九、堀川国広の大洗濯

刀剣乱舞合歓木本丸

「前田、そっち引っ張ってください!」
「分かりました、それっ!」
「ま、枕のシーツはこっちで貰います」
「ちょ、薬研!足にシーツが絡まったから外して!」
「分かった、ちょっと待ってくれ乱!」
「洗ってない服とかまだ残ってないですか?」

 堀川が洗剤を抱えて走っていると、粟田口部屋から賑やかな声が聞こえて来たので。思わず足を止めた。
部屋の中を少し覗いてみると、短刀達が協力して布団からシーツを剥がしたり、他の洗濯物をまとめている所だった。

「お、堀川さん!すまねえな、今皆でシーツとか洗濯物の用意をしているんだけど、もう少しかかりそうなんだ」

堀川の存在に気づいた厚が、少し申し訳なさそうに眉を下げた。

「ううん、大丈夫。僕も今早めに準備しているからね。シーツと汚れが酷いのは物干し竿の方に、服の洗濯物は洗濯機の近くに置いておいて」
「分かった、用意出来たら運んでおくよ」
「うん、お願いね」

 堀川は厚と別れて、山伏が準備している物干し竿の方へと向かった。
物干し竿の方では山伏が御手杵と協力して、追加の物干し竿を作っている所だった。
御手杵が地面に竹を突き刺して、山伏は縄と大きな石を使って倒れないように固定していた。

「兄弟!そっちはどう?」
「こっちは順調だぞ兄弟!すまんなあ御手杵殿、手伝ってもらってかたじけない」
「いやあ、俺は刺す事しかできないからなあ。洗濯物は日本号に運んでもらったから、丁度手が空いて暇だったんだよ」

山伏が顔を上げると、御手杵はへらりと笑った。

「あともういくつか立てねばならぬから、もう少し助力願おう」
「おう」
「国広~、たらいはこれ位で十分か?」

 新しい声に堀川が振り向くと、同じく洗濯当番の和泉守が持てるだけの沢山の大きなたらいを持ってやってきた。

「うん、ばっちりだよ兼さん!皆は起こしてくれた?」
「なんとかな。……ったく、何でうちの刀は寝起きが悪いのがこうも多いんだ?さっき安定と清光の奴らに殴られかけたんだが」

洗濯前だと言うのに、和泉守は既に疲れたように溜息をついていて、堀川はそれを見て小さく笑い声をあげた。

「あはは、仕方ないよそういうもんなんだから。たらいはそこに置いておいて、みんなの布団を運ぶのを手伝って貰ってもいい?」
「その前にはしご用意した方がいいんじゃねえか?」
「あ、そうだね。じゃあ先にそっちをお願いするよ」
「はいよ」

若干間延びした返事をして、和泉守は倉庫の方へと向かっていった。
堀川は彼が持ってきたたらいを地面に並べたり、洗剤の量がこれで足りるのかと確認したりと、これからの洗濯に向けての準備を進めた。

「堀川~!」

 遠くから声が聞こえたので手を止めて振り向くと、沢山の服を抱えた鯰尾藤四郎と骨喰藤四郎がやってきた。
どちらも両手いっぱいに服を抱えていて、服の山の隙間からぎりぎり頭の上が見えるくらいだ。

「洗濯機の近くにある服の山から、汚れの酷い物を持って来た」
「ざっくりだけど、たぶん大丈夫だと思うよ」
「わあ、ありがとう助かるよ!」
「よいしょっと、にしても多いなあ~」

鯰尾が持ってきた服を縁側に置いて、額に流れていた汗を腕で拭った。
骨喰もそれに倣って、彼が置いた洗濯物の山の隣に自分が持ってきた洗濯物を置いた。

「確かに、今日は前に比べて多いね。途中から短刀の子達にも手伝って貰おうと思うから、それまでは僕達で頑張るよ!」
「ああ。……にっかりはどうしたんだ」
「にっかりさんは今、他の刀達に洗濯物の用意をしてもらうように呼び掛けて貰ってるから、そろそろ来てくれると思うよ」
「おやおや、皆早いね」
「うわっ!?」

背後からの声に鯰尾が驚いて飛び上がると、彼の背後ににっかり青江が立っていた。

「もう、背後に立って驚かせないで下さいよ~」
「ふふふ、ごめんごめん。せっかくだから気づかれるまで近づいてみようかと思ってね」

予想以上のリアクションをしてくれた鯰尾に、にっかりは謝りながらも満足そうに笑った。

「あ、にっかりさん洗濯板持ってきてくれたんだ。ありがとう」

にっかりが何枚かの洗濯板を持ってきている事に気が付いた堀川は、丁度良かったと礼を言った。

「ああ。他の刀達への伝言は済んだからね、ついでに持ってきたんだ。太刀のみんながそろそろ水の準備をしてくれているから、そろそろ始められそうだね」
「うん、洗濯する日でこんなにいい天気に当たるのは久しぶりだからね。今日は頑張るよ」
「あ、おーい堀川君!!」

 今度はかなり遠くから声が聞こえてきたが、近くを見ても誰もいなかったので、しばらく辺りを見渡すと、燭台切達を筆頭に太刀の刀達が両手に水がいっぱい入った大きなバケツを持ってやって来た。

「あ、皆さんありがとうございます!水はこっちに置いてください」
「ふむ、ばけつはこっちか?」
「こっちじゃないか?」
「こっちですよ三日月さん、鶯丸さん。他のバケツを倒さないように気を付けて下さいね」

少し違う場所にバケツを置こうとしていた三日月宗近と鶯丸に、堀川は正しい場所へ誘導した。

「よっと、今回もだがこれを何往復もかあ~……腰にきそうだな」
「それにしても、畑の近くの川から水を汲んでくるなんて……本丸の水道では駄目なのですか?」

バケツを置いて腰に手を当てて背中を反らす鶴丸国永に、今回初めてこの本丸総出の洗濯をする事になる一期一振が、いちいち川から水を汲む理由が分からず鶴丸に尋ねた。

「んん?ああ一期はこの洗濯は初めてだったよな。本丸の蛇口の数は限られているだろう?それにバケツに水を入れる時間も結構かかる。ただでさえ一度に使える水の量には限界があるのに、同時に洗濯機全部回しても、服だけで手一杯でかなり時間と水がかかるんだ。つまり本丸の蛇口から水を出していたら、布団を洗う時間も水の余裕も無いのさ」
「成程……不便なものですな」
「ははは、まあな。きつくもあるが、これはこれで楽しいもんさ」

僅かに眉を寄せる一期に、鶴丸はカラカラと笑った。
そこでタイミング良く短刀や打刀達もぞろぞろとやって来て、これで全員が揃った。
堀川は一度自分に注目を集める為に、三度手を叩いて周りを静かにさせた。

「はーい!じゃあ今日は皆さん集まって貰ってありがとうございます!絶好の洗濯日和なので、頑張って今日で全部終わらせましょう!それじゃあ、前の洗濯の時と同じで、短刀の子達は布団のシーツと昼寝用の掛布団の洗濯。脇差は汚れがひどい洗濯物の手洗い。打刀の刀達は屋根に布団を干してもらって、それ以外の刀や槍の方は水の運搬と、途中から洗い終わった洗濯物を干すのを手伝ってください。初めての方もいますが、その都度周りの方に聞いてください!僕は基本洗濯機か脇差の所にいてるので何かあったら呼んでくださいね」
「「「はーい!!」」」

高めの声や野太い声の様々な返事を聞いて、堀川は一旦この場を解散させて、それぞれの持ち場へと向かわせた。

「じゃあ僕は洗濯機を回してくるから、汚れを落とし終えた物は後で取りに来るよ」
「わかった、ここは任せて欲しい」

骨喰は頷いて、太刀が運んできたバケツの水を取りに向かった。

「僕も手伝った方がいいかい?」
「簡単に分けてスイッチを押すだけだから大丈夫、こっちの方が絶対大変だから、にっかりさんはこっちをお願いするよ」
「分かったよ」

同じ洗濯当番であるにっかりは、堀川の手伝いをしようと腰を浮かせたが、大丈夫と聞いて鯰尾達が持ってきた服に手を伸ばした。

「じゃあ、お願いね!」
「うん、いってらっしゃい!」

鯰尾の元気な声を聞いて、堀川は洗濯機が設置されている場所へ小走りで向かった。


 本丸の洗濯機は全部で三台で、風呂場の近くに設置されている。
ここにいる刀も増えているので、洗濯機の数もそれに応じて増やして貰ったのだ。
いつもは主に下着類を中心に、三台全ての洗濯機を動かしてようやく全部の服をを洗濯しているのだが、今日は少し前に雨が降っていた事もあって、いつもより洗濯物が溜まっている。
いつもより回数を増やして洗濯機を回さないといけないだろう。
堀川が洗い場に足を踏み入れると、予想以上の量の服が積まれている洗濯籠が、沢山並んでいた。

「やっぱり多いな~。……よし、頑張るぞ!」

 堀川はジャージの腕をまくり上げて、大量の服の山に手をかけた。
服を見て大丈夫そうなものは空になっている洗濯籠に入れて、別にしないといけない物はネットの中に入れてと、慣れた手つきで洗濯物を仕分けていったので、十分足らずでその作業は終わらせた。
そしてそれぞれの洗濯機に服を投げ入れて、洗剤や柔軟剤を入れてスイッチを入れると、洗濯機はゴウンゴウンと音を立てて動き出した。
ざっと服の山を見ても、一度目の洗濯ではまだ半分も消化できていない。
脇差の皆が洗ってくれている洗濯物も考えたら、あと三回は回さないといけないだろう。
そう考えていると、パタパタと足音が近づいてきて、洗い場に前田が顔を出した。

「あ、堀川さん。もうすぐ洗剤が無くなりそうなのですが、予備などはありますでしょうか?」
「うん、ちょうどそっちに行こうとしていたから持っていくよ」
「半分お持ちしますよ」
「ありがとう、じゃあ行こうか」
「はい」

二振りは大きな洗剤を抱えて、先ほどの物干し竿の場所へと向かった。

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