていると、突然大きな音を立ててラウンジの扉が開いた。
その音に反応した寮生達が振り返ると、ムスッとした顔のスレイドが、意識を失っているジェイドの襟ぐりを引っ掴んで、ズリズリ床に引きずりながらラウンジに入って来た。
 
「スレイドさん?……と、ジェイド!?」
「ウツボちゃん、そいつどうしたの?」 
「絞め落とした。犯人はジェイドと……これのせい」

 そう言ってスレイドは、ジェイドをラウンジの真ん中の床にうつ伏せの状態で放り投げると、もう片方の手で持っていた何かを、彼の背中に向けて思い切り叩きつけた。
アズール達が近づいてスレイドが叩きつけた物を確認すると、倒れ伏すジェイドの背中の上にあったのは、黒い表紙のスケッチブックだった。

「これ何?」
「スケッチブックですか?」
「触るだけなら大丈夫だよ。その中を見て欲しい」
「……うっ!!」
「何?……うわ~……」 
 
 スレイドに促されてスケッチブックを拾ったアズールは、ページを開いてその内容に顔を強張らせ、アズールの後ろから中身を覗き込んだフロイドは、すぐさまドン引きした顔を見せた。
彼が持っているスケッチブックには、顔が変わってしまったオクタヴィネル生の顔と、全く同じ顔の絵がびっしりと鉛筆で描かれていた。
その中央には暑苦しいアズールの顔と、すっとぼけたフロイドの顔があり、端の方にはホラーチックなスレイドの顔もある。
アズール達の反応を一通り見てから、スレイドは幼馴染の真似るようにフンと鼻を鳴らして腕を組んだ。
 
「どこで手に入れたのか知らないけど、これ魔法道具だよ。多分絵を描くと、対象がその絵の姿通りになってしまう物だと思う」
「なんて傍迷惑な魔法道具なんだ……」
「まあ込められてる魔法はそこまで強くないから、明日には解ける程度の魔法だと思うよ。だからそんなに危ない魔法道具だとは思われなかったんじゃないかな。……そうだよね、ジェイド」
「……ぅ……ふふふ……さすがですねスレイドさん。正解です」

スレイドが冷たい声を投げかけると、とっくに起きていたらしいジェイドは、笑いながらムクリと起き上がった。
 
「実はサムさんのお店の片隅で隠れるように売っていたんです。ちょっとしたイタズラや罰ゲームを目的にした魔法のジョークグッズらしく、面白そうだったのでつい購入させてもらいました。中々上手に描けていたでしょう?」
「…………あっそ。あんたにとって、俺はあんな風に見えてたんだね。よーくわかったよ。じゃあ、後はあんた達に任せるよ。アズール、フロイド」

種明かしをしながら楽し気に笑うジェイドの顔には、一切の反省の色が浮かんでいない。
その様子を見て頭の中の何かが切れた気がしたスレイドは、底冷えするような冷たい声をジェイドに落として、さっさとアズールとフロイドに引き渡した。
彼が数メートルその場から離れると、入れ替わりでフロイドとアズールがその場に立った。
 
「ありがとうございますスレイドさん。後は僕達にお任せください」
「ちゃんと残しといてくれてありがとうねぇ、ウツボちゃん」
「もう俺は充分やり返したから。魚の餌にするなり、サメの巣に放り投げるなり、あとはあんた達で好きにしなよ。バイト、行こう」
「お、おう」 

黒いオーラを纏いながら笑顔でお礼をするアズールとフロイドに対して、スレイドはチラリと彼らを一瞥すると、それきりジェイドに興味を失ったような口ぶりで言い捨てて、そのまま遠くで傍観していたバイトを連れてラウンジの外へ出て行った。
 
「ジェ~イド♡」
「ジェイド」

頭上からのこの場にそぐわない甘い声と、ドスの効いた低い声にジェイドが顔を上げると、不自然なほどニッコリしているフロイドと、絶対零度のキレ顔を見せているアズールが、逃がさないと言わんばかりの迫力で自分を見下ろしていた。
ここ数カ月の中で一番怒っている様子の二人に、さすがのジェイドの顔にも冷や汗が流れ始めた。  

「あの……フロイド?アズール?」
「オクタヴィネル寮生を代表して、寮長の僕がしっかりと灸を据えてやりますよ。ジェイド」 
「あはっ。……全力で締めてやるよジェイドォ」
 
 その後アズールからのアイアンクローと、フロイドの全力の絞め技により、しばらくの間ラウンジにはジェイドの苦悶の声が響き、彼らの渾身の仕置きの様子を見ていたオクタヴィネル寮生達は、何も言えずにその場で震えあがったのだった。

2024年11月5日 Pixivにて投稿

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