展示最終日 美術館にて

刀剣乱舞刀剣展示感想あり短編小説

西暦2025年某月某日 名古屋のとある美術館にて

 美術館にとって節目となるこの年の夏、大規模な刀剣の特別展が催され、つい先程迎えた閉館時間をもって、その前期展示が終了した。
明日から引き続き後期展示があるものの、数カ月に渡る展示期間の中で一区切りがついたので、展示されていた刀剣の付喪神達も張りつめていた空気を一旦緩め、互いを労い合っていた。
 
「まったく……どこに行ったんだよあいつは!」

 展示室に突然響き渡る苛立った声に、周りの付喪神達の視線が一斉に集まった。
注目を一身に集めたのは、展示室の真ん中にある己の展示ケースの前に仁王立ちになり、右手の人差し指で組んでいる腕を叩きながら、形のいい銀色の眉を吊り上げている打刀の付喪神。
そして前期のみ開催されていた展示企画、伯仲燦然の主役の一翼を担う長義作の名刀、本作長義。
またの名を山姥切長義だった。
 
「どうしたのですか、長義」

背後から声を掛けられたので長義が振り向くと、そこには同じ展示室で飾られていた五月雨郷が立っていて、その後ろから後藤藤四郎と鯰尾藤四郎もやって来た。

「五月雨郷。あと数時間もしない内に搬出作業が始まるというのにあの写し、ふらりとどこかへ消えたんだよ」

 簡潔に事情を説明した長義は、顎で隣の展示ケースを差し示した。
隣の独立したケースに飾られているのは、彼と同じく伯仲燦然における目玉の刀剣、刀工国広の最高傑作で長義の写し刀である、山姥切国広。
しかし付喪神の姿が見えず、今は本体のみがそこに鎮座している。
展示室で人に見られていた時は、確かにそこにいた。
しかし閉館時間を迎えて長義が一息つき、ふと隣のケースを見た時には、既に国広の姿はなくなっていたのだ。
 
「今日が最後の日だというのに他の刀達に挨拶もせずに……俺はそんな礼儀知らずな写しを持った覚えはないぞ」
「国広さん、挨拶ならもう来てくれましたよ?」
「……は?」

鯰尾からの言葉を聞いて、長義は目を見開き呆けた声を漏らした。

「俺の所にも来てくれたぞ」
「私の所にも来ましたよ」
「……なんだって?いつ!?」
「昨日の晩だよ。明日は搬出前にやりたい事があるから、今日言いに来たって言ってたな」
「てっきり長義とふたりきりで話でもするのかと思って、搬出前の見送りだけはしようと思っていました」
「……俺だけ何の言葉も無し、だって?」

後藤と五月雨の追撃により、自分だけ何も声を掛けられていない事に気づいた長義は、ヒクリ、と歪に片方の口角を上げた。

「……この俺にだけ、何の一言もなく足利へ帰るつもりなのか?…………いい度胸だ。とっ捕まえて俺への礼儀が何たるか搬出されるギリギリまで教え込んでやる」

額に青筋と浮かべて、怒りが滲み出ている笑顔を見せた長義は、震える低い声でそう呟くと、ギチギチと握りしめた両拳を鳴らしながら、ドスドスと荒い足音を立てて展示室を出て行った。

「……あれ、自分だけ声を掛けてもらえなくて拗ねてますね」
「だな」
「ですね」

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!

コメント