9、「オレの耳は簡単に誤魔化せないぜ?」

ツイステッドワンダーランド生き別れのウツボの人魚

「ったく、あいつどこ行ったんだ?」

 今日の授業が終わり、モストロ・ラウンジの開店準備が始まろうとしていた頃、今日のシフトに入っていたバイトは、同じくシフトに入っている幼馴染のスレイドを探していた。
数週間前、学園の生活に慣れてきたオクタヴィネルの新入生に、寮で経営しているカフェ『モストロ・ラウンジ』で働くかどうか、寮長であるアズール・アーシェングロットから声がかかった。
元々貨幣の流通が存在しない船の墓場にいた二人は、学園にいる間の最低限の生活費用や必要物資は保障されているので、贅沢さえしなければ衣食住に困る事は無い。
しかし嗜好品などを買うお金までは支給されないのでそれを稼ぐ為と、単純に「働く」という事を体験してみたいと思った二人は、ラウンジでアルバイトを始める事にしたのだ。
アルバイトを始めたばかりだというのに、遅刻するのは周りへの印象が悪い。
なのでどこかへふらりといなくなってしまった幼馴染を、何とかして探しだそうと校内を走り回っていたのだ。

「はあ~……しょうがねえ、魔法使うか」
「バイト」

 少しずれた寮服のハットをかぶり直して溜息をついたバイトは、自力で探すのを諦めてユニーク魔法を使おうと、ポケットからマジカルペンを取り出し、一振りしようとした所で後ろから声を掛けられた。
声の方向にバイトが振り向くと、寮服を着たスレイドが歩いてきた。

「あ、どこ行ってたんだよお前。もうすぐ開店時間だってのに探しただろうが」
「どこって、部屋に戻って着替えに行ってたんだけど」
「入れ違ってたのか……って、お前。またボウタイとストールはどうしたんだ」

 オクタヴィネルの寮服は、シャツの襟元に白いボウタイを結んで、肩には寮章が入った薄紫のストールを身に着けるのが普通だ。
しかし今のスレイドにはそのどちらも身に着けておらず、紫のシャツも第一ボタンが外されており、かなりラフな着こなしになっている。
今までにも何度かバイトやアズールが指摘してきたが、彼はどこ吹く風でほとんど改善した試しが無かった。

「首のやつは窮屈だし、肩にかけるヒラヒラは動いてうっとおしいから置いてきた」
「またアズール先輩に怒られるぞ」
「別にいいじゃない、着崩してる奴なんて他にもいるんだし」

一応指摘はしたが、表情を変える事無く直そうとしない彼の言葉に、バイトは早々に諦めた。

「はあ……どうなっても知らねえからな。遅刻する前に早く行くぞ」
「あ、遅くなる代わりにアズールから購買部への買い出し頼まれたんだ。手伝ってくれる?」
「ああいいぜ。何の買い出し頼まれたんだ?」
「このメモに書いてあるのを買って来い、だってさ」

スレイドがポケットから小さなメモを取り出すと、バイトは彼の近くに回り込んでその内容を確認した。

「ふーん、これなら俺達で十分運べるな。……早く行こうぜ」
「うん」

バイトが購買部に向かって歩き出すと、スレイドはそれに続いた。

「サンキュー、小鬼ちゃん達!これが領収書だよ」
「ありがとうサムさん」

購買部で目当ての物を購入し終わった二人は、大きな紙袋を抱えて鏡舎への道を歩いた。

「助かったよバイト」
「別にいいさ、オレも走ってて疲れてたし。……で、なんでスレイドに化けてるんだ?ジェイド先輩」

バイトが立ち止まって隣で一緒に歩いていた相手を見上げると、彼は僅かにサングラスの下から目を見開いて突っ立っていた。

「……ふふ、何言ってるの?バイト」
「あんたはよく相手に歩調を合わせてるだろ?あいつはオレ相手にそんな真似しねえから、足音のリズムが変わる事がねえんだよ。それに時々地面に足をすって歩く癖もあるしな。それにあんたとあいつの笑い方は普段から少し似ているけど、やっぱり全然違うんだよ。……オレにはバレバレだぜ?」

 少しの沈黙の後に少し笑いながら首を傾げる彼に、バイトは先程から感じていた違和感をつらつらと並べて、遮光眼鏡の下から大きな緑の瞳を光らせながら、バイトは目の前の人物の顔に向かって歯を剥き出しにして笑った。

「……正解です。さすがはスレイドさんのご友人ですね」

スレイドの姿をしたウツボの人魚、ジェイド・リーチは口調をいつもの敬語に戻して、サングラスを外してニッコリと人好きがする笑みを浮かべた。

「うわあ……あいつに似た声でその話し方されると、違和感しか感じねえな」

スレイドの姿のまま敬語で話すジェイドを目の当たりにして、バイトは嫌そうに顔を歪めた。

「初めて彼の姿を真似てみたのですが、まさか足音と笑い方だけでバレてしまうとは。僕もまだまだですね」
「ひひっ、オレを騙すなら耳からだぜ?でも見た目はそうバレねえくらい似てるな。目と髪は魔法を掛けてるみたいだけど、身長と声は……魔法薬か?」

スレイドに化けた方法に興味を持ったバイトは、穴が開くほど目を開いてスレイドの顔をしたジェイドを見上げた。

「その通りです。身長を縮める薬と、声を高くする薬を少しだけ使っています」
「へえ、魔法と魔法薬の組み合わせで他の奴そっくりに化ける事もできるんだな。オレに化ける事もできるのか?」
「僕がスレイドさんに化ける場合は、身長と声を変えればあとは簡単な魔法で済むでしょうが、バイトさんに化ける場合は大幅に容姿を変えないといけないので、かなり難しいでしょうね」
「なるほど。目は色変え魔法で、髪はこの前授業で習った植物を伸ばす魔法を使えばいけそうだな……身長と声を変える魔法薬ってどう作るんだ?」
「一年生にはまだ少し難しいかもしれませんが、比較的簡単な魔法薬ですよ。今回の場合はですね……」

ジェイドは種明かしとして、魔法薬の説明を始めた。

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