ヒスイ関連 没作品集

サブマス一話完結小説ポケモン(サブマスメイン)

何度失ったとしても
ヒスイ地方から、また違う世界に飛ばされて再び名前以外の記憶を失ったノボリと、ノボリを探していたクダリが再会する話。

ノボリを探して山を歩いていたクダリ。
山で助けたモブにノボリを見た事があると言われる。

「たすけてくれ~~!!」
 
遠くから聞こえた悲鳴に振り向くと、傷ついたピッピを胸に抱えた中年男性が、ズバットの群れに追いかけられていた。
 
「シビルドン、ズバット達の少し上に向かって10まんボルト!!驚かせて追い払って!」

クダリは慌ててシビルドンを繰り出すと、10まんボルトをズバット達スレスレの場所めがけて放った。
ズバット達は突然の攻撃に驚いて、男性から離れて空高くに逃げて行ってしまった。
 
「ありがとうシビルドン。おじさん大丈夫!?」
「助かったよ!ありがとうお兄さ……あれ?」

お礼を言ってからシビルドンを戻してクダリが男性の元へ駆け寄ると、助けてもらった礼を言おうとした男性は、クダリの顔を見て目を見開いた。
 
「……どうしたの?」
「あんた……その帽子」
「おじさん、この帽子知ってるの!?」

呆けた声で呟いた男の言葉に、クダリは飛びついた。
 
「知ってるというか……似たような帽子を被っている人を見た事があるんだ。帽子はお兄さんのよりずっとボロボロで黒色だったけど」
「その人、どんな人!?ぼくずっと探してるの!」
「わかった、わかったから!ちょっと落ち着いて」

自分の両肩を掴むクダリの鬼気迫る顔に圧倒されて、男はワタワタとしながら、クダリを両手で押し返した。

「はあ……びっくりしたよ」
「ごめん、ちょっと興奮しすぎた。ぼく探してる人がいる、ずっとずっと探してるの。だからほんの少しでも手がかりが欲しいの、お願い。……教えてください」

どんどん尻すぼみになって、最後には掠れた声で頭を下げて懇願するクダリの姿を見て、男は頷く事しかできなかった。

 
「……といっても、僕もその人を見たのは随分と前なんだ。そうだなあ……たしか、一年くらい前だよ。この森でほとんど誰にも会わないから珍しくて、印象に残ってたんだ」

男はピッピの傷の手当てをしながら話し始めた。
 
「メインの山道から少し離れた所を歩いていたらね、ふと遠くから木の枝が割れる音と足音が聞こえたんだ。最初はポケモンだと思っていたけど、どうも気配が違う。違和感を感じて辺りを観察していたら、その人が木の枝を拾っている姿が見えたんだ。おそらく火に入れる薪を集めていたんだと思う。こんな所で人を見かけるなんて珍しいなあってしばらくその人を見ていたら、こっちに気づいたみたいで、僕の方を振り向いたんだ。気配に敏感な人なんだろうね、かなり遠くから見ていたのに、気づかれてびっくりしたよ」
「……それで、どうなったの?」
「その人は何も言わずに、拾った薪を抱えて更に山奥の方へ消えてしまったよ。彼がどこに行ったのかは、僕にも分からない」
 

「お兄さんのと似ている帽子を被っていて、ボロボロの黒い服を着てたよ」
 
 男の話を聞いて、遥か遠くにうっすらと細い煙が上がっている。
誰かいる可能性に一筋の光を見出したクダリは、その煙を目標にして駆け出した。

「火元はこの辺りのはず……」
「どなたですか」

冷え切った表情でクダリを見つめる、ボロボロのコート姿のノボリ。

「道に迷われたのなら、少し降りたところにもう少しまともな道があります。ポケモンもめったに通らないので、比較的安全に下山できるでしょう」
「……ノボリ」
「……何故わたくしの名を?」
「ノ、ノボリ。ぼく、クダリだよ。ずっと探してた。ぼく「帰ってください」」

クダリに背を向けたノボリは、そう冷たく言い放った。
 
「あなたが探していた『ノボリ』という人間は、もう死んだと思ってください」

彼の全身から伝わって来る強い拒絶に、クダリの足は凍り付いたように動かなくなった。

「わたくしは、もうどなたとも関わる気はありません」

どこかに行こうとする肩越しに振り返ったノボリの表情は、氷の様に冷たかった。
何が彼をここまで変えたのだろう。
結局クダリは、ノボリの姿が見えなくなるまで、その場から動く事ができなかった。

「……まだいたのですか」
「うん、ぼく帰らない。だって納得できない」

諦めたのか、ノボリはあからさまにため息をついた。
 
「もう日が暮れます。ひとまず今夜はここで一夜を過ごして、朝になればここから出て行ってください」 

ノボリが住処にしている洞窟に泊めてもらうクダリ。
火を焚いていると、足にノボリのコートの布を巻いてある野生のアブソルがやって来る。

「アブソル、手持ちにしてるの?」
「いえ、野生の子です。以前怪我をしたところを手当したら、時折ここに来るようになったのです。特に害はないので自由にさせています」

「今のわたくしがはっきりと覚えているのは、ノボリという名だけです。あとは全て朧げで、はっきりと思い出せません」
 
追い出そうとするノボリに対して、何度も洞窟に通ってくるクダリ。 

「お帰りください」
「また来るね」
 
ノボリは二回目の世界転移をしていて、二度目の記憶喪失に絶望。
人ポケモン含め誰とも深く関わろうとしなくなって、現代のテンガン山奥深くで独り生涯を終えようとしていたノボリ。
何度も通ってくるクダリを、心の中で大切に思い始めている事に気づくと同時に、再び記憶を失う可能性の恐ろしさから、クダリを強く拒絶する。

「もう来ないでください」
「あなたがここを尋ねて来る度……わたくしの中で、あなたの存在がどんどん大きくなっていく……それが恐ろしい」
「また忘れてしまうかもしれないのに。また失ってしまうかもしれないのに」
「もう……もう何も奪われたくない。もう二度と、あの絶望を味わいたくないのです。また大事な物を見つけて、もしまた同じ事が起こったら……もう、耐えられない」
「帰ってください。二度と来ないでください……どうか……もう……これ以上わたくしの中に入って来ないで」

ノボリを抱きしめるクダリ

「大丈夫だよ、ノボリ」
「何を……」
「何度も会いに行く。またいなくなったって、何度だって探しに行く。また忘れたって、何度だって思い出させる。……だからぼくの事、忘れてもいいよ」
「……っ」

クダリの言葉を聞いて涙を流しながら、抱きしめ返すノボリ。

翌日再び洞窟を訪れると、ノボリがいない。
悲し気な鳴き声をあげるアブソルを見て、ノボリがこの世界からいなくなったのだと察するクダリ。
それでもその表情は穏やかだった。

「……大丈夫、また会いに行くから。待っててノボリ」

どこかの世界のノボリ
また全部忘れたが、ポケモンや誰かとの交流も再開した。
ぼんやりとクダリが「忘れてもいい」と言っていたのは覚えている。
「名前しか覚えていないわたくしに、「忘れてもいい」と言ってくれた方がいた気がするのです。その方がまた会いに来てくれるのを、わたくしはここで待ち続けます」

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!

コメント