マメパトが元気に囀る昼下がりのライモンシティ。
色違いの私服のコートに身を包んだノボリとクダリは、奇跡的に二人揃っての午後半休が取れたので、二人は少し早い時間に帰路についていた。
「あ、ノボリあれ見て!昨日言ってた期間限定カスタムのフラペチーノ!」
クダリがノボリの肩を叩きながら指をさした先には、有名なカフェの前に置いてある看板だった。
看板には昨日クダリが休憩時間にネットで見ていた、期間限定カスタムのフラペチーノの絵がでかでかと描かれている。
どうやらハロウィン前限定のかなり短い期間でしか売っていないらしく、店の窓から中を覗いてみると、一定数の客がそのフラペチーノを美味しそうに飲んでいる姿が見えた。
「思えば仕事が終わる頃にはいつも閉まっているので、こういったお店はかなり久しぶりでしたね。入ってみましょうか」
「うん!」
自動ドアに出迎えられながら店内に入ると、耳に優しいゆったりとしたBGMと、店内でくつろぐ客達の楽し気な話し声が耳をくすぐる。
軽い雑談をしながら並んで待っていると、あっという間に自分達の番が来た。
「いらっしゃいませ!」
「この期間限定カスタムのフラペチーノください!」
「わたくしも同じ物をお願いします」
「かしこまりました。こちらのレシートを持ってあちらでお待ちください」
素敵な笑顔を浮かべる店員に、広げられているメニューの写真を指さして目当ての物を注文した。
期間限定とあるだけで大きめの写真で載っていたので、長い商品名を言わずに済み、店員も慣れているのかスムーズに会計を済ませる事ができた。
「お待たせしました!ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
すぐに用意してくれた二つのフラペチーノをお礼を言って受け取ると、ノボリ達は日当たりのいい窓際の二人用のダイニングテーブルに座った。
「ソースの模様が角度によってはバチュルの巣みたいです。ほら、この辺から見たらそう見えませんか?」
普段こういったカフェに来ると、大抵ドリップコーヒーやラテを頼むノボリは、普段あまり飲まないフラペチーノを前に、蓋からクリームが溢れない程度に容器を傾けたり、くるくる回したりして、いろんな角度から眺めた。
煙の様な黒が白に溶けるひんやりとしたフラペチーノの上に、重なったフリルの様な真っ白なクリーム、そこに回しかけられた艶やかな黒いソースは、さながら蜘蛛の巣の様にクリームを彩っていた。
「本当だ。このソースが黄色だったら、本当にバチュルのエレキネットみたいだね」
「キャラメルのソースなら、そう見えるかもしれませんね」
「さっそく飲んでみよう!」
「ええ」
二人は一通りフラペチーノを見て楽しむと、早速紙のストローに口をつけた。
中身を吸い上げて一口、二口と飲むと、クダリはパァッと表情を明るくして、ノボリはパチパチと瞬きをしてから口を離した。
「おいしい!」
「ん……ソースが真っ黒なので苦いと思っていましたが、甘いんですね」
「この黒いソース、キャラメルソースなんだって。えへへ、ノボリの色だから一度飲んでみたかったんだ」
クダリは両手でフラペチーノの容器を目の高さまで持っていくと、黒の部分を見つめて嬉しそうに微笑んだ。
「ではこのフラペチーノはクダリの色ですね。甘いのにスッキリしていて飲みやすいです」
「ストローでクリームを混ぜたらもっとおいしいんだよ。少し混ぜてからもう一度飲んでみて」
「はい」
クダリがフラペチーノを混ぜている姿を真似しながら、ノボリもぎこちなくストローで中身をかき混ぜ、もう一度ストローに口をつけた。
「おお、クリームが混ざって味が柔らかくなった気がします」
「でしょ?……あっ!」
ノボリのリアクションを楽しげに見つめながらストローを回し続けていたクダリは、自分のフラペチーノを見て突然声をあげた。
「どうしました?」
「ノボリ!このフラペチーノ、色が混ざったらぼく達の目の色みたい。ほら!」
クダリが自分の容器をノボリに見せると、彼がかき混ぜていたフラペチーノは白と黒が混ざり切って、真ん中の部分が綺麗なグレーに変わっていた。
その色は、頬を染めて目を輝かせる彼の目と同じ色だった。
「ノボリの色のソースがかかったフラペチーノだから飲んでみたいなって思ってたけど、まぜたらこんな色になるなんてすごい発見!」
「本当ですね!わたくしの色のソースと、クダリの色のフラペチーノが混ざって二人の目の色になる。とてもブラボーな飲み物です」
二人が楽しそうに飲んでいる姿は、窓の外を歩く通行人達の目に留まり、自分達も飲んでみようと店に足を運ぶ人達が増え、十数分もすればカフェにはちょっとした行列が出来上がっていた。
「美味しかったですね。フラペチーノを飲むのもたまにはいいですね」
「うん、すごくおいしかった!でも、さすがにこの時期でフラペチーノを飲むと体が冷えちゃうね。少し寒くなっちゃった」
コートが必要になってきた季節に、フラペチーノは少し冷たかったらしい。
少し身体が冷えてしまったクダリは、寒がる様に少しだけコートの襟を立てた。
「今日の晩御飯は温かい物を作りましょうか」
「賛成!じゃあぼくシチューがいい!」
「ではルーを買いに行きましょうか」
「ジャガイモ多めに入れてね」
「ええ、もちろん。ではスーパーに向けて出発進行!」
二人は今日の晩御飯の話をしながら、少しオレンジがかって来た空の下を歩いていった。
2023年10月30日 Pixivにて投稿

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