昼休みになった大食堂では大勢の生徒で賑わい、食器がぶつかる音や生徒達の談笑の声で溢れかえっていた。
そんな中人が多い箇所から少し離れた場所で、一人で食事をとっている見知った顔があったので、ジェイドはその人物の元へ真っすぐに歩いていった。
「お疲れ様です、アズール」
「お疲れ様です、ジェイド」
ジェイドの所属する寮、オクタヴィネルの寮長であり幼馴染のアズール・アーシェングロットは、ジェイドに声を掛けられて顔を上げた。
ジェイドがテーブルを挟んだ向かいに座ると、アズールはいつも一緒にいるもう一人のウツボがいない事に気が付いた。
「今日はフロイドと一緒ではないのですね」
「ええ、ここに来る時にフロイドの教室を覗きましたが、既に姿は無かったので。おそらく食堂で食べる気分では無いのかと。飛行術の授業で一緒になった時に何度もくしゃみをしていたので、少し身体の調子を崩しているかもしれません」
「なるほど。念のために今日のシフトはフロイドが抜けてもいいように調整しておきます」
「ありがとうございます」
ジェイドはアズールと会話をしながら、自分も料理に手をつけようとした時に、ポケットが振動している事に気がついた。手を突っ込むと、スマホにフロイドからのメッセージが届いたと通知が入っていた。
「フロイドですか?」
「そのようですね。「今日はもうサボる」だそうです」
「珍しいですね、わざわざ連絡してくるなんて」
アズールは片眉を上げながら、俯いた時にずれた眼鏡を指で押さえて直した。
フロイドが授業をサボるのはそう珍しい話ではないが、事前にジェイドへ連絡するような事は無い。
いつもの彼らしくない行動に、ジェイドも僅かに引っかかりを感じた。
「確かにそうですね。おそらく部屋にいるでしょうから、一度様子を見に行った方がいいかもしれません」
ジェイドはスマホをポケットに戻すと、今度こそ昼食の料理に手を付け始めた。
「ジェイド、ちょっと今いいか?」
食事も取り終わってアズールと別れた後、一度フロイドの様子を見に寮の部屋へ戻ろうと大食堂を出ると、ハーツラビュルの副寮長であるトレイ・クローバーに声を掛けられた。
「トレイさん」
「呼び止めて悪いな。急いでたか?」
「いえ、お気になさらず。何かご用でしょうか?」
「副寮長専用の資料を持って来た。次の会議にも出る内容だから目を通しておいてくれ」
「ありがとうございます」
トレイから受け取ったのは、それなりの厚さのある複数の紙の束だった。
「悪いが残りの資料を他の副寮長に渡しておいて貰えないか?実はリドルから頼まれた用事があって、昼休みの時間に間に合いそうにないんだ」
「構いませんよ」
「助かった。また今度ケーキでも焼いて差し入れするよ」
ジェイドが了承すると、トレイは安堵したような表情を浮かべ、礼を言いながら足早にどこかへと行ってしまった。
資料はちょうどトレイとジェイド以外の副寮長全員の分がある。
ある程度の居場所は想像がつくけれど、この広い校舎の中全員に資料を配りに行ったら、寮の部屋に戻る時間は無くなってしまうだろう。
ジェイドは後ろ髪を引かれる思いで、フロイド宛に「何かあれば連絡してくださいね」とだけメッセージを送ると、他の副寮長を探しに廊下を歩き始めた。

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