「お~、戻って来たな」
「おかえりなさい!」
「思ったより時間ギリギリだったな」
「待たせてすまない」
二振りが展示室に戻ると、国広の見送りの為に、出入り口付近に付喪神達が集まっていた。
これから運び出そうとする所らしく、複数の職員の人間達の手によって、国広の本体の刀は既にケースから出されて、今にも持ち出されようとしている。
国広がここにいられる時間は、もうほとんど残っていなかった。
「皆、世話になった。俺は今日までだが、後期展示も無事成功するよう祈っている」
「国広さん、お疲れ様でした!」
「気を付けて帰れよ!」
「また会いましょうね!」
「お気をつけて」
「元気でな」
深く頭を下げて、付喪神達からの見送りの言葉を一身に受けた国広は、姿勢を元に戻すと隣に立つ長義に、改めて向き直った。
「本歌、また会って話をしよう。……次に会った時、あんたが紡いだ新しい物語を聞かせて欲しい。……それまで、どうか息災で」
「山姥切国広」
長義は背を向けようとした国広の名前を呼んで、写しを呼び止めた。
不思議そうに振り返った国広の姿を、最後にもう一度目に焼き付けた長義は、胸の前で小さく手を振った。
「……またな。気をつけて帰りなよ」
「……ああ、また。ありがとう、本歌」
国広は嬉しそうに微笑んで頷くと、今度こそ本歌から背を向けて歩き始めた。
スタッフ達によって展示室から運び出される本体と共に、国広は展示室から去って行った。
しばらく国広が出て行った展示室の入口を見つめる長義の背中がどこか寂しそうにも見えて、鯰尾が隣にそっと寄り添った。
「行っちゃいましたね。国広さん」
「ああ……さて。これから来てくれる刀達の歓迎の前に、鯰尾。君には聞きたい事があるのだけれど。……心当たりはあるな?」
「え゙っ!?……あ、あーー!!」
振り返った長義の笑顔の背景に、仁王の顔を見た鯰尾は、予想外の展開に顔を引き攣らせた。
しばらくウロウロと視線を泳がせると、長義の怒りを自分から逸せる為に、わざとらしい大声を出した。
「そういえば南泉さんが国広さんに、この前三所物達にお馬さんごっこやらされてたの言ってました!!」
「んにゃ!?おい鯰尾!!俺を売るにゃ!!」
「へえ?それはいい事を聞いた。……覚悟しなよ猫殺しくん!」
「にゃああ゙あ゙ーー!!来るなーー!!」
「ちょっ……南泉さんこっち来ないでー!?」
「ははっ、すっかりいつもの長義さんだな」
「ですね。前期展示の間、長義さんずっと大人しかったですから」
「ええ。写しの刀がいる手前、彼の立派な見本たれと、自分に言い聞かせていたのでしょう」
後藤、物吉、五月雨は、逃げ回る二振りを追い回し始めた長義を遠目に見つめながら、顔を見合わせて笑っていた。
前期展示の緊張から解放されて、束の間の休息の時間を得た長義の顔つきも、写しに見せていた余裕のあるものから、自分達の前で見せるやや幼くも感じる素の状態に戻っている。
「写しが来る前までずっとそわそわしてたもんな。搬入のトラックはまだかまだかって、何度も外見に行ってたし。もちろん国広さんに教えたけど」
「ここで並んで展示されるって、初めて聞いた時、みんなの前では普通のフリをしてましたけど、嬉しそうにしてるの全然隠せてませんでしたからね。国広さんに教えたら、彼も同じ顔してましたよ」
「ふたり共。その話は、長義にばれないように内緒にした方がいいのでは?」
「じゃあ、俺達だけの内緒って事で!……そう言う五月雨郷は国広さんに何教えたんだ?」
「そうですね……昼間に人に見られている間、彼の写しが長義を見るより、長義が写しを見ている回数の方が多かった。でしょうか」
「えっ、五月雨郷さん数えてたんですか?」
「ほんの好奇心で。展示された位置的には、南泉の方がよく見えていると思いますけどね」
その時の長義の横顔が、普段の彼とは想像もつかない程に、優しい笑みを浮かべていたのは、五月雨の中だけの秘密だ。

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