16、「ジコショウカイ、お互いする必要なくなっちゃったね」

ツイステッドワンダーランド生き別れのウツボの人魚

 一週間後。
朝の授業が始まる前の一年E組の教室では、生徒達が授業の準備をしながら、それぞれ思い思いに朝の穏やかな時間を過ごしていた。
仲のいい者同士で談笑する者達、先生が来るまでもうひと眠りしようと机に突っ伏している者、このクラスに所属しているスレイドと幼馴染のバイトも例外ではなく、二人は先日スレイドが会った角の男について話していた。
 
「ふーん?それで最近同じ所に通い詰めてるのか」
「うん、探してもみつからなくてさ」

 角の男から絵のアドバイスを貰ったスレイドは、彼の助言通りにガーゴイルを観察し直して、無事に満足する出来の絵を完成させた。
絵が完成したら名前を聞かせて欲しいと言われていたので、スレイドは完成した絵を見せる為に、用事がない日の放課後に彼と会った場所を中心に探していたが、今日まで一度も彼の姿を見つけられていなかった。
彼が生徒である事は分かっているので、昼間も移動教室で廊下を歩いている時にも、廊下をすれ違うディアソムニアの生徒を見ては、彼の姿を探したが、あの印象的な黒い一対の角を見つける事は叶わなかった。

「あの角のひと、本当にうちの生徒だったのかな……」
「スワローかセベクに聞いてみたらどうだ?本当にディアソムニアの生徒なら、知ってる筈だろ?」
「そうだね。スワローにノート貸してたから、今日の昼休みにでも返してもらうついでに聞いてみる」
「た、大変だ~~!!」

突然の大声にスレイド達が教室の入口に目を向けると、顔を真っ青にしたクラスメートが駆け込んで来て、そのまま一直線にスレイドの机へ向かってきた。
 
「ススス、ス、スレイド!お前なにしたんだよ!!」
「……まだ何もしてないけど」
「絶対何かやっただろ!ディアソムニアの寮長がお前を探しに教室の前に来てるんだけど!!」
「「「「「えっ!!?」」」」」

大声で言ったクラスメートの言葉に、スレイドが反応する前に、他のクラスメート達が一斉にスレイドの机の方へ振り向いた。
 
「スレイド……終わったな……」
「入学してたった数カ月で一体どんな不興を買ったんだ……」
「スレイドの事だし不敬な事でも口走ったんだろ」
「……いつか絶対大きなヤバい事やらかしそうだと思ってたけど、ここまで早いなんて……」 
「雷に打たれて丸焦げ……いや、消し炭にされるかも……」
「な、なんだ?こいつらの反応……スレイドお前、そんなにヤバい事やったのかよ……」
 
 これからスレイドが死ぬみたいな口ぶりと、葬式みたいな空気になったクラスメートたちを見て、バイトも戸惑いと呆れが混じった顔で隣の幼馴染を見遣った。
対して話の渦中にいるスレイドは、話の内容が分かっていないのか、いつもの眠たげな目で、パチ、パチとゆっくり瞬きをしてから、コテンと首を横に傾けた。
 
「ディアソムニアの寮長って?」
「はあ!?お前マジかよ……」
「世間知らずか!?」
「スレイド!いくら陸の事に疎いからって無知にも程があるぞ!」

スレイドからの驚きの言葉に、あるクラスメートは目を剥き、ある者はドン引きして、あるディアソムニアの生徒はギッと目を吊り上げて、無知なクラスメートへ詰め寄った。

「マレウス・ドラコニア様!うちの寮の寮長で三年生!茨の谷の次期当主で、世界でも五本の指に入るくらいの魔法士!この学園の生徒じゃなければ、本来実物をお目にかかる事だってできない方なんだからな!」
「……へえ、そうなんだ。……なんでそんなすごい奴が俺に会いに来たの?」
「知らねえよ!」 
「こっちが聞きたいわ!」 
「ってかスレイド!早く行けよ!」
「そうだよ!いつまでもマレウス・ドラコニア待たせて、もし機嫌を損ねられたら俺達まで巻き込まれる!!」
「わっ」
  
ここまで説明してもいまいちピンと来ていないスレイド様子を見て、ついにしびれを切らせたクラスメート達は、彼の腕を抱えて無理矢理立たせると、強い力で背中を押して入口へ向かわせた。
まさかそこまで急き立てられるとは思わなかったスレイドは、思わずその場でよろめいた。
 
「せめて骨は拾ってやるよ。多分海に不法投棄するけど」
「お前の事は忘れないよスレイド。二日くらい」
「墓に花くらいは添えてやるよ、金ないからタンポポでも適当に摘んでおく」 
「あー……よくわかんねえけど。まあ、次に船の墓場に帰ったら、爺さんには報告しておいてやるよ。……爺さんの墓ねえけど」
「バイトまでそんな事言うんだ……」

これからスレイドが死ぬ前提の冗談を言うクラスメート達と、話の流れで彼らに便乗したバイトを見て、スレイドはスッと冷たく目を光らせた。
 
「みんな薄情だなあ……悲しくて泣いちゃいそう……死んだら化けて、全員の枕元に出て呪い掛けてやるから、覚えてなよ」
「ぎゃああーー!!」
「お前、それシャレにならないって!」
「マジでやりそうな事言うなよ〜〜!!」

自分が低い声で吐いた捨て台詞に、クラスメート達が悲鳴をあげる様子を見てほんの少しだけ溜飲を下げたスレイドは、自分を探しているという人物の元へ向かう為に教室の入口へ向かった。
 
「あ、スレイド!こっちこっち!」
「あれ、スワロー?……と、角のひと?」

聞き慣れた声がしたので振り向くと、数メートル離れた場所で、隣のクラスのディアソムニアの友人が手を振っていた。
そしてクラスメート達が言っていたマレウス・ドラコニアと思われる人物が、自分が探していた角の男だったので、スレイドは驚きのあまり、スワローが駆け寄ってきても角の男に視線を向けたまま棒立ちになっていた。

「借りてたノート返しに来たんだ。ありがとう!すごく助かったよ」
「あ、うん。……それでスワロー、なんでこのひとと一緒に?」
「マレウスさん、スレイドに会いたかったみたいだったから、ノートを返すついでにってワタシが誘ったんだ。じゃあマレウスさん、あとはごゆっくりどうぞ!スレイドもまたね!」
 
笑顔で差し出されたノートを受け取りながら、スレイドが訳を尋ねると、スワローは簡潔に理由を話して、角の男、もといマレウスを置いてその場を去って行った。
 
「えっと……こんにちは。……マレウスさん、で合ってる?」
「ああ。どうやら他の者から僕の名前を聞いたようだな」
「さっきクラスの奴らから聞いちゃった。でも霜は降りなかったよ」

自分の名前を知っても動じていない様子のスレイドを見て、マレウスは小さく笑った。
 
「僕の名前を知っても動じないとは……やはりお前は、中々恐れ知らずなようだ。それと、お前の名はスレイドと言うらしいな。僕もリリアとフリルから聞いた」
「うん。ジコショウカイ、お互いする必要なくなっちゃったね」
「そうだな。……絵はあれから描けているか?それが気になって、お前に会いに来た」
「そうなの?ちょうどよかった、俺もあんたの事探してたんだ。ちょっと待ってて」

そう言ってスレイドはすぐさま教室に帰っていくと、十数秒経ってからパタパタとスケッチブックを抱えて戻って来た。

「この前のガーゴイル、あんたの言った通りに違う時間に行って続きを描いてみたんだ。そしたら結構上手く描けたの。教えてくれてありがとう。絵、見てみる?」
「ああ、見せてくれ」
 
スレイドがスケッチブックを開くと、そこには数日前より更に細部まで描き込まれたガーゴイルが描かれていた。
自分が予想していた以上の絵の仕上がりに、マレウスは「ほう」と小さく感嘆の声を漏らした。
 
「僕のアドバイスでここまで仕上がるとは……特にここのガーゴイルに生えている苔、質感がよく伝わって来る」
「ふふ、ありがとう。そこは結構こだわってみたんだ」
「……ん?次のページにも何か描かれているな」
「あっ」

スレイドの制止は間に合わず、マレウスがスケッチブックのページを捲ると、先程の出来とは対照的に、かなり不格好な形のカラスのガーゴイルの絵が描かれていた。
失敗作に近い出来で、見せようと思っていなかった絵をマレウスに見られて、スレイドは言い訳をするように視線を明後日の方向へ向けた。
 
「あー……この前のガーゴイルの絵を描いた後に、あんたが教えてくれたガーゴイルの絵も描いてみたんだけど……そっちは失敗したの。あまり描いた事がない角度で描いたから難しくて」
「……ふふふ」
 
二つのガーゴイルの絵の出来のあまりの落差に、マレウスは思わず笑ってしまい、スレイドは不機嫌になって口を尖らせてむくれた。
 
「むう……そんなに笑わなくてもいいじゃない」
「ふふ……いや、すまない。出来の落差に思わず笑ってしまった。……だがお前の絵の腕に見どころがあるのは本当だ、これからも励むといい。またガーゴイルが描きたくなったら、僕に聞きに来ても構わない。お前の絵の成長を楽しみにしている」

マレウスはスレイドにスケッチブックを返すと、満足そうな笑みを浮かべたままその場を去り、廊下の向こうへと消えて行った。
 
「最後の方はよくわからなかったけど……褒めてくれたのかな?……まあ、またガーゴイル描きたくなったらあのひとに聞いてみよう」

スレイドは何度も首を捻って、脳内でマレウスの言葉を咀嚼しながら教室に戻ると、入口前に集まっていたバイト以外のクラスメート達が、何故か床に転がって全員死屍累々の状態になっていた。
 
「あれ?バイト、みんなどうしたの?」
「なんかよくわかんねえけど、あのひとがいなくなってから、みんな一斉に床に倒れちまった」
「い、生きた心地がしなかった……」

どうやら彼らは、怖いもの見たさでスレイド達のやり取りを聞いていたらしい。
その緊張感からの解放からか、床に伏せたままのクラスメートは、今にも泣きだしそうな弱々しい声を漏らした。

2025年4月2日 Pixivにて投稿

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