ゴツッ
ゴリ
グシャ
「……うぅ……ああ?っ、げほっ、ごほっ」
断続的に聞こえてくる物音に、フェローの意識は浮上した。
少し息を吸い込むと、乾燥した冷たい空気が水分を摂っていない喉を刺激して、思わず何度も咳き込んだ。
いくらか咳を落ち着けて窓の外を見れば、狭い窓枠からは明るい空が見えているが、寝る前に見えていた太陽の姿はすっかり見えなくなっている。
つまりはそれだけの時間眠っていたのだろう。
咳がぶり返さないように慎重に身を起こすと、フェローの額からべチャリとやや重さのある物が滑り落ちた。
「なんだこれ……びちゃびちゃじゃねえか……」
額から落ちた何かを指先だけで摘み上げると、それは水で濡らしたタオルだった。
見覚えがあると思ったら、部屋の中に干していた洗濯物からタオルが一つ無くなっている。
これが頭の上に乗っていたおかげで、眠る前よりは多少頭の痛みはましになったようだ。
タオルは絞りが足りないせいで、少しの間ぶら下げているだけでタオルの端から透明な雫がポタポタと零れ落ちてくる。
それがベッドのシーツに吸い込まれるのを見て、フェローは眉を歪めて濡れたタオルをベッドサイドにあった洗面器の中に放り込んだ。
グチャ
ゴリ
「けほ、けほ……さっきから何の音だ?」
起きた時からずっと聞こえてくる物音の方向へフェローが目を向けると、見覚えのある小さな背中がキッチンの真ん中で座り込んでいた。
「……ギデル?」
「……!?……!」
フェローが声を掛けると、ギデルはパッと振り向いて不安げな顔でパタパタと彼の元へ駆け寄った。
「ああ、大丈夫だ。少し寝たらマシになった。それより危ないからキッチンには近寄るなって前に言っただろ、って……わっ。……なんだ?」
「……!」
フェローが注意をしていると、それを遮るようにギデルから中にぐちゃぐちゃになった白い物が入っているすり鉢がズイと差し出された。
怪訝な顔ですり鉢の中を覗き込むと、白い物には所々赤が混じっていて、底の方には半透明の液体が溜まっている。
鼻が詰まっているので鼻がききにくくはなっているが、それでも優しく香る匂いは、自分にもとても馴染みがある物だった。
「これは……林檎か?」
合っていたらしく、ギデルはニッコリと笑ってコクコクと頷いた。
「もしかして……食べやすいようにしてくれたのか?」
もう一度コクコクと頷いて笑うギデルを見て、フェローは力が抜けて思わず笑みが零れた。
「ふはっ……ありがとなギデル」
フェローがクシャリと小さな頭を撫でてやると、ギデルはくすぐったさに首をすくめながら嬉しそうに微笑んだ。
「いいって、半分はお前が食え。ちゃんとスプーンを握るんだぞ」
「……!」
その後フェローとギデルは、ベッドの上ですり鉢に入っている林檎を一緒に食べた。
林檎を乗せたスプーンを何度も差し出すギデルの手を、フェローはやんわりと押し返し、自分は大きな欠片を摘まんで口に放り込む。
栄養と水分も充分摂ったので、その頃にはフェローの風邪も大分回復していた。
その後フェローはギデルに風邪を移さないように夜はソファで寝ようとしたが、目を吊り上げて服を引っ張るギデルに根負けしたので、結局一緒のベッドに背中合わせで寝る事で妥協した。
翌日、街の片隅では杖をクルクル回して上機嫌に鼻歌を歌うフェローと、彼にピタリと寄り添ってぶかぶかの靴を鳴らしながら歩く笑顔のギデルの姿が見られたらしい。
2024年3月18日 Pixivにて投稿

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