「ノボリ、お疲れ様!」
「クダリ、お疲れ様です」
ライモンシティのホームに降りると、そこにはクダリそっくりの男性と先程ぶつかった少女が立っていた。
クダリは二人を見つけると、嬉しそうに手を振りながら彼らの元へ駆け寄った。
「あれ、さっきの?」
「あっ、さっきぶり!あなたが会いたい友達ってその人だったのね」
「おや、ヒカリさま。この方とお知り合いなのですか?」
「知り合いというか、さっき上でぶつかってしまって」
「わあ、すっごい偶然!」
カルムとヒカリが互いの事を知っている様子を見てノボリが尋ねると、ヒカリがカルムの事を知っている経緯を説明をすると、クダリは嬉しそうに目を輝かせた。
「ノボリ。この子カルム、カロスにいた時のお友達!」
「カルムです、よろしくお願いします」
「ノボリと申します。クダリと仲良くしてくださり、ありがとうございます」
「オレもクダリに何度も助けられたんです。彼がいなかったらオレは元の世界に帰れなかった」
「あなたも無事に元の世界に戻って来る事ができて良かったです。ぜひわたくしのヒスイトレインにも挑戦してくださいまし」
「はい、ぜひ!」
僅かに微笑みながら自己紹介するノボリに、カルムは大きく頷いた。
「クダリ、こちらがヒカリさまです。ヒスイの地にいた時に何度も助けていただいた、わたくしの恩人でございます」
「ヒカリです、初めまして。私もノボリさんにたくさん助けてもらったんです」
「ぼくクダリ。ノボリの側にいてくれてありがとう!ぼくのニュートレイン、ううん、それだけじゃなくて他のトレインにも乗ってぼくともバトルして欲しいな」
「はい!」
嬉しそうに話すクダリを見上げて、ヒカリも笑顔で返事をした。
「ああ、うっかり忘れておりました。ヒカリさま、カルムさま、お二人にこれを」
ノボリが胸の内ポケットから取り出して二人に渡したのは、バトルサブウェイの二つの新トレインが、丸みのある形にアレンジされたポップコーンバケットと、バックに観覧車の絵が描かれた割引券だった。
「ポップコーンの割引券?」
「ノボリさん、これは?」
「新トレインにご乗車いただいた方全員にお渡ししている、参加賞でございます」
「ヒスイトレインかニュートレイン、どちらか選べる特別バケット付き!ライモンシティの遊園地の期間限定発売!おかげで遊園地もギアステーションにもお客様が来てくれてるから、今どっちもすっごく賑わってる」
「最近遊園地もポップコーンの味の種類を増やしたそうで、塩、キャラメル、醤油バター、カレー、他にもいくつかあるそうです」
「へえ、美味しそう!遊園地にもあまり行った事ないんで、あとで行ってみますね」
遊園地と聞いて顔を輝かせたヒカリを見て、クダリは「行くなら二人乗りだけど観覧車がオススメだよ」と付け加えた。
「あ。あと、よかったら新しく発売したギアステーションの駅弁も食べてみて。ぼくが監修したんだ」
「ボリュームたっぷりで電車の長旅のお供にも最適。見た目も華やかで、ギアステーションでも大人気の商品でございます」
「クダリがたまに作ってくれた料理は、どれもすごくおいしかったからね。君が監修したなら、きっと間違いないだろうね」
発売前に既にクダリから手作りの試作品を食べていたノボリは、カルムの言葉を聞いて自慢げに「ええ、間違いございません」と深く頷いた。
「それとノボリが教えてくれたおにぎりも大人気!種類もたくさん、イッシュじゃあまり見ない食材が入ってるのもあるよ」
「片手で手軽に食べられるサイズですので、こちらは毎日仕事と戦うビジネスマンや、バトルサブウェイで一日中バトルをされる方に好評らしく、ありがたくもよく売れております」
おにぎりの話を聞いて「それ兵糧扱いされてるんじゃ……?」と思ったヒカリだったが、口角は上がっていないのにどこか嬉しそうなノボリを見て、黙っている事にした。
「更に今回駅弁を発売するに至り、ご協力いただいた会社が作っているガラルダルマッカの容器に入った他地方限定販売の駅弁も、発売中でございます」
「こっちは数量限定販売!容器は洗って小物入れにする事もできるよ」
「ああ、ダルマッカ弁当だね」
「カルム君、よく知ってるね」
「カルムでいいよ。家のテレビでこの前見たんだ」
知っている駅弁の存在にカルムが小さく相槌を打つと、そう言った事に疎いヒカリは驚いて彼を見上げた。
「それにしても、新トレインに新発売の駅弁と、遊園地でのポップコーンバケットって、こんなに一気に新しい事を始めるの、大変だったんじゃないですか?」
並大抵の頑張りでは実現できないだろうとヒカリが尋ねると、クダリは若干遠い目をした。
「最初は新トレインと新衣装のお披露目だけの予定だった。でもノボリがぼくの料理を食べて駅弁の販売を思いついて、繁忙期シーズンの遊園地とのコラボを思いついて、全部一緒にする事にしたんだ。ノボリが考えたアイデア全部面白い。だからぼくも全部やりたくなって、大変だったけどぼく達二両編成ですっごく頑張った」
「あ、あはは……お疲れ様です」
「実はちょっとだけ化粧で隈隠してる」と言ってクダリが目元を指さしたのでヒカリが覗き込んでみると、確かに彼の目の下には目立たない程度にコンシーラーが塗られていた。
それを見てどうリアクションすればいいか分からなかったヒカリは、取り敢えず笑って誤魔化した。
「こちらの世界に戻ってから、しばらく経ってようやく気づきましたが、あなた本当に徹夜ができなくなりましたね」
「カロスにいた時真夜中まで起きてたら怒られてたから、早寝早起きの方が得意。ノボリは前以上にいつ寝てるか分からなくなった。なのにいっつも元気、ちょっと羨ましい」
「時と場合によっては不寝番を任される事もあったので、多少の無茶は利きますよ」
「無茶はダメって、ぼく前から言ってる」
眉間にグッと力を入れて、ジトリとノボリを睨むクダリに対して、暖簾に腕押しと言わんばかりの彼の反応に、カルムは「これはノボリさん、クダリに怒られ慣れてるな」と思ったと同時に、どこかそれすら楽しそうにしている二人をとても微笑ましく感じた。
すると突然、ノボリ達のライブキャスターから同時に着信音が鳴った。
「失礼。……はい。……ええ、分かりました」
「あっ、ちょっと待ってね。……はい、分かった。すぐ行く」
彼らはヒカリ達から離れて、ライブキャスターの向こうにいる相手と一言二言話すと、すぐに戻って来た。
「シングルトレインの挑戦者の方が勝ち上がっているそうです。クダリもですか?」
「ぼくもダブルトレインに挑戦者!」
「ヒカリさま。本当はもう少し時間を掛けてお話をしたかったのですが、トレインの呼び出しが来ましたのでこれで失礼します。またお会いできて嬉しかったです、いずれまたお手合わせしてくださいまし」
「いいえ気にしないでください!またノボリさんに会えてよかったです。お仕事、無理しないで頑張ってください」
「カルム、また会えて嬉しかった!良かったら他のトレインにも乗って、ぼく待ってる!」
「ああ、君に会う為にまた挑戦しに行くよ」
ノボリとクダリは、それぞれ会いに来てくれたかつての知己に礼を言うと、やや駆け足で次の挑戦者が待つトレインへ向かって去って行った。
「ノボリさん、元気そうでよかった……」
「……クダリ、また会えてよかった」
ノボリ達を見送った二人は、隣からの声に目を向けると、互いにバチリと目が合った。
それが何故だかおかしくて、二人はどちらからともなく吹き出して笑い合った。
「ねえカルム。これから一緒に二人でマルチトレイン、乗ってみない?」
「いいね。ここで出会ったのも何かの縁だろうし、一緒に挑戦してみようか」
「じゃあレッツゴ……あ」
早速マルチトレインのホームへ向かおうと意気込んだところで、それを遮る様にヒカリお腹から空腹を訴える音がした。
「あはは……バトルに集中してたから、お腹空いてたの忘れてた」
赤面してお腹をさするヒカリを見て、カルムは口元に手を当てて笑った。
「まずは何か食べてからにしようか。さっきクダリが言ってた駅弁を買いに行こうと思うんだけど、ヒカリも一緒にどうかな?」
「私も行く!ノボリさんが言ってたおにぎり食べたいから。ああでも、ダルマッカのお弁当とクダリさんの駅弁も気になるな……」
「じゃあ二人でそれぞれ違う物を買って、気になるおかずがあれば互いに交換しようよ」
「それいいね!駅弁を売ってる場所は確かカナワタウン行きのホームだったよね」
「えっと、確かチラシの地図じゃ……本当だ。もしかして、さっきの地図を見ただけで覚えたの?すごいねヒカリ」
「えへへ、地図を見て場所を覚えるの得意なんだ」
早くも打ち解けた二人はにこやかに話しながら、多くの人で賑わうホームの階段を上って行った。
2024年6月23日 Pixivにて投稿

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