十八、山姥切国広の修行

刀剣乱舞合歓木本丸

「やめだ」
「なっ」

 夕餉が終わり、寝静まる刀も多くなってきた頃。
本丸の道場では山姥切国広と山姥切長義が木刀で手合わせをしていた。
赤疲労にならないと眠る事ができない山姥切は、自分の体質が判明してから時々国広を誘って、どちらかが疲れ果てるまで手合わせをする。
練度が低かった頃はすぐに疲れ果てて眠りにつく事ができたが、既にカンストを迎えた今の山姥切は力尽きるまでの時間が長くなり、今では山姥切と国広どちらかが眠ってしまうまで手合わせが続けられている。
しかし今日は途中で山姥切が早々に切り上げて、さっさと木刀を元の位置に戻してしまった。
今までに無かった事に国広が木刀を持ったまま困惑していると、山姥切はキッと鋭い目つきになった。

「手合わせに全く集中できていない。そんな精彩を欠いた動きで俺の相手が務まると思っているのかな。……だとしたら、随分と舐められたものだ」
「す、すまない……」

木刀を下ろして項垂れる国広を見て、山姥切は長い溜息を吐いた。

「……修行の事で悩んでいるんだろう」
「!……どうしてそれを」
「お前は分かりやすいんだよ」

図星を突かれた国広はバッと顔を上げて山姥切を見ると、彼は呆れたような顔をして腕を組みながら壁に凭れた。

「……主が、何故修行の許可を出さないのかを考えていた」

国広はしばらく言い淀む素振りを見せた後、時間をたっぷり掛けて重い口を開いた。
 
 
 ある一定の練度まで成長できた刀剣男士は、「極」へと成長する為の修行に行く事ができる。
それは政府から既に本丸に通達されているので、ここの本丸の刀達は修行の存在は知っているが、修行に行った者は未だ一振りもいない。
修行に必要な物資は今までのイベントの報酬として既に揃っており、専用の旅道具などは全て本丸の倉庫に厳重に保管されている。
あとは審神者が修行を希望する刀に許可さえ与えればいいのだが、肝心の審神者が一向に修行の許可を出そうとしないのだ。
既に国広は修行へ行きたいと審神者に伝えていたが、途端に顔を曇らせて「許可は出せない」の一点張りで許可を貰う事ができなかった。

「戦場で勝つために色んな方法で試行錯誤を重ねる主なら、修行で強くなる方法も考える筈だ。それなのになぜ……」
「お前はその理由をちゃんと主に聞いたのか」 
「……それは」

山姥切にまた図星を突かれて、国広は俯いて口籠った。

「「何故だ」「どうしてだ」と、自分でぐるぐると想像しているだけだと何も進まないだろう。一度腹を割って話してみるべきじゃないのかな」
「……」
「それに、この役目はお前がするべきだ。他の誰でもない、この本丸の始まりの一振りであるお前がね」 

本丸で修行に行きたい刀は少なくないだろうが、誰も何も言わない。
きっとそれは、皆この本丸で一番に修行に出るのは国広であるべきだと思っているからだ。

 監査官としてこの本丸に配属されて後輩とも呼べる刀が増えた今、山姥切もこの本丸では新入りとは言えなくなる程、それなりの期間をこの本丸で過ごしてここの刀達を見てきた。
戦う為に睡眠をなにより大切にする、少し特殊な体質を持った刀剣男士達が集う本丸。
そんな本丸がここまで強く大きくなったのは、審神者の采配と初期に顕現した刀達が、この本丸の基盤をしっかりと作ってくれた事が大きいと山姥切は思っている。
そして、自分が顕現する前の話を他の刀達から聞くと、その話の至る場所に国広が存在していた。

戦では常に矢面に立って戦場を切り開くこの本丸で一番強い刀。
精鋭揃いの第一部隊を率いる本丸の総隊長。
皆から慕われ、初期刀としてこの本丸で最も長く審神者を支え続けた、己の写し。

 本丸で彼の話を聞く度に、悔しくもあるが自分の前に立つ彼の背中を見て、少し誇らしいとも思える自分も確かに存在している。
なので山姥切自身も、国広が一番に修行に出て欲しいと密かに思っていた。
しかし審神者に修行からの許可を貰えず、ここの所彼の刀を振るっている姿を見ていたら明らかに精彩を欠いていたので、もし次の夜の手合わせに付き合って貰った時にも同じ状態だったら、思い切り発破をかけてやろうと考えていたのだ。
 
「山姥切……やっぱり、あんたはすごいな」
「なっ。い、いきなりなんだよ」

ずっと俯いていた顔をようやく上げて、どこかすっきりした顔をした国広が山姥切に笑いかけると、彼は目に見えて動揺した。
   
「ありがとう。主と時間を取ってもう一度話してみる」
「そう。まあ、迷いが晴れたのならよかったんじゃないかな」
「そうだな」
「……さて、と。俺はまだまだ動き足りないし、あとは走り込みにでも行こうかな」

言いたい事を全て言い終えた山姥切は、ストールを肩から外して道場の入口へと歩いていった。
 
「森で寝落ちしないようにな」
「心配しなくても、俺がそんなへまする訳ないだろう。ここの片付けはお願いするよ」
「ああ」
「ああ、そうだ」

入口から出て行こうとしていた山姥切が、ふと足を止めて国広の方へ振り返った。

「修行から帰ったら、一番に俺と手合わせ願おうか。お前の修行の成果、とくと見せて貰おう。何も得られなかった、なんて絶対許さないからな」  
「山姥切……ああ、望むところだ。よろしく頼む」 
 
強気の笑みを見せた山姥切に国広が強く頷くと、それに満足した彼も小さく頷いて、今度こそ道場から出て行った。

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