「いっち、にい、いっち、にい!」
堀川達が戻ると、短刀達の元気な掛け声が聞こえてきた。
並べているたらいの中にシーツを入れて、それを足踏みで洗濯しているのだ。
元はテレビで見た、某有名なアニメの影響で真似してみたのだが、それが思いのほか作業が進んだので、以来布団のシーツなどを一気に洗う時にはこうしてもらっている。
短刀達にも好評らしく、中々楽しんでやってくれているようだ。
「皆さん、追加の洗剤持ってきましたよ!」
「ありがとうございます!」
「ありがとう前田、堀川さん。こっちもらっていい?」
前田の声に気づいた秋田と乱は、待ってましたとばかりに早速彼を呼んで、彼もすぐ洗剤を抱えて秋田達の方へと駆けていった。
「お疲れ様、こっちは今どれくらい進んでる?」
堀川が洗剤を縁側に置いて、近くのたらいで洗い終わったシーツを水ですすいでいる薬研に声を掛けた。
「そうだな……今洗っているのが終わったら半分って所だな。厚がすすぎ終わった奴を絞っているから、それはもう干しても大丈夫だぜ」
薬研が指さした方には、顔を真っ赤にしてシーツを絞っている厚がいた。
彼の横には絞り終わったシーツの塊が、いくつかたらいの中に転がっていた。
「うん、このペースなら最初の洗濯機の洗濯が終わったら、一緒に干してしまえそうだね」
「俺達からも洗濯物を干す手伝いに何振かは回せそうだから、また手伝って欲しい事があったら言ってくれ」
「うん、脇差達でやっている服の量が多いから、余裕のある子がいたらお願いするよ」
「分かった、伝えておく」
「堀川ー、はやくこっち手伝ってー!」
「はーい!」
鯰尾の声が飛んできたので、堀川は返事をして脇差達が作業している場所に向かった。
洗濯板を使って服で汚れが酷い部分などを洗うのだが、畑仕事の草むしりと同じく、しゃがんだ姿勢のまま長時間作業しないといけないので、かなり腰にくるのだ。
なので、時々にっかりなどが腰を叩きながら作業を続けていた。
「これ見てよこの泥汚れ!誰のか分からないくらい酷いよ!こすってもこすっても全然落ちないし」
げんなりした顔で鯰尾が堀川に差し出した服は、大きな内番服のようだが、ほぼ全てが泥まみれになっていて、誰のものか分からない位だった。
「うわあ~…それ御手杵さんのかな?大きいし、よく見たらここに名前が書いてあるし」
「御手杵からその服を渡された時に、この前の畑当番で石につまづいて転んで、ぬかるみに顔から突っ込んだと言っていた」
「……随分派手に転んだんだね」
骨喰が涼しい顔でいきさつを説明すると、堀川は苦笑してまだまだ残っている洗濯物に手を伸ばした。
汚れが酷い洗濯物は、色の濃いソースや醤油などの染みも多いが、やはり戦闘や内番の馬当番や畑当番でついてしまう血や泥汚れやなどが圧倒的に多い。
しかもかなり深い所まで染みついてしまっている物もあったり、靴下などに関しては全部が泥まみれになってしまっている物も、混じっていたりする。
水につけて軽くもみ洗いしただけでも、すぐに水が真っ黒になってしまってしまうほど厄介なのだ。
「仕方ないけれど、みんなもう少し泥汚れが付かないように気を付けてもらえるといいんだけどね」
「そうだね、こんなにいっぱい出されちゃ……明日僕たちの足腰が立たなくなってしまうよ」
「はいにっかりさんアウト~」
「?……この場合は『たいきっく』をしないといけないのか?」
「ん~……洗濯が終わった後だったらいいんじゃないかな?」
骨喰が鯰尾と一緒に見た動画の事を思い出して鯰尾に尋ねたが、堀川がさらりと流した。
ちなみに「あ、僕がタイキックされるのは止めないんだね」と言うにっかりの言葉も、あっさりと流されてしまった。
皆で協力して行った洗濯もほとんど終わり、残りは洗濯物を干す作業のみになった。
手が空いた刀達には、たらいや洗濯板などの道具を洗いに行って貰ったり、打刀の布団干しの手伝いに向かってもらい、堀川と山伏で残り少なくなった洗濯物を物干し竿にかけていた。
「うむ、後はこの竿で終わりだな」
「うん。ちょっと大変だったけど、なんとかなったね」
山伏に言葉を返しながら、堀川は最後のシャツを干す為にパンと引き延ばして皺を伸ばした。
見上げれば沢山の真っ白なシーツや、皆の服がそよ風にたなびいて、日に照らされてどんどん乾いていく。
洗濯の作業は量が多くて大変ではあるが、この物干し竿に全ての服をかけ終わって、本丸の仲間が増えていくに比例して増えていく洗濯物を見上げる度に、本丸にも仲間が増えたのだと感じる。
あんなに汚れていた服が綺麗になって、物干し竿にかかって干されている物を見上げるのは、堀川が洗濯をするたびにする習慣でもあった。
……そして、その習慣はある事を気づかせた。
この物干し竿にまだかかっていない、この本丸で一番難易度の高い洗濯物がまだ残っているという事を。
「兄弟。これが終わったら、あとお願いしてもいい?」
「相分かった。拙僧も終わり次第そちらに向かうとしよう」
「うん、お願いするよ」
残りの服も洗濯物に干し終えると、堀川は少し離れた所で屈伸や前屈などの準備運動をした。
これから激しい運動でもするみたいに、それはもう念入りに体の筋を伸ばした。
「さあ、覚悟しててよ兄弟!」
堀川は戦場へ向かう気迫で屋根へ向かった。

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