ヒスイ関連 没作品集

サブマス一話完結小説ポケモン(サブマスメイン)

行きつく先はきっと同じ
ノボリを探して死んだクダリが、ゾロアークに生まれ変わってノボリに会う話。
Pixivにて依然投稿した「書きかけ小説冒頭部まとめ」の三話目に投稿していた話です。
設定は好きで大体の道筋もできて、完成させたいとは思っているのですが、ZAの新情報を見て、シリアスは書けても死ネタを書ける気がしなくなったので、手が止まってしまいました。

注意事項:死ネタ、流血表現

クダリが死んでヒスイゾロアークに生まれ変わる
かげうち うらみつらみ きりさく バークアウト
一回目は魂に残っていた人間のクダリとしての抱擁
二回目は力加減を覚えたポケモンのゾロアークとしての抱擁

ここが、ぼくの終点みたい……

今ぼくは雪が降ってる暗い夜の山に、仰向けになって倒れている

突然いなくなったノボリを探し始めてから、どれくらい経ったかな?
ノボリがどこに行ったか、沢山調べて、沢山色んな人に聞いた
そしたらノボリがいたのは過去の世界、ぼくびっくりした

それから色々すっごく頑張って、ノボリのいる世界に来たんだけど……

この世界は、ぼくには厳しすぎた

この世界のポケモン達は、平気で人を襲ってくる
手持ちのポケモン達を置いてこの世界にやって来たぼくには、対抗手段が全く無かった
だから逃げて、逃げて、必死に逃げた
でもほんの少しの「うっかり」で、バトルに負ける事があるように
ぼくの旅は「うっかり」で終わっちゃった

ぼくが逃げたのは雪の山のどこか
ポケモン達を撒いてひと息つこうとした時に、雪に足を取られて崖から真っ逆さま
 
ぼくの身体はあっけなく砕け散った

頭を、岩にぶつけたみたい
ちょっとだけ目線を横にすると、近くの岩にべったりと赤いのが付いてる
あと、骨も沢山折れてるのかな?
息が……吸っても、吐いても、痛くて苦しい

周りに誰もいないし、声も出せないから、助けも呼べない
 
もう、指一本動かせないから、放っておいても雪で凍死すると思う

あ……なにも見えなくなってきた……
光も、音も、冷たさも、痛みも、意識も、全部が遠くなっていく……

ぼく、こんな所で死ぬの?

こんな所で……ひとりぼっちで……
  
いやだ……死にたくない……
 
ぼくはただ、ノボリにまた会いたかっただけなのに
これが天罰だとしたら、カミサマはなんて酷い奴なんだろう……

 
……ねえ、カミサマ
ぼくからノボリを奪った酷いカミサマ
もし見ているならお願い、ノボリに会わせて
 
夢でも、幻でも良いから、ノボリに会いたい
 
ねえお願い、カミサマ
もうそれ以外は望まないから、ノボリに会わせて

 
『そこまで会いたいのですか?』
 
……だれ?
 
『わたしはアルセウス。あなたたち、人がそう呼ぶもの』

アルセウス……確か伝説のポケモンだっけ……でも、本当に?
なんだか眩しい気がするけど、姿はもうはっきり見えない……
ねえ、きみがノボリをここに連れてきたの?
 
『彼がこの世界に来たのは、わたしの力ではありません。他の力による不可抗力です』

そっか……
きみのせいじゃなかったんだね
 
『あなたは本来この世界に来るべきではない人間です。あなたが今そうなっているのは、この世界を修正する力があなたを排除しようとしたからです』

そう……
でも、ぼくはそれでもノボリに会いたかったの
ねえ、きみはすごいポケモンなんでしょう?
お願い、ノボリに会わせて

『それはわたしができる事ではありません、それができるのはあなた次第でしょう。わたしが今のあなたにできるといえば……そうですね……あなたをこの世界に適した姿に変える事でしょうか』

この世界に適した姿……それになれば、ノボリに会える?
 
『ただしこれには代償があります』

代償…… 
まあ……そうだろうね
 
『人間としてのあなたです』

人間としての、ぼく?
 
『あなたが人間として生きた記憶、姿、言葉、そして今まさに消えかかっている、その人間としての命をもらいます』

いいよ

『後悔しませんか?』

うん 
ノボリに会えるなら、全部あげる

『あなたはあなたが会いたいと願った人間と言葉を交える事もできない。その人間と出会えてもあなたが気づけないかもしれない。そしてあなたが会いたい人間は、この世界に来る前の記憶を失っています……そうだとしても?』

ノボリ、記憶失くしちゃったんだ……

でも……ぼく信じてる
どれだけ離れていても
互いの事が分からなくなってたとしても
ぼく達の辿り着く先は同じだって

『……わかりました。招かれざるものよ。その強い思いを糧に、あなたの願いを叶えましょう』

ああ……でも、そっか 
ノボリの名前、呼べなくなるかもしれないんだ
なんだか、寂しいな……
じゃあせめて、まだ覚えているうちに沢山呼んでおこう
 
ノボリ
ノボリ
ノボリ

きみとの思い出は、全部ぼくの宝物
それを引き換えに、ぼくはきみに会いに行く
たとえ記憶が全部なくなったとしても
きっと魂がきみを覚えてるはずだから

 
ノボリ、待ってて
次に会った時、ぼくはきみの名前を呼べないかもしれないけれど
絶対、絶対きみに会いに行く

 
きっとぼくは、この選択を後悔する事はない
……けど
最期にこの姿で、きみを思い切り抱きしめたかったな……

ぼくは何も見えなくなった目を閉じて

長い長い息を吐いて

 
息絶えた

 アルセウスが事切れたクダリに額を寄せると、クダリの骸に赤い炎が灯った。
双子の兄に会いたいという強い思いと、自分を置いて行った兄へのほんの僅かな恨み。
それを火種にした炎は業火となってクダリの身体を包み込み、彼の姿を大きく変えた。

短い銀灰色の髪は、薄灰色に蠢く長い鬣に。

岩肌を引っ掻いてひび割れた爪は、全てを切り裂く鋭い爪に。
 
業火は全身を巡り、変化した手足や鬣の先を赤く彩った。

そうして白い呪い狐に生まれ変わった一人の人間は、身を起こして自分の姿を一度見下ろすと、雪が舞い散る暗闇の空を睨みつけて天高く咆哮した。

「ブラボー!!スーパーブラボー!!」
「ありがとうございました!」
 
 今日も今日とて訓練場のいっぴき道。
シンジュ団キャプテンのノボリと、空から落ちて来た少女のショウは、激しいポケモン勝負を繰り広げていた。
彼らのポケモン勝負は、もはやここの名物と言ってもいい。
ペリーラを含む警備隊の隊員達も、彼らの一進一退の攻防に釘付けになっている。
激しい土埃が立ち上り、大きなわざのぶつかりあいの末に勝敗を決すると、ノボリは普段の物静かな雰囲気に見合わない大声で対戦相手に賛辞を送り、ショウは全力を出し切った達成感から清々しい笑顔で頭を下げた。

「ショウさま。本日のポケモン勝負も大変楽しいものでございました」
「私もすごく楽しかったです」
「少し喉が渇きましたね……休憩がてらお茶でも淹れて一服しましょうか。ショウさまも一緒にいかがですか?」
「はい、ぜひ!」

ノボリからの誘いにショウは嬉しそうに頷くと、ノボリは彼女を訓練所の建物の裏側にある縁側に案内して、中で沸かしていたお湯で緑茶を淹れた。

「お待たせしました。熱いのでお気を付けください」
「ありがとうございます」
   
ショウはノボリから差し出された湯呑みを礼を言いながら受け取ると、湯気が立つ緑茶に何度か息を吹きかけてから、湯呑みの縁にそっと口をつけた。

 
「あ、そうだ。ノボリさん、最近天冠山で毎晩吠えているゾロアークって、知ってますか?」
「毎晩天冠山で吠えるゾロアーク……でございますか?」

「私も明日天冠山に行って見ようと思うんで、もしかしたらオオニューラに運んでもらうかもしれないです」
  
テンガン山に本来生息していないゾロアークの噂を聞きつける
毎夜天に向かって吠える

ゾロアークは純白の凍土に生息していると言われているポケモンだ。
それが本来の生息地から離れて、天冠山で目撃されているという事は、何らかの原因で住処を追われて逃げて来たポケモンなのかもしれない。

「すごい鳴き声……」
「……泣いている」
「え?」
「……急いで側に行ってあげなければ」
「あっ、ノボリさん!」
 
なんとか追い払えないかとシンジュ団もコンゴウ団も思案しているが、激しい抵抗にあってできないでいる
ゾロアークは傷だらけでも戦おうとするので放っておけば命が危ない

ゾロアークとノボリが対峙 ツバキとショウもいる
モジャンボのねむりごなで眠らせようとしたが、自傷行為で回避
ゾロアークがノボリに抱きついて背中に爪を立てられる 後に傷跡になる。

 しかしノボリはゾロアークを恐ろしいとは思わなかった。
このゾロアークの低い唸り声の中に、酷く悲しげな何かを感じて「ああ、彼は泣いているのだ」と理解していた。
ゾロアークがノボリを強く抱きしめるほど、ノボリの背中に鋭い爪が深く食い込んで肉を抉る。
壮絶な痛みに意識が朦朧としながらも、ノボリは肩に顔を埋めるポケモンの頭に手を伸ばした。

「どうか……泣か、ないで」

意識が暗転した。

 気が付けばノボリは、真っ白な雪原の真ん中に立っていた。
月も星もない真っ暗な空の下、風の音も、雪を踏みしめる足音も、ポケモンの声も聞こえない無音の世界。
見覚えのある景色にも関わらず、どこか現実味の無い世界に、ノボリはこれは夢の中だと判断した。
その場で突っ立っていても何も起こらないので、とりあえず歩いてみたが、遠くに大きな木が並ぶだけの変わり映えしない景色が続くだけで何も起こらない。
少し疲れたノボリは岩に座って、休憩する事にした。

「……コニ……ノ?」

 どれぐらい座り込んでいただろうか、どこからかふと小さな声が聞こえた。 
息を潜めて耳を澄ませてみると、小さな声は少しずつ鮮明になっていく。
 
「ドコニ……イルノ……?」

誰もいないのに声が聞こえてくるのは怪談ではありがちな展開だが、不思議とノボリは不気味だとは思わなかった。
聞こえてきたのは、ただただ悲しそうな男の声だった。
ノボリがヒスイで歩んだ人生の中でも、ここまで悲しげな声は聞いた事が無い。

「ドコニイルノ?」
「あなたは、一体ーー……」
 
ノボリの問いかけは獰猛な獣の唸り声に遮られ、景色が暗転して真っ暗な世界に放り投げられた。

 「アイタイヨ……×××」

ノボリが目を覚ますと、ゾロアークが先程よりも多くの人とポケモン達に取り囲まれていた。
傷つけられて倒れたノボリにゾロアークは危険なポケモンだと判断、集落に被害がいかない場所まで追い払おうとすると、ノボリが力を振り絞ってゾロアークを庇う。

「このゾロアークの事は、わたくしに任せてください」
「わたくしがやらなければならないのです。……どうか、お願いします」

ショウがノボリの見舞いついでに時折様子を見に行く条件で、ゾロアークはノボリ預かりになる。

ノボリを傷つけて酷く落ち込むゾロアーク
離れはしないけど、怪我人の状態のノボリが近づくと逃げようとする
子供の頃にクダリに抱きつかれて頭を怪我した事があり、それがトラウマになってノボリに近づかなかった事がある
クダリの記憶が無いゾロアークはそれを無意識におもいだしている。
人に囲まれるのも怖いからノボリの後ろに隠れる
力加減をノボリのポケモン達に教えてもらう

「大丈夫、あなたはほんの少し力加減を間違えてしまっただけです」
「こうやって背中に手を当てるような抱きしめ方でも、ちゃんと伝わりますから」

ノボリに抱きしめられて、ノボリを抱きしめ返す事に成功するゾロアーク

 
白いたんぽぽ畑の夢 子供の双子
ノボリは少し離れた所でそれを見ているだけ

「ノボリ見て!こんなにたんぽぽがたくさん!」
「本当ですね、すごく綺麗です!」
「あっ、綿毛がある!飛ばしてみようよ」
「ええ」
「ふーっ」
「あっ!」

子供ノボリのたんぽぽを飛ばしてしまう子供クダリ

「はい、こっちはノボリが飛ばして」

「どこまで飛んでいくのかな?」
「ずっと一緒だったのに、ばらばらになっちゃって、少しさみしいね」
「今はそうかもしれませんね。……でもどんなに離れていたとしても、最後に行き着く先はきっと同じです。わたくしはそう信じています、だから寂しいと思う必要はないのですよ、×××」
「えー?そうかなあ?」
「おや、×××は信じてくれないのですか?」
「ううん、ぼくも信じる!どんなに離れても、最後に辿り着く所は同じだって」
 
後ろを振り返ると、白いたんぽぽ畑で眠る大人のクダリ
ゾロアークの声で目を覚ます

少しずつ背中の怪我な治りつつあった状態で、慌てた様子でノボリの家を訪ねたシンジュ団のモブ
その手には土と血で汚れたクダリの制帽

「無事でよかった。この帽子血が付いてたからてっきりまた怪我をしたのかと。……それにしても、あんた色違いの帽子を持っていたんだな」
「そ、の……帽子は……一体、どこで。どこにあったのですか!?」
「お、落ち着きなってノボリさん!確か森の奥の方にある崖の下だよ。近くの木の枝に引っかかってたんだ」

急に動いて傷が開いて血が出ているのも無視して、家を飛び出して言われた崖の下へ向けてノボリは走り続けた。

酸化した血が未だベッタリついた岩と、そこに引っかかっていた血だらけのクダリの制帽を拾って記憶を思い出す
必死に辺りを探すがどこにもいない、帽子以外彼がいた痕跡もない。
夜になっても止めなくて心配して追いかけて来てくれた人達に止められて泣き崩れるノボリ。

「クダリ……クダリ……ぁ、……ああ、ああぁっ……」

 ヒスイの厳しく無慈悲な自然の脅威や、ポケモンに襲われて命を落とした者は少なくない。
そしてその亡骸に縋り、泣き叫ぶ家族の姿も何度も見て来た。
しかしこれほどまでに、こんな痛々しい泣き方をする人は他にいただろうか?
目を見開いたまま涙も流せず、開いた口から断続的に小さく声を漏らすだけだったが、ノボリは確かに泣いていた。
 光を失った銀灰色の瞳が映すのは、途方も無い悲しみと絶望による底無しの闇。
泣き叫ぶ訳でもなく、唇をわななかせて言葉にならない声を漏らすだけの静かな泣き声、まるで彼が内側から壊れていくような茫然とした泣き声は、分厚く降り積もる雪の中に吸い込まれて行く。
ノボリを追いかけてきた者達は、彼に掛ける言葉を見つけられないまま、皆口をつぐんで目を伏せた。
 

ノボリは傷が開いて寝込んでしまったと聞くショウ。
 
「無理もないさ。あんな事があったのだからな」
「弟さんの帽子が見つかって記憶が戻ったのに。帽子は血まみれで岩に弟さんらしき血が残っていた上に、弟さんの死体すら見つからなかったんだからな」

ショウが見舞いに行こうとすると、道中でグライオン、家の前でジバコイルとダイノーズが慌ててやって来て案内する
家の中で熱に魘されながら床に倒れているノボリ
クダリを探して動き回ったせいで背中の傷が開いて背中から血が滲んでいる
抱き起そうとしても痛がるノボリにどうすればいいか手が出せないカイリキーとモジャンボとフーディン

「すごい熱……」

背中の傷が開いた状態で、雪の中をはだけた薄い寝巻きで走り回ったのだ、熱を出すのも無理は無い。
 
「ゾロアーク?」

重さで抱き起こせないショウを押し除けて布団に運ぶゾロアーク

「すみません……水を飲もうとして……」

ゾロアークが背中を支える状態でノボリにショウが水を飲ませても、飲み込む力もほとんどないので力なく噎せてしまう。

「……っ、げほっ!ゴホッ、ゴホ……」

「申し訳……ありません……」
「包帯、巻き直しますね」

ショウが包帯を巻き直してノボリを布団に寝かせる
その目にはどす黒い隈が浮かんでいる 

「ノボリさん、ちゃんと眠れてますか?」
「クダリが……クダリが血まみれで倒れているんです……」 
「わたくしのせいなのです……わたくしの……ああ……クダリ……ごめんなさい……」

譫言のように夢の中で話しながら、クダリに謝りながら涙を流して眠りに落ちるノボリ

 
憔悴したノボリが、帽子を被ってコートを肩に掛けて、壁に凭れ掛かった状態でぼうっとしていると、自分の帽子を取って顎を掬うように顔を上げさせるゾロアーク。
ゾロアークの仕草を見て、ノボリはゾロアークがクダリだと気づく

「あなた……でも、まさかそんな事が……」
「……ああ。そうなのですね……」
 

夢の中で綿毛になった花畑で眠るクダリ 
 
「クダリ」
「またわたくしの帽子と顔を上げてくれて、ありがとうございます」
「会いに来てくれたのですね……ゾロアークとして」
「やっと、会えたね。……ノボリ」

名前を呼ばれて目を覚まして微笑むクダリ

「何故ゾロアークに……」
「信じてたから」
「互いの事が分からなくなっても……ぼく達、同じ所に辿り着くって信じてたから」「わたくしを……恨んでいるでしょう」
「……分からない。もうほとんど覚えてないの。ぼくはただの未練みたいなものだから」
「未練……」

「でもぼく、きっとノボリの事恨んでないよ」
「…………」
「疑ってる?覚えてなくても分かるよ、自分の事だもん」

「でもね、ぼくこれだけはちゃんと覚えてる」
 
「ぼくはノボリが大好き。ずっと会いたかった」

ノボリを抱きしめるクダリ
ノボリの体温を感じ入るように「ああ……」と声を漏らした。
 
「ずっと……ずっと、こうやってノボリを思い切り抱きしめたかった……やっと、辿り着けた」

身体が消えていくクダリ
 
「……そろそろ、時間みたい」
「嫌ですクダリ……消えないで……置いていかないでください!!」
「置いていかないよ、ずっと側にいる。……これからは、きみのゾロアークとして」
「クダリ……」
 「もう、こうやってお話はできなくなるけど……ぼくはずっとノボリの側にいるから」
「ノボリ、大好きだよ」

輪郭を失い、姿が見えなくなったクダリは無数の白くて小さな光となって、たんぽぽの綿毛と共に、遥か大空へと飛び立っていく。

春になって傷が癒えたノボリ
ゾロアークと歩く

「おや、たんぽぽ。……ここにも生えていたのですね」

ゾロアークは不思議そうに綿毛を見つめてから、ノボリに目を向けた。

「これはたんぽぽと言って、元は黄色い小さな花なのです。そして黄色い花が終わった後に、こうして白い綿毛になって、風に乗って種を運んで……あっ!」

ゾロアークはノボリの説明の途中で綿毛に息を吹きかけて、綿毛を飛ばしてしまった。

「……そう。こうやって種を運ぶ為に、どこまでも遠くまで飛んで行くのです」

ゾロアークがもう一本の綿毛をノボリに差し出していた。
あのたんぽぽ畑で、ノボリに綿毛を差し出していた、幼いクダリの姿と重なった。
 
「……ああ、すみません。……どうしても……止まらなくて……」

「……クダリ」

涙を流すノボリを優しく抱きしめるゾロアーク
彼の背中を傷つけない為に、背中から心臓の上に手を置くだけの優しい抱擁だった。

「ありがとうございます、ゾロアーク。……このたんぽぽは、わたくしが飛ばしてもいいですか?」
 
ノボリが飛ばしたたんぽぽの綿毛は、ゾロアークが飛ばした物を追いかけるように、どこまでも遠くへと飛んでいった。

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