後日、タッグバトルの大会を終えたトロッコサブウェイは、リニューアルにより多くの挑戦者で賑わっていた。
新たな強豪チームが揃い、大会の経験を経て更に強くなったサブウェイマスターとのバトルは、挑戦者達には大変好評だった。
夜になって最後の挑戦者が帰るのを見届けたノボリとクダリは、トロッコの車両や線路の点検をしていた。
「クダリ、こちらの車両点検は終わりました」
「うん。こっちももう少しで終わるから、入り口で待ってて。晩ごはん一緒に食べよう!」
「そうですね、では入口で待っています。後はお任せしますねクダリ」
「うん」
クダリに後の点検を任せて、ノボリはシャンデラを連れて洞窟の外へと向かおうとすると、シャンデラがさりげなくノボリより半歩前に出て、自分の炎で地面を照らし始めた。
線路が敷かれた岩の地面は平坦に舗装されているが、枕木も含めて細かい段差が続いているので、地下の暗がりに慣れているノボリでも、油断をしていては足を取られてしまう。
それを分かっていたシャンデラは、ノボリが転ばないように気を配ってくれたのだ。
「ありがとうございます、シャンデラ」
ノボリが礼を言うと、シャンデラは少しだけノボリを振り返って小さく鳴いてから、また前を向いてノボリの進む道を照らしていった。
彼の炎は懐中電灯などの人口の光に比べて遥かに柔らかく、ほんのりと地面の輪郭を紫色に浮かび上がらせる。
思えばノボリがまだ子供だった頃から、そして彼がヒトモシだった頃からこの頼もしい炎に何度も助けられてきた。
旅の途中で暗い森の中を歩く時、バトルサブウェイやトロッコの点検をする時、どんな時でも彼は自分の道行く先を照らしてくれる。
自分が暗い場所で迷ってしまっても、彼の炎が目的地へいざなってくれる。
彼の炎を見ているとそう思える安心感があるのだ。
彼の炎に導かれて洞窟の外に出ると、少し肌寒い風がノボリ達の顔に当たってきた。
冬の足音が近づいている山の夜は風も冷たくなっていて、衣装で重ね着をしていてもやや肌寒い。
ふたりの頭上から降り注ぐ柔らかい銀色の光にノボリが空を見上げると、澄み渡る星空の真ん中に大きな満月がぽっかりと浮かんでいた。
「夜にしては明るいと思いましたが……今日は満月だったんですね」
しばらくその満月を見つめていたノボリだったが、視界の端で揺らめく炎に気づいて、隣で一緒に月を見上げているシャンデラを見つめた。
月光に照らされたシャンデラの炎は、洞窟の中の時とはまた違った、淡くて柔らかい色で燃えている。
その美しさに見惚れるノボリの視線に気づいたシャンデラは、不思議そうに彼を見つめ返した。
「ふふ……あなたの炎はいつも綺麗ですが、夜空の下だと一層美しく見えますね」
ノボリ控えめな笑みを浮かべながらガラスの身体を撫でると、シャンデラは嬉しそうに自分を撫でてくれる手に頬擦りをした。
彼はしばらく手袋越しのノボリの温かさを堪能すると、何か思い立ったように少し開けた場所へ向かって飛んで行った。
「シャンデラ?」
不意に離れていった彼を不思議に思ったノボリがシャンデラを呼ぶと、彼はくるりとその場で回ってから、ノボリに向けて手を差し出した。
「おや、ダンスですか?随分と久しぶりですね」
ノボリ達がまだ子供でシャンデラがまだランプラーだった頃、お姫様と王子様が舞踏会で踊っているシーンをたまたまテレビの映画で観てから、彼はその二人の姿に憧れて、時折ノボリと踊りたがるようになった。
今のシャンデラが見せたのは、そんな彼からの『ダンスのお誘い』だった。
「久しぶりで上手くできるか分かりませんが……わたくしと踊ってくれますか?」
ノボリがシャンデラに歩み寄って黒い手に自分の手を乗せると、シャンデラは嬉しそうに笑って、ノボリのもう片方の手も取って、ゆっくりと左右に揺れ始めた。
右に、左に、まるで振り子の様に、ふたりはリズムを合わせる為にゆっくりと揺れる。
リズムが合ってくると、シャンデラは少し背伸びするように、ノボリより少し高くなるように浮き上がって、大きな円を描くように動き始めた。
ノボリも彼のリードに合わせて、三拍子のステップを踏み始める。
映画や動画で見た振り付けを、見様見真似しているだけの拙いものだが、シャンデラは楽しそうな笑顔を見せている。
やがて楽しくなってきたシャンデラの動きは、円を描くだけのものから、だんだん他の動作も入るようになってきたので、ノボリもその動きに合わせて踊り続ける。
シャンデラが片手を離して腕を広げる動作をすると、ノボリも同じように片手を繋いだまま両腕を広げる。
そこからまた両手を取り合ってステップを踏むと、今度は身体を斜めに傾けてゆっくり動きを止めたので、ノボリは少しだけ腰を捻って身体を反らした。
シャンデラの腕に自分の体重がかかって重いのではと思ったが、いつの間にそんな芸当を覚えたのか、シャンデラはサイコキネシスを使って身体を支えてくれていた。
何度もターンをする度に、シャンデラの炎が大きく広がって、シャンデラのガラスの身体に紫の炎の輝きが映る。
こうしてシャンデラと一緒に踊っていると、まるで彼の炎に包まれているみたいだ。
ダンスを通して、彼に身を任せる感覚が心地いい。
彼の炎に焼かれた魂は、行き場を無くしてこの世を彷徨うと言われているが、ノボリは不思議とこの炎を恐ろしいと思った事はない。
彼が自分を包んでいる炎は、こんなにも優しいのだから。

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