遠くから聞こえる鳥のさえずりに、国広は目を覚ました。
半覚醒の状態で思考が上手く働かず、そのまましばらく天井を見つめていたが、嗅ぎ慣れた部屋に漂う薬の匂いに、ここが自分の本丸の手入れ部屋だと気が付いた。
部屋に時計が無いので今が何時か分からないが、明かりを全く点けていないのに部屋がうっすらと明るいので、夜明けが近い時間帯なのだろうと考えた。
出陣先の戦場から本丸へ帰ってきたのだろうが、何があったのか思い出そうとしても、敵の大太刀に斬られてからの記憶が途切れてしまっているので、早々に深く考えるのを諦めた。
ふと布が擦れる音が聞こえたので国広が頭を動かして目を向けると、毛布にくるまった薬研が部屋の隅で眠っていた。
「……薬研?」
「んん……ああ、起きたか隊長」
国広が声を掛けると、薬研は小さく身じろぎをしてうっすら目を開けると、目を覚ました国広に気が付いて目を擦りながら身を起こした。
夜通しここで看病をしてくれていたのだろう、薬研は内番着のままの姿だった。
「具合はどうだ?」
「……悪くはない」
「そうか。まだ傷も霊力も完全に回復しきってないだろうから急には動くなよ、ちょっと待ってな」
そう言って薬研は立ち上がって手入れ部屋の入口の方へ歩いて行って、備え付けのケトルを使って湯を沸かし始めた。
「……皆は?無事か」
「安心しな、あんたのお陰で皆折れずに戻って来た。皆大将の手入れを受けて休んでいる。あんたの怪我が一番酷かったんだ」
「……そうか、よかった」
部隊の仲間の安否を真っ先に伺った国広に、薬研が安心させる為に簡潔な説明をすると、彼は安堵したように小さく息を吐いた。
薬研は湯気が立つ湯呑みを持って、国広へ差し出した。
「白湯だ、起き上がれるか?」
「ああ」
「ゆっくりだぞ」
薬研の補助を借りながら国広は身を起こすと、彼から湯呑みを受け取った。
「換気するから開けるぞ、寒かったら言ってくれ」
「分かった」
換気のために障子を開ける薬研の背中を見つめながら、国広は湯呑みに口をつけた。
白湯の温かさが国広の指や頬をじんわりと移っていく、一口二口とそれを飲み込むと喉から腹までそれが広がって、張りつめていた糸が緩んだ様な心地にホッと息を吐いた。
少しだけ開けられた障子の間から、寝起きのぼんやりとした思考を覚まさせる冷たい空気が流れ込んでくる。
夜明けが近いのだろう、空のほとんどは闇に染まっているが、遥か遠くに見える山際は白み始めていた。
「なあ、隊長。やっぱり……」
「ああ、分かっている。主も本当は分かっている筈だ」
言い出しにくそうに口ごもる薬研に、彼が言いたがった内容が分かっている国広はやんわりと遮った。
「一度、主とちゃんと話をしないといけないな……これから先、更に手強くなるであろう敵と戦い続ける為に」
山の間から現れた太陽を見つめる国広の横顔は、まだ見ぬ敵を見据える様に険しい顔になっていた。
2022年4月21日 Pixivにて投稿

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