「うわ、寒~。これからまだ寒くなるって考えると、ちょっと憂鬱だな」
換気の為に加州清光が自分の部屋の障子を開けると、飛び込んできた冷気が加州の腕に鳥肌を立たせた。
急な寒気に彼は両手で自分の腕をさすり、内番着の襟巻を巻きなおして、襟巻と首との隙間に風が入ってこないようにした。
「あっ、ねえ清光。これこっちでいい?」
「何?って、あ。ちょっとー、さりげなく俺の場所に侵食してこないでくれる?」
同室の大和守安定に声を掛けられて加州が振り向くと、彼は自分のお菓子を入れた段ボールの箱を、壁際にある部屋の真ん中に引かれた線の上に置こうとしていた。
彼らの部屋には、真ん中に一本白い線が引かれていた。
最初は普通に部屋を使っていたのだが、次第に本丸の生活に慣れて私物が増えると、家具の位置や物置き場所でしばしば喧嘩をするようになってしまっていたので、部屋の真ん中に線を引く事でそれぞれの自分の領域を作り、自分の家具を自分の領域に置くようになったのだ。
自分の領域を超えて自分の家具を置かないと二振りで取り決めたので、二つに分かれた部屋は真ん中を境に雰囲気が変わっている。
加州の方の領域は赤い家具を基調に、大和守の方の領域は青い家具を基調に揃えられていて、唯一二振りで決めたこたつだけが、共有の家具として真ん中の線の上に置かれているが、今は部屋の外の廊下の壁に立てかけられていた。
明日から二日間かけて、本丸で大掃除が行われる。
毎年の恒例で、一日目は本丸で共同で使用する場所の掃除、二日目はそれぞれの私室の掃除を行う事になっている。
掃除当番として本丸の指示に回る側になる加州と大和守は、各部屋の見回りに行く事になり、自分達の部屋の掃除どころではなくなるので、二振りだけいつも大掃除の前日に自分達の部屋を掃除する事にしていた。
「別にいいじゃん。たまにお前も一口ちょうだいとか言って、僕のお菓子食べるじゃないか。清光も食べたいお菓子はここに入れればいいし」
「俺そこまでお菓子食べないから却下。それならこの姿見置かせて、二振りで共同で使えるし」
「それ使うの清光だけだろ。僕は使わないから駄目」
「安定ももうちょっと身だしなみ整えなよ。この前寝ぐせ爆発したまま出陣してたじゃん」
「出陣してたらどうせ髪なんてボサボサになるんだから、別にいいだろ」
「「…………」」
徐々にヒートアップしていく言い合いに険悪な空気になり、二振りは頭を突き合わせて睨み合ったが、しばらくして互いにため息を吐いた。
「……やめよう、ここで揉めたら本当に進まないから」
「そうだね、今年は諦めるよ。このゴミ袋持って行った方がいい?」
「そーね、お願い」
大和守は二振りで掃除して出たゴミをパンパンに入れた袋を持って、部屋の外へ出た。
ハアと息を吐くと、うっすらと白く染まって、煙の様に宙に溶けていく。
ふと上を見上げると、薄暗くなりつつある空にはぽつぽつと星が浮かび始めていた。
「寒いな……明日は晴れるといいな」
大和守は袋を持っていない方の手に、自分の息を吹きかけた。

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