「ここね!ギアステーション!!」
休日で賑わうライモンシティ。
シンオウ地方からやって来た少女ヒカリは、この街でも有名なバトル施設、バトルサブウェイがあるギアステーションに訪れていた。
ヒカリがイッシュ地方に来たのは初めてだったが、イッシュに来て沢山の観光地がある中、真っ先にギアステーションに向かったのは理由があった。
実はヒカリは数カ月前まで行方不明になっていた。
伝説のポケモンのアルセウスにより、ヒスイ地方という過去のシンオウ地方に飛ばされてしまったのだ。
その時はヒスイに飛ばされる前の事を覚えておらず、「ヒカリ」という名前すら忘れていたので、ヒカリは「ショウ」という名前でヒスイの地を生きる事にした。
右も左も分からない状態から、アルセウスの「すべてのポケモンとであえ」という言葉に従い、様々なポケモン達と出会い、ラベン博士や先輩のテルなどの協力を得ながら、ヒスイ地方のポケモン図鑑を作り上げた。
現代でのポケモンに対する常識が一切通じなかった過酷な世界の中、ヒカリはある人物と出会った。
彼の名前はノボリ。
ヒカリと同じくヒスイの地に飛ばされてそれ以前の記憶を失い、シンジュ団で長らくキャプテンを勤めていた男だ。
ヒカリとのポケモン勝負を通して記憶が僅かに戻った彼は、ヒカリとはまた違う形でポケモンとの共存を目指した。
違う時代から来た者同士である事と、何度も訓練所でポケモン勝負をしてから意気投合し、仲良くさせてもらっていた。
それから元の世界に戻る為の手段を一緒に探すようになり、二人の数年間の努力が実り、ようやく元の世界へ帰る方法が見つかったのだ。
二人の帰る場所は別々だったので、ノボリと別れる前に、「もしお互い無事に元の世界へ戻れたのなら、また会おう」と約束をしたのだ。
そしてノボリと別れて元の世界に戻ると、驚く事にヒスイの世界では数年経っていたというのに、元の世界ではほんの数カ月しか経っていなかった。
帰って周りの騒動がある程度落ち着いてから、現代のノボリについて調べてみると、彼がイッシュ地方では有名人だと知って、驚いたと同時に「そりゃバトルも強いよね」と納得した。
どうやら彼の場合は、行方不明になってから数日しか経っていないらしく、同時に彼の双子の弟も行方不明になっていたらしい。
まだ大騒動の最中にいるらしいが、今では普通の仕事に戻っているそうだ。
それからのヒカリの行動は早く、行方不明の状態から戻ったばかりで心配する両親を説得して、ここライモンシティにやって来たのだ。
「わあ……すごい人」
ギアステーションの入口の階段を降りると、沢山の人で溢れかえっていた。
ギアステーションではバトルサブウェイ以外にも、イッシュ地方の交通手段として運行しているので、休日に人が多くいるのは当たり前なのだろう。
しかし道行く人達の大半はモンスターボールを持っているのと、妙に目がギラついている人が多かったので、彼らもヒカリと同じバトルサブウェイ目当てだと見て取れた。
「さて、と……どこに行けば乗車できるのかな……あれ?」
目的地が分からないヒカリは、一旦ここの場所を把握する為に全体を見ようと壁際に下がると、そこに貼られている大きなポスターを見つけた。
「……『土日限定、新トレイン試運転開始!バトルに勝って新衣装のサブウェイマスターに挑戦しよう』?」
そこには二つの異なったデザインの電車と、サブウェイマスターと思われるポーズをとった二人組のシルエットが描かれていた。
「このコート……ノボリさんだよね……」
シルエットでも分かるボロボロのコート、彼のトレードマークになっていたあのコートだ。
ヒカリは懐かしさに目を細めて、ポスターに載っている内の一人のシルエットに手を滑らせてしばらく眺めていると、シルエットの下に文字がある事に気が付いた。
「ヒスイトレインとニュートレイン?」
文字を読んでみると、新トレインのルール説明が書かれていた。
文章を読み進めている内に、その内容に目を見開いた。
「この時代で、ヒスイのバトルができるの?」
ヒスイトレインのバトルルールには、現代ではとうに廃れているヒスイ時代でのバトル形態で戦えると書いてあった。
ヒスイの世界から連れて来た手持ち達も、ようやく現代のポケモンバトルに慣れてきたけれど、たまに物足りなさそうな顔をする事があったので、今までやっていたバトルをするのはいい刺激になるだろう。
ヒスイトレインに乗る事に決めたヒカリは、ルール説明の下に駅構内の地図と参加方法に目を通すと、早速その場所へ向かおうとした。
「よし、ヒスイトレインはこっちね。……いたっ」
意気揚々と歩き出した矢先に、ヒカリは目の前にいた青い服を着た少年とぶつかってしまった。
「あっ、すみません!」
「こちらこそ、ごめんなさい。怪我は?」
「大丈夫!ありがとう。……あなたもバトルサブウェイに挑戦しに来たの?」
ヒカリが少年が持っている壁のポスターと同じデザインのチラシに気づいて話し掛けると、彼はパッと表情を明るくした。
「ああ、そうなんだ。もしかして、君も?」
「そうなの。私、会いたい人がいるんだ」
「じゃあオレと同じだね、オレも友達に会いに来たんだ」
「そうなんだ、すごい偶然だね!私はこのヒスイトレインに乗るつもりだけど、あなたはどれに乗るの?」
「オレはこのニュートレインに乗ろうと思ってるよ」
ヒカリが地図に描かれているヒスイトレインを指さすと、彼はその隣のホームにあるニュートレインを指さした。
「そっか、お互い頑張ろうね!」
「ああ。お互い、いいバトルができるといいね」
会話もそこそこにヒカリは少年に手を振って別れると、先程の駅の地図を思い出しながら、ヒスイトレインのホームへ向かった。
「わあ、すごい!」
目当てのホームで待っていたのは、一昔前の時代を連想させるトレインだった。
他の機能美に特化させた無駄のないデザインの電車とは違い、このトレインは全体を茶色に統一した趣深いレトロなデザインとなっている。
「バトルサブウェイにようこそ!こちらではヒスイトレインの乗車をご案内しております。ヒスイトレインの乗車をご希望ですか?」
ヒカリが新トレインに見惚れていると、近くにいたてつどういんの男性に話しかけられた。
どうやらヒカリが立っていたのは、バトルサブウェイに乗車する時の受付をする場所だったようだ。
「あっ、はい!」
「こちらのヒスイトレインでは一から七戦目まではトリプルバトル、八戦目から最後の十四戦目までは特別ルールのヒスイバトルでバトルが行われます。それでは参加するポケモンを三体選んでください」
「この子達でお願いします!」
「!……はい、分かりました。ではヒスイトレインへご案内いたします」
てつどういんはヒカリが見せたヒスイ時代のモンスターボールを見て、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに元の営業スマイルに戻って電車の乗車口へ案内をした。
それからヒカリは順調に勝ち進め、あっという間に最後の車両の前まで辿り着いた。
この短時間で勝ち進めたトレーナーはそういなかったらしく、十二連勝した後の六両目で勝利した時に、相手のトレーナーはとても驚いた顔をしていた。
そんなトレーナーを横目に、ヒカリは最後の車両の扉の前に立った。
この先に、ノボリさんがいる。
現代に戻った彼はどんなバトルをするのだろう、それが今からでも楽しみで仕方ない!
自動開閉の扉が開かれて、ヒカリはノボリの待つ最後の車両へ足を踏み出した。

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