「お、厚か?んなとこでキョロキョロして、何やってるんだよ」
「あ、同田貫。今日は手合わせだったっけ」
道場付近を歩いていると、ちょうど手合わせが一区切りして、休憩する為に縁側に出ていた、同田貫正国が厚に声を掛けた。
ひとしきり動いた後の様で、木刀を肩に担いでいる上半身の戦装束は脱がれており、あらわになっている肉体からは、玉のような汗が流れている。
「おう、お前も混ざっていくか?」
「あー……今日はいいや。今隊長を探してるんだけど、この辺りを通ったか見てないか?」
「隊長?」
片眉を上げて同田貫が聞き返すと、思い返すように宙を見上げたが、眉を歪めて首を傾けた。
「いや。熱中してたから、気づかなかっただけかもしれねえが、こっちには来てないと思うぞ。それにここだと、うるさくて寝れねえだろ」
「いや。隊長なら道場の中でも、余裕で爆睡できると思うな」
「……だよな」
厚がきっぱりと言い切ると、呆れたような表情でそれに同意した。
「そういえば、最近同田貫って隊長の事、『隊長』って呼ぶようになったよな」
「ああ?」
「ちょっと前までは、「おい」とか「あいつ」とかって呼んでなかったか?」
厚が尋ねると、同田貫は「あ~」と曖昧な声を出して、その場にドカリと座り込んであぐらをかいた。
「まあ、ちょっとな。武器として戦う為に、寝ているのがうちの隊長なんだって、そう思っただけだ」
「ふーん?」
厚が面白がるような声を上げると、同田貫は鬱陶し気に眉を歪めた。
「何だよ、俺が隊長って呼んじゃ悪いのかよ」
「いいや、いいんじゃねえの?」
ふてくされた様な声を上げる同田貫に、厚は歯を見せてニカリと笑った。
「もう俺は戻るぞ。隊長に会ったら、夕方手合わせに付き合えって言っといてくれ」
「おう、分かった。伝えておくよ」
同田貫にヒラリと手を振って、厚はその場を後にした。

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