九、堀川国広の大洗濯

刀剣乱舞合歓木本丸

「ハア、ハア……さすがは兄弟……どんどん逃げるのがきつくなってきている」

 僅かながら堀川を引き離した国広は、葉が多くて見つかりにくい茂みに身を隠して、木の枝にもたれて息を整えていた。
初めてこの木々の上で逃げ回った時、堀川は全く追いつく事が出来なかったが、いつの間にか木々を自由に飛び移る術を身に着けて国広の後を追うようになり、回数を追うごとに彼を巻くのがだんだん難しくなっていた。

「待てー兄弟!!」
「っ、もう来たのか」

 遠くに堀川の姿を見つけて、国広は再び近くの枝に飛び移った。
しかしその時、彼の胸元に細い糸のような物が引っかかり、それが原因だったのか風を切る音を立てながら、彼に向かって縄で作られた網が飛んできた。

「なっ、うわっ!?」

 慌てて方向を変えた事で体勢が崩れて、国広は地面を転げる事になった。
中々の高さから落ちたので、ぶつけた背中をさすりながら起き上がると、そこにさっきの網を飛ばす仕掛けが設置されているのを見つけた。
どうやら国広がさっきの糸をひっかけてしまったせいで、装置が作動する仕組みだったようだ。

「これは……堀川の兄弟が作ったものじゃない」
「カッカッカ!その通りである兄弟!」

国広が豪快な笑い声の方を振り返ると、山伏が笑いながら腕を組んで仁王立ちになっていた。
 
「なっ、兄弟が仕掛けたのか!?」
「うむ、拙僧では速さでは兄弟達に劣るからな。鶴丸殿に森で用意できる罠を伝授してもらったのだ」
「あの白じじい……余計なことを」

普段罠などは設置せず、国広を待ち伏せして捕まえようとする山伏だが、今回は鶴丸が入れ知恵したらしい。
小さな声で国広は悪態をついた。

「新しき事を学ぶのもまた修行。さあ兄弟、洗濯当番としてその布を洗わせてもらおうか」
「……断る!!」
「やっと追いついた!もう逃がさないよ兄弟!」

 明らかに他の罠が設置されているだろう前方は避けようとその場から離れようとしたが、その退路を追いついた堀川が塞ぎ、やむを得ず国広は前に走って逃げる事になった。
山伏の罠は予想以上に数が多く、横から丸太が飛んできたり、網が落ちてきたり、足を引っかける縄が出てきたりと、堀川の追撃から逃れながらとっさに避けるのは大変だった。
堀川は事前に山伏から罠の場所を知らされていたのだろう、ひらりと難なくかわしながら国広を追いかけている。
 それでも国広はこの本丸の初期刀で、ここにいる刀の中でも一番練度が高い。
苦労はしながらでも、少しずつ堀川との距離を離していった。

「あっ……!」

もう少しで振り切れそうだった時、後ろから堀川の切羽詰まった声に国広が振り返ると、堀川が地面に転がっていた。

「兄弟!!」

すぐに立ち上がらない堀川を見て、国広は百八十度方向を変えて、堀川の元へ駆け寄った。

「どうしたんだ兄弟、足でも怪我したのか?具合でも悪くなったのか?」
「……隙あり!!」

国広が慌てて堀川の様子を見ていると、ずっと俯いていた堀川が顔を上げて国広の布を剥ぎ取った。

「あ……え?……兄弟?」
「カッカッカ!まんまと嵌まってしまったなあ兄弟、捕まえたのである」
「ごめんね兄弟。兄弟は優しいから、それを利用させて貰っちゃった。僕も結構邪道だからね」
「……うう、ずるいぞきょうだい……」

 あっけに取られている国広に、堀川が苦笑気味に謝り、いつの間にか背後にいた山伏が彼の両肩に手を置いた。
ようやく自分が堀川に嵌められた事に気が付いた国広は、がっくりと項垂れて両手で顔を覆った。

「しかしここまでやっても、もう少しで巻かれてしまいそうになるとは、さすがは兄弟であるなあ。拙僧らもまだまだ修行が足りぬな兄弟」
「本当だね、僕もまだまだだよ。一振りでも兄弟を捕まえられるように、僕も頑張らないと」
「……俺も、兄弟の演技を見抜けなかった……俺もまだまだだ」

 目当ての布を手に入れた洗濯当番の兄弟達は、満足そうに彼に歩調を合わせて歩きながら、先程の追いかけっこの反省をしていた。
一方布を奪われた国広も、顔を隠すものがなくなってしまったので、山伏の背中にひっつく形で自分の顔を隠しながら、ぼそぼそと自分の反省をした。

「あ、でも兄弟。隠れる時はもっとその布見えないようにした方がいいかもしれないよ。一回見失った時、その布が森の景色から浮いていたせいで見つけたから」
「なるほど、今度上手い隠れ方を考えてみよう。兄弟が罠を使ったのはかなり驚いたが、作動する時にかなり音がする。あれなら作動する前に気づかれるな」
「うむ、確かに鶴丸殿の罠はいつ作動したのか分からぬほど静かであったな、今度また聞いてみるとしよう。兄弟も罠を設置していた場所への誘導は見事ではあったが、少々分かりやすい気もするな。今回は拙僧が初めて罠を仕掛けていたから、不意をつく事ができたが、次回からでは気づかれるやもしれん」
「そうだね、もう少し慎重にしたほうがよかったかも」

 この国広三兄弟は、国広の布を巡っての追いかけっこが終わると、いつもその帰りに自分の逃げ方や追いかけ方を振り返り、意見交換をしている。
そしてそれを生かして、次の追いかけっこに備える。その為この兄弟の追いかけっこは、回数を追うごとに高度になっていくのだ。

「次の洗濯日は、もっと早く捕まえてあげるからね兄弟!」
「うむ、次がたのしみであるなあ!」
「次は逃げきってみせる」

互いに宣戦布告をして、もう次の追いかけっこに思いを馳せながら、兄弟仲良くくっついて本丸へ戻っていった。

2020年5月31日 Pixivにて投稿

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!

コメント