13、「やっぱりこの食べ方が一番おいしいんだよね」

ツイステッドワンダーランド生き別れのウツボの人魚

「ん~~……う~~…」

 何の予定も無い放課後、ベッドに腰かけて私物の本を読んでいたスレイドは、ぐずるような唸り声を聞いて顔を上げた。
そのまま声の方に顔を向けると、机に向かって課題のレポートをこなしていた幼馴染のバイトが、ペンを走らせながら不満げに、身体を捻って両肩を前後に揺らしていた。

「バイト?もしかしてお腹すいた?」

彼が空腹の時によくやっている癖を見てスレイドが尋ねると、バイトは眉間に皺を寄せて首を捻った。
 
「ん~~……それもあるんだけどよ……なんでもいいから肉を抉って獲物にありつきたい……」
「ああ、なるほどね。確かに陸に来てからずっと狩りしてないしね。……俺もお腹空いてきた……」
「陸の食べ物がうまいのは分かるけど、いつでも食べられる環境に慣れてたら船の墓場に帰った時に困るし、このままじゃ狩りのカンが鈍っちまう……」
「狩りだけは今度帰省する時までおあずけだもんね」

 スレイド達が海にいた頃は、船の墓場からゆっくり時間を掛けて浮上し、夜の浅い海に狩りをして獲物にありつくのが当たり前だった。
しかし陸にあがって人の姿で生活するようになってからは食事の習慣が180度変わり、今まで食べてきた魚などは必ず調理してから食べるようになり、野菜、肉、加工食品など、海では全く馴染みのない物も食べるようになった。
だが元々食べていた魚やタコなどの生きた獲物とは、すっかりご無沙汰になってしまっている。
要はふたり共「自分で狩りをして食べる獲物の味」、「故郷の味」が恋しくなったのだ。

「いっその事ここの海で狩りでもさせてもらう?水圧をどうにかする魔法とかがあれば、少しの時間なんとかなるかもよ?」
「…………スレイド。今日はまた一段と笑えない冗談を言うんだな」
「……あっ」

バイトは首を折れる程横に傾けてゆったりとした仕草で頬杖をつくと、低い声でスレイドをギロリと睨みつけた。
その殺気を目の当たりにして、オクタヴィネルの海が自分達にとってかなり明るいのを思い出したスレイドは、すぐに両手をあげて降参の姿勢を取った。
 
「ごめん、聞かなかった事にして」
「気をつけろよスレイド。……お前には昔、「次は無い」って忠告したはずだぜ」
「うん。今のは俺が悪かったよ、ごめんなさい」
「…………」

彼の地雷中の地雷を踏みかけた事にスレイドが再度謝ると、バイトはようやく殺気を収めて机に突っ伏した。
 
「あーーー……フラフラ寝こけながら泳いでる間抜けなマグロに飛びついて、口いっぱい肉を抉り取りたい……」
「俺もタコ食べたいな……活きのいい奴。岩場に隠れてる奴を引きずり出して、グニャグニャに暴れてる足を思い切り噛みちぎるの……」

二人が自分の好物に思いを馳せてぼやいていると、ノックの音と共にオクタヴィネル寮長でモストロ・ラウンジの支配人、アズール・アーシェングロットが入ってきた。
 
「失礼します、お二人共ちょっとよろしいですか?」
「アズール先輩?どうしたんだ?」
「今日のラウンジの営業なのですが、急遽体調不良で休みになってしまった生徒が出てしまいまして。どちらかヘルプで出てもらえませんか?」
「どうする?スレイド」
「…………」
「おーい、聞いてるか?」

バイトの声は耳に入っていないのか、スレイドはただ瞳をギラつかせながら、無言でアズールを見つめていた。
 
「…………タコだ」
「おい」
「……それも活きのいい奴」
「おい、止めとけって」
「一本くらいなら……」
「仮にも面識のある先輩だろうが。ダメだって」
「何の話ですか?」

今にも飛びかかりそうにウズウズしているスレイドと、それを止めさせようとするバイトに、アズールは眉を顰めた。
 
「アズールいつも活きがいいから、おいしそうだなって」
「は?……誰がおいしそうですって?」
「褒めてるんだよ?マズそうよりはずっと良いと思う」
「だああ!!だから止めろって!」
「痛っ」

アズールの怒った顔を見ても平気そうに話を続けようとするスレイドに耐えかねて、バイトは叫びながら彼の頭をはたいた。

「悪いアズール先輩!こいつ今腹減ってるから変な冗談言いたくなってるみたいで……」
「それはちょうど良い!」

慌てて弁解しようとするバイトの言葉を遮って、アズールはニッコリと胡散臭い程の清々しい笑顔を見せながら、芝居めいた仕草で両手を広げた。

「今日は期間限定メニューが出る初日。それを求めるお客様でラウンジもいつもより混み合う予定です。空腹なら忙しく働いた後の賄いもより美味しく感じられるでしょう。……スレイドさん。三十分後にキッチンに入ってください、ラストまでキリキリ働いてもらいますからね」

アズールは一瞬スレイドをキッと睨みつけると、普段よりやや乱暴な音を立ててドアを閉めて行った。

「……俺変な事言った?」
「お前……あれで済んだだけありがたいと思っとけよ?うまそうなんて言われて、嬉しいって思える奴なんてそういねえだろ」
「褒めてるつもりだったんだけどなあ」

呆れるバイトに、スレイドは首を傾げながら寮服に着替え始めた。
 
「そのレポート終わりそう?」
「なんとかな。帰ったらまたスペルミスが無いか軽く見てくれないか?」
「うん、わかった」
「ボウタイとストール。忘れるなよ」
「今日はキッチンみたいだし大丈夫でしょ」
「また怒られたらどうするんだ、一応持って行けよ」
「えー……分かった。じゃあ行ってくるね」
「ああ、行ってこい」

バイトと他愛も無い会話をしながら寮服に着替えたスレイドは、彼の言う通りにボウタイとストールを小脇に抱えてラウンジに向かった。

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