十五、大倶利伽羅と本丸図書室

刀剣乱舞合歓木本丸

 肌寒い季節が過ぎ、桜の花が散った枝から若葉が生え始めた頃、本丸の図書室入り口に白い箱が設置された。

「おっ、その箱が出てきたって事はもうそんな季節か」
「ああ」

箱を設置している大倶利伽羅に、廊下の向こうから厚藤四郎が声を掛けながら歩いてきた。

「何かこの箱を見ると、ようやくこれから暑い季節になって来るんだなって気がするぜ」
「そうか」

頭の後ろに手を当てながら、歯を見せながら笑う厚に、大俱利伽羅はそっけなく返した。

 この白い箱は図書室を管理している、図書当番の大俱利伽羅が作った。
この箱は図書室に新しい本を置く時に、どんな本を置いてほしいか皆に希望を募る為の物で、年に一度この季節にのみ設置される。
毎年図書室に置いてほしいと寄せられる希望の本の種類は、絵本、漫画、雑誌、小説、専門書、古書と分野も様々で、図書室に置かれている本は年を経るごとに豊富になっている。

「大俱利伽羅さん、これいつまで置いておく予定だ?」
「まだ知らせていないが、二週間を予定している」
「じゃあ弟達に知らせておくよ。ちょうどみんなで読みたいって言ってた漫画のシリーズがあるんだ」
「箱の横に紙を置いておく。それに本の題名を書いて箱に入れておけ、参考にする」
「おう、分かったよ」

厚はそう言うと、ひらりと手を振ってそのまま去っていった。
大倶利伽羅はその背中を一瞥して、改めて箱が倒れないかを確認すると、当番の仕事をする為に図書室の中に入っていった。



 大俱利伽羅が図書当番になった経緯を説明するには、まず彼が読書にはまった理由を説明しないといけない。
彼が読書にはまったきっかけは、本丸がある程度軌道に乗って来た頃、彼が審神者の近侍で執務室の隅で控えている時だった。
通常近侍の仕事として、審神者の書類仕事の手伝いをするのだが、その時はたまたま審神者にしか捌けない書類しかなかった。
仕事をしていて集中している審神者は、必要事項しか話さない事が多く、馴れ合いを好まず賑やかな場所が苦手な大俱利伽羅にとっては、静かで貴重な時間ではあったが、隅に座って待機しているだけで暇を持て余していた。

「大俱利伽羅、よかったらそこにある本読んでいいぞ。しばらくはこの書類にかかりっきりになりそうだから、暇つぶしにでも使ってくれ」

審神者が指さしたのは、小さな本棚に綺麗に整理されていた小説だった。
特にする事もなかった大倶利伽羅は言われるままに、小説の題名を見て一番気になった本を手に取って読み始めた。

 小説の内容は推理小説だった。
外来語が少なく、比較的古い言い回しの文体で表現されている内容は、まだ現代のカタカナの単語に馴染みが無かった大倶利伽羅でも読みやすく、気が付けば本の世界にすっかりのめり込んでいった。

「大俱利伽羅」

 突然審神者に声を掛けられて我に返ると、外はすっかり薄暗くなっていて、かなりの時間が経ってしまっていたらしく、大俱利伽羅は驚いてあたりをきょろきょろと見渡した。
そんな彼の慌てぶりに、審神者は珍しい物を見た様に目を丸くすると、すぐに小さく笑い声を上げた。

「あまりにも本に集中していたから、声を掛けなかったんだ。もうすぐ夕餉の時間だってさ」
「……すまない」
「大丈夫さ、今日の仕事は終わったし。その本面白かったろ?」
「気が付いたら時間が過ぎてしまっていた」
「それ自分のお気に入りのシリーズなんだ。よかったら続きも貸そうか?」
「……いや、また近侍になった時に読ませてもらう」

 それから大倶利伽羅は近侍の日に、暇な時間を見つけては審神者の小説を読むようになり、読んでいたシリーズが読み終わると違う本にも手を出し、それも読み終わると万屋街の本屋で気になる本を自分で手に入れては読むようになっていた。
本を読んでいる間は他の刀も遠慮して必要以上に話しかけて来ず、静かな時間を過ごせる事もあり、大倶利伽羅はすっかり読書にはまっていた。
 月日が流れ、裏庭付近の書庫がいっぱいになった頃、本丸に新たに図書室が増築される事が決まった。
図書室の内装は審神者が学生だった頃の学校の図書室を参考に作られ、中には本を読めるスペースとして洋風の小さな木造テーブルと四つの椅子が置かれ、図書室の最奥には仮眠室と、その入り口前に一人用の少し大きな仕事用のテーブルと椅子が設置された。
 図書室に保管する本は、最初は皆が他の者にも読んで欲しいと思う本をそれぞれ持ち寄って置いた事から始まり、審神者の所持していた小説などもここに置かれる事になった。
そしてその図書室を管理する刀として満場一致で大倶利伽羅、そしてその補佐として鶴丸国永が任命される事となった。
その頃には大俱利伽羅も本丸にある本のほとんどを把握していたので、さほど大きな障害が出る事も無く、図書室は本丸有数の静かな憩いの場所となっていった。

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