バトルサブウェイ 新トレイン試運転開始!

サブマス一話完結小説ポケモン(サブマスメイン)

「……!」 
 
 七両目へ一歩踏み出した瞬間、空気が変わった。
電車の内装はどの車両も同じで、見た目は全く変わっていない。
しかし、普段入らないランクの高い格式ばったレストランにでも初めて入ったかのような緊張感に、カルムは思わず足を止めた。
そこにいたのは、あの世界にいた時よりも遥かに成長して、大人になった姿の友人だった。
ピンと糸が張ったように背筋を伸ばして、揺れる電車の中でもそれがぶれる事はなく、彼は後ろで手を組んでそこに立っていた。
ずっと年上になってしまった友人は穏やかな笑みを浮かべると、レストランでしていた時と同じように胸に手を当てて、優雅な所作でお辞儀をした。
 
「本日はニュートレイン、ダブルローテーションコースにご乗車頂き、誠にありがとうございます。ぼくはクダリ、サブウェイマスターをしております」
 
少し戸惑ったカルムだったが、お辞儀をする姿は大人になった今の彼に合っていて、とても様になっていた。
 
「人は皆人生という線路を走る電車のようなもの。そして過ぎゆく記憶は薄れゆくものでございます。そしてそれは終わったポケモン勝負も例外ではありません。なので今回のポケモン勝負、互いの記憶に刻みこむため、全身全霊で打ちこませていただきます。……じゃあ、人とポケモンの華麗なコンビネーションが織りなすすっごいバトル、心ゆくまで楽しもう!」

 顔を上げてモンスターボールを構えたクダリは、先程までの紳士然とした振る舞いとは一変して、無邪気な子供の様な顔つきで、目だけをギラギラと光らせてカルムを射抜いた。
彼が本気で戦える時にだけ見せていた好戦的な笑顔は、あの時と全く変わってなくて、カルムの背筋にゾクリと震えが走る。
クダリから放り投げられた六つのボールと同時に、カルムも自分のとっておきの仲間達が入ったボールを放り投げた。


 
 結果はクダリの勝利だった。
もちろんカルムも粘って最初は有利になっていたが、今までの連戦で集中力が一瞬切れた所を突かれて戦局を一気にひっくり返され、最後に立っていたのがクダリのポケモン達だった。
負けた悔しさもありながら、カルムの心は清々しい気持ちだった。
それだけ楽しいバトルだったのだ。
ポケモンを自分のボールに戻すと、クダリが満面の笑みで駆け寄って来た。
 
「ゼノ!……じゃなかった、カルム!久しぶり、また会えて嬉しい!」
「久しぶりだね、クダリ。本当に大人の人だったんだ」
「うん、ぼくとっくに大人。嘘じゃなかったでしょ?」

 クダリは「えっへん」と言わんばかりに、腰に手を当てて胸を張った。
あの世界ではカルムより少し低い身長だったのに、今ではすっかり追い抜かれて、自分の頭が彼の肩くらいの高さになっている。
あの世界にいた頃の彼は、カルムと同じくらいの年の筈なのに、もう大人達の中で立派に働いていた。
オフの時の口調や仕草は見た目の年相応なのに、時折すごく大人びた顔で、それでいて今の現実をしっかり見据えている不思議な少年だった。
「ぼくもうとっくに大人!」とずっと周りに言っていたのは、背伸びをして言っていたのではなく、本当の事だったのだ。

「カルム?どうしたの?」
「ああ、ごめん。少し考え事をしていたよ。……呼び方をクダリさん、に変えた方がいいのかな?って」

カルムがバトルが終わってから考えていた事を伝えると、クダリは首をぶんぶんと横に振った。
 
「ううん、クダリがいい!クダリって呼んで」
「よかった。さん付けだったらなんだか距離を感じてしまうから、少し不安だったんだ。その新衣装も、よく似合ってるよ」
「この服デザイナーさんの力作!ちょっと恥ずかしいけど、ぼくもすっごく気に入ってる」
「まるで王子様みたいだね」
「えへへ……ありがとう」
 
 カロスでバトルをする時は、いつもぶかぶかの白いコートを着ていたが、全く違いつつもそのコートも連想させる華やかで真っ白なデザインの服は、彼にとても似合っている。
カルムが素直に褒めると、クダリは照れ臭そうに笑った。


 
「……あっ、ねえカルム。これから時間ある?」
「大丈夫だよ。でもどうして?」

それから座席に座って互いの近況を話していると、突然のクダリからの質問にカルムは首を傾げた。

「ぼく、カルムをノボリに紹介したい」
「!……君が言っていたお兄さん、会えたんだね」
「うん!ぼくの自慢の双子のお兄ちゃん。……いいかな?」
「クダリがいいなら、オレもぜひ会ってみたいな」
「よかった!じゃあちょっと待っててね」
 
手首に着けていたライブキャスターを操作すると、その画面に映った人物と話し始めた。
  
「ノボリ、お疲れ様!こっちは今バトル終わった、そっちはどう?……よかった!ぼくノボリに会わせたい人がいるの、ぼくがカロスにいた時のお友達。だから少しだけでも会える時間ないかな?……うん、待ってる!」

クダリはしばらくライブキャスターから視線を外すと、再びライブキャスターに視線を落とした。
 
「うん。……ほんと!?すっごい偶然!ぼくも会いたい!もうすぐぼくたちライモンシティに戻るからどっちかのホームで落ち合おうよ。……そうだね。……うん。……分かった、じゃあ待ってる!……うん、じゃあまたねノボリ」

クダリがライブキャスターの通信を切ると、もう一度カルムの隣に座り直した。
 
「ライモンシティに着いたら、ノボリが隣のホームから来てくれるんだって。ノボリもぼくに会わせたい人がいるみたい」
「隣のホームって……確かここと同じ新車両が走っているホームだよね?」
「うん!ノボリが担当しているヒスイトレイン!あっちも圧倒的不利な状況をひっくり返す為に、自分とポケモンとの連携が大切になるすっごく楽しいポケモンバトル!カルムにも乗って欲しい!」

『まもなくライモンシティ、ライモンシティでございます。お出口は左側です』
 
そうして話している間に、減速を続けていた車両がようやく止まり、自動ドアが開かれた。
 
「じゃあ行こう、カルム」
「ああ」

クダリに案内されて、カルムは彼の兄に会う為にライモンシティのホームに降り立った。

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