六、鶴丸国永は押入れの中の眠り姫

刀剣乱舞合歓木本丸

「ああ~面白かった!」

 大阪城イベントが始まってから数日、メンバーから外れた粟田口の短刀達は、共同の部屋でテーブルを囲んで、おやつを食べていた。
その中で絵本を読み終えた乱藤四郎は、やや興奮気味に絵本の最後のページを閉じた。

「何の本を読んでいたんですか?」

乱の本に興味を示した秋田藤四郎が、乱の持っていた絵本の表紙を覗き込んだ。
絵本のタイトルは『眠りの森の美女』。
悪い魔女の呪いで、糸車の針に指を刺して眠りについたお姫様が、王子様のキスで呪いが解けて目を覚ますと言う、有名なお話だ。

「お姫様を目覚めさせるのは、王子様のキスなんて何かロマンチック!」

そう言ってはしゃぐ乱の話を聞きながら、秋田もその絵本のページをめくった。
そこには光が差し込む窓際のベッドに寝かされているお姫様に、王子様がこれからキスをしようとする絵が描かれていた。

「ねえ。この本丸の眠り姫って、誰だと思う?」
「この本丸で……ですか?」

突然の乱の質問に、緑茶を飲んでいた五虎退が、不思議そうな顔で首を傾げた。

「そう。この本丸って、良く寝る事を大事にしてるじゃない?誰が一番眠り姫っぽいかなあって」
「ええっと…新月の日の三日月さんでしょうか」
「おお、いきなりすごいのが来たな。乱は誰だと思うんだ?」

少し考えた五虎退が出した刃物に、せんべいを食べていた厚が納得の声を上げて、乱にも思い浮かぶ刀を尋ねた。

「うーん…寝顔だけだったら、隊長さんかな?」
「眠り姫は馬小屋の藁の上で、大の字になって寝ないと思うぜ。まあ、昨日俺が馬当番していた時の話だけどな」
「昨日の話?……あー、見つからないと思えば、そういえば昨日はそっちは見てなかったなー」

 乱の例えは、厚の隣で団子を頬張っている薬研藤四郎が否定した。
昨日の話と聞いた厚は、予想が難しい場所で寝てしまう隊長を探して、いつものように本丸を歩いていたのだが、結局見つけられなかったので、見ていなかった場所を思い返して頭を抱えて悔しがった。

「じゃあ薬研は誰だと思うのさ」

乱がちょっとムッとして聞き返すと、薬研は最後の団子を飲み込んで、食べ終えた櫛を乱に向かってピッと向けた。

「鶴丸だな」
「「「「……あ~~」」」」

断言する様にはっきりと言う薬研に、全員納得した声を上げた。

「寝ている場所が押入れという事さえ除けば、あの寝姿と体質。眠り姫と例えるにはピッタリだと思わないか?」
「確かにこの絵本のお姫様そっくり!」

 鶴丸はかつての持ち主と共に、墓に入っていた期間があった事がある為か、彼は薄暗くて狭い土の匂いがする場所にいると、どんな状態でも眠ってしまう体質だ。
更に自力では起きられないらしく、誰かに起こして貰わないとずっと眠り続けてしまう為、彼は毎朝隣室の燭台切に起こして貰っていた。
おまけに眠っている間は死体なのかと勘違いしてしまうほど寝相が良くて、狭い押入れの中で足をぶつける事も無く、殆ど寝返りも打たず仰向けになって、更に胸元で軽く手を組んで眠るので、その様子がちょうど絵本の眠り姫の格好に似ているのだ。

「そういえば、何で鶴丸さんって押入れで寝るようになったんですか?」

この面子の中では一番顕現が遅かった秋田が尋ねると、皆きょとんとした顔をしたが、厚が「あ、そっか」と思い出したかの様な声を上げた。

「そうだった、あの頃秋田はまだ来てなかったんだ。じゃあ知らないか、鶴丸さん失踪事件」
「あの時は大変だったなー」

薬研が肘をついて苦笑いを浮かべたが、その目は懐かしむ様に細められている。

「鶴丸さんを見つけた時は、びっくりしちゃいました」
「五虎退泣いてたもんね」

眉をㇵの字にして笑う五虎退に、乱が小さく笑った。

「へえ~どんな事件だったんですか?」

好奇心で身を乗り出して尋ねる秋田に、この本丸の古参の短刀達は交代で、かつての出来事を語り始めた。

「俺達が顕現したての頃に、大将が倒れて全員非番になった日があったんだ。それで俺達と鯰尾兄と前田と鶴丸で遊んでいたんだ」
「確かボール遊びをしていたんだっけ?あの辺りで遊んでいたよね」

乱が部屋の外にある、広い庭へ指を指して、厚がそれに頷いて話を続けた。

「お、確かその辺だったな。それで五虎退がボールを弾いちまってな、それを鶴丸さんが取りにいったんだけど、そのまま帰ってこなかったんだ」
「本丸皆でどれだけ探しても見つからなくて、あるじさまにも探してもらったんですけど、詳しい場所が分からなかったんです」
「えっ、主君でも分からなかったんですか?」

審神者でも探知出来なかった事に、秋田は少し驚いた。
審神者はこの本丸内位の距離なら、自分が顕現した刀の気配を探知する事が出来る。
なのでそれでも特定出来ない事は、余程の事でもあるのだ。

「いや、大将の探知は合ってはいたんだ。俺達も気づけなかったんだが、ちょうど俺達がいた大広間の真下に位置する、縁側の下で寝ていたんだ」
「そんな所でずっと寝ていたんですか?」
「一旦寝ちまうと、鶴丸は自分では起きられないからな、あの時は俺達もそれを知らなかったんだ」

「え~」と困惑顔を浮かべた秋田に、薬研は少し困ったように笑った。

「そういえば、あの後も大変でしたね」
「起きて開口一番が「良く眠れた」だったから、長谷部や大倶利伽羅とかにしばかれていたからな」

そう言って苦笑した五虎退に、彼の湯呑みの中が空っぽになっていた事に気づいた厚が、急須からお茶のおかわりを注ぎながら、その事件を思い返して笑った。

「まあ、そのおかげで鶴丸の土の匂いを嗅ぐと寝てしまうと、誰かに起こして貰わないと起きられないと言う体質が分かったんだ。それを元に自分で体質に合った寝床をみつけて、ちゃんと眠れるようになった事で、体の調子も上がったらしいからな」

団子を食べ終えて茶を緑茶をすすっていた薬研は、そんな二振を見ながら、その事件よりも少し前に、鶴丸に自分の体調の事を相談されていた事を思い出した。

「そういえば寝床探しって、他にも候補があったんですか?」
「そうだな……最初は縁側の下で寝ようとしたんだが、燭台切が猛反対してな。そこから自分で穴を掘ったり、木の根っこで良さそうな所で寝たり、倉庫で寝ていた時もあったな」
「へえ~そうなんですね」
「お茶のおかわり持ってきたよ」

秋田が薬研の話に興味津々で聞いていると、燭台切が替えの急須を持って部屋に入ってきた。
近くにいた厚が彼に礼を言いながら、空になった急須を差し出して、新しい急須を受け取った。

「あ、そうだ薬研君。明日の朝早くから厨当番の後連続で遠征に行く事になっていて、明日から五日間程、また僕の代わりに鶴さんを起こしに行ってほしいんだ。頼めないかな?」

 鶴丸は大阪城に出陣できない。
彼の体質上地下に潜る大阪城に行くとすぐに眠ってしまう為、戦闘どころでは無くなってしまうのだ。
その為に大阪城のイベントが始まると、鶴丸は大阪城の指揮にかかりっきりになる審神者に代わって、本丸の遠征や内番などの指示を任されていた。
燭台切同様鶴丸と部屋が近い薬研は、大阪城のイベント時などで燭台切が鶴丸を起こしに行く事が出来ない時に、代理で彼を起こしに行く事があった。

「ああ、いいぜ。七時位でいいか?」
「うん、お願いするよ。朝餉を作った後はすぐ出発だから、鶴さんが起きる時間には余り余裕が無さそうだから助かるよ」
「なになに?薬研、鶴丸さん起こしにいくの?」

燭台切の頼みを快諾した薬研を見ていた乱が、その話に食いついた。

「ねえ、それボクもやってもいい?」
「いいけど、何かするのか?」

乱の何か企んだような笑みを見て、薬研も面白そうな予感がして、彼の方へ顔を寄せた。

「お姫様を起こすのが、王子様でしょ?だから王子様になってみたいなあって」
「珍しいな、お姫様じゃないのか?」
「お姫様もいいけど、たまには王子様にもなりたいじゃない?」
「お姫様?」

二振りの話が読めない燭台切は、首を傾げた。

「燭台切さんはこの話知らない?眠れる森の美女」
「ええっと……ごめん。知らないや」

乱が尋ねると、燭台切はその話を知らなかったらしく、申し訳なさそうに眉を下げた。

「この本丸でこの話に出てくる眠り姫に一番近いのは誰だって話になって、鶴丸がそれに近いなって話になったんだ。まあ、鶴丸だと言い出したのは俺なんだが」

先程まで読んでいた絵本を見せる乱に、燭台切はしばらくその表紙を見ていた。
薬研はその物語を知らない彼に向けて、今まで話していた内容を簡単に説明した。

「へえ鶴さんが眠り姫か……あ、確かにこのページのお姫様の寝方、鶴さんそっくりだね」
「でしょー?」

燭台切は乱から絵本を借りてページをパラパラ捲って、眠り姫の絵を見ると納得したように頷いた。

「なあ。何か面白そうだし、せっかくだからここにいる皆で、一日ずつ交代でやらないか?」
「お、いいぜ。オレ達の出番はもう少し後になりそうだし、何とかなるだろ」

薬研の提案に興味が湧いた厚は、その提案にすぐさま乗った。

「五虎退と秋田はどうだ?」
「鶴丸さんが寝ている所、ちゃんと見た事ないので、やってみたいです!」
「ぼ、僕もやってみたいです」

厚が秋田と五虎退にも聞いてみると、彼らもその提案に首を縦に振った。

「じゃあ、鶴さんを起こすのは王子様達にお願いしようかな、鶴さんには僕から言っておくよ」
「うん、ボク達に任せてよ!」

改めて頼まれた燭台切のお願いに、乱は胸を張って宣言した。

「じゃあ、順番を決めないとね」

燭台切が部屋から出ていった後、全員で鶴丸を起こす順番を決める事になった。

「誰から鶴丸さん起こしにいく?」
「そうですね~……じゃんけんでもしますか?」
「まあ、それでいいか」
「じゃあいっくよ~」

「「「「「ジャンケンポン!!」」」」」

乱の音頭でジャンケンをすると、五虎退はパー、他の刀はグーを出していた。

「あっ」
「お、五虎退が一番か」

そのまま順調に順番が決まり、最初は五虎退、そのまま乱、秋田、厚、薬研の順番になった。

「よーっし、決まったな」
「あ、あの。僕も王子様みたいに鶴丸さんを起こした方がいいでしょうか?」
「いや、別にこの絵本の真似をしなくてもいいんじゃないか?鶴丸だったらロマンチックなキスより驚きで起こされた方が喜びそうだし、寝起きドッキリの感覚でいいと思うぜ」

五虎退が起こし方について質問をしたが、薬研の言葉で内容のハードルが下がり、少しホッとしたように息を吐いた。

「じゃあ五虎退、一番槍は任せたぜ」
「は、はいっ!」

一番を任された五虎退は、元気に返事をしながら頭の中で鶴丸を起こす方法を考え始めた。

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