フロイド・リーチの体調不良24時

ツイステッドワンダーランドツイステ一話完結小説

 今日の授業が全て終わり、ジェイドは自分の部屋に戻る為に、寮の廊下をいつもより少し大股で歩いていた。
あれからスマホを確認しても、昼休みに送ったフロイド宛に送ったメッセージに既読がついておらず、午後の授業中ずっと胸騒ぎがしていたのだ。
どうか杞憂に終わって欲しいと願いながら、ジェイドは部屋のドアを開けた。

「フロイド?」

 部屋の中には誰もおらず、ジェイドとフロイドが共同で使っている二人部屋は、シンと静まりかえっていた。
フロイドのベッドは、朝起きて蹴飛ばされてぐしゃぐしゃになってしまった布団が、そのままベッドの端に固まっており、試しに触ってみても布のヒンヤリとした感触しか伝わってこない。
簡単に部屋を見渡しても、部屋の物が移動している形跡も無かった。
 てっきり体調を崩して部屋で寝ていると思っていたが、フロイドはこの部屋には帰ってきていないのだろうか。
どうやらずっと感じていた自分の胸騒ぎはただの思い過ごしだったようだと少しだけ安心して、ジェイドは寮服に着替えようと自分のクローゼットを開けようとした。
すると部屋の奥、トイレの方から何か固くて重い物が当たった音がした。

「フロイド?」

ジェイドはドアの方に注意を向けると、トイレに誰かがいる気配を感じた。

「フロイド、いるんですか?」

気配は確かにあるのに、ドアに近づいて声を掛けても返事が返ってこない。
不審に思ったジェイドはドアに耳を付けてみると、ドア越しに浅くて短い吐息とフロイドの小さな唸り声が聞こえて来た。

「フロイド?具合が悪いのですか?」
「…………」

 二回ノックをして声を掛けても何の返事も帰ってこない。
いつものフロイドなら、どんなに機嫌が悪い日だとしても、ここまで何度も呼び掛けたら何か言葉を返してくれる筈だ。
ジェイドは嫌な予感がしながらドアノブに手を掛けると、予想してた手応えが感じられず、ドアに鍵が掛かっていない事に気が付いた。
もしかしたら今フロイドは、トイレの鍵を閉める程の余裕すら無いのではないだろうか。
いよいよまずいと感じたジェイドは、思い切ってドアを開ける事にした。

「フロイド、開けますよ!」

 大きな声で呼びかけながらドアを開けると、そこには便器に座ったままお腹を両腕で庇うように押さえ、トイレの壁に身体を預けてぐったりしているフロイドがいた。
相当体調が悪いらしく、彼は血の気が引いた顔で固く目を瞑って、苦しそうに息を繰り返していた。

「フロイド!」

ジェイドは床に片膝をついて、壁に凭れた状態のフロイドを抱き起こし、彼の頬に手を添えた。

「フロイド、フロイド!」

ジェイドの呼びかけにフロイドはうっすらと目を開けて、ふらふらと視線を彷徨わせながら、自分の片割れに時間をかけて焦点を合わせた。

「じぇ……ど…?」
「そうです、ジェイドです。どこが辛いか言えますか?」
「……な、か……ッたい……」

 震える吐息の様なか細い声で、フロイドは「お腹が痛い」と言いながらジェイドの肩に顔を埋めた。
ぜいぜいと吐いている息は熱く、背中は服越しでも分かる程にびっしょりと汗を搔いている。
だがそれとは対照的に、ジェイドが手袋を外してフロイドの首筋に触れると、いつもの体温より冷えていた。
ジェイドにサボると連絡してから、この寒い個室に長い時間ずっと一人でいたのだろう、フロイドは制服姿のままだった。

「立てますか?それともまだ出そうですか?」

 ジェイドが再び声を掛けると、フロイドは質問に答えようと口を開いたが、腹痛の波がまた押し寄せて来てしまったらしい。
「ウウ゛ッ」と呻いて身体を強張らせたかと思うと、彼の頭はジェイドの肩から滑り落ちて自分の両膝の間に埋まってしまった。

「まだ、でそうだから……でてって」
「……分かりました。僕はドアの近くにいますから、何かあればノックをしてください」

 本当はそばにいたかったが、さすがに自分が排泄している姿を見られるのは嫌だろう。
ジェイドはフロイドの身体をこれ以上冷やさないように、彼の背中に自分の制服のジャケットを被せて、鍵をかけずにトイレから出て行った。
近くの壁に立っていると、しばらくしてから呻き声と水を叩く音が聞こえてくる。
やはり無理を通してでも、昼休みにフロイドの様子を見に行くべきだったと、ドアの向こうで苦しむ片割れを思いながらジェイドは酷く後悔した。

 それからフロイドがドアをノックしたのは、ジェイドが彼を見つけてから三十分以上も後だった。
ドアを開けて出て来たフロイドの顔色は、ほんの少しだけましになったが、それでも真っ青である事には変わらない。
ジェイドは背中を丸めてよろよろと歩くフロイドを支えながら、彼が自分のベッドに向かう補助をした。
フロイドはベッドに倒れ込む様に横になると、すぐにお腹を抱えて大きな身体をできるだけ縮こめるように丸まった。

「フロイド、眠ってしまう前に着替えましょう」
「やだ……いま服ぬぎたくない」

ジェイドが用意していた身体の締め付けが少ない寝間着を差し出すと、フロイドはシーツに頭をグリグリさせながら嫌がった。

「このままだと汗が冷えて余計体調を悪化させますよ。ほら、もう少しだけ頑張りましょう」

フロイドの背中に手を当てて促すと、彼は唸りながらゆっくりと自分の制服を脱ぎ始めた。

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