十七、薬研藤四郎の手入れ部屋日記

刀剣乱舞合歓木本丸

「……これは、薬研のこの本丸での記憶で、歴史なのだな」
「ああ、そうだな」

 薬研のノートを一通り読み終えて静形が呟くと、ノートを閉じた巴形が頷いた。
日記にはこの手入れ部屋に関わる事を通して、薬研から見た本丸の歴史が綴られていた。
本丸で過ごす刀達のちょっとした日常、出陣時で起こった事による反省、自分の体質について悩んでいた刀がどう克服していったかの過程など、いろんな出来事が書き込まれていた。
そして何より、薬研がこの本丸の刀達の体調を気にかけてくれている事がよく伝わってくる。
何も知らない状態から少しずつ知識を身に着けて、失敗をしても次への対策を怠らず、常に皆の為に考えてくれていたから、今の彼になっていったのだろう。
 巴形と静形にとって、薬研は顕現した時から何かと世話になっている刀だ。
身体の使い方、睡眠の重要度、本丸の決まり事など、他の刀達にも世話にはなっているが、思い返してみるとやはり薬研に教えてもらった事が多い。
救護当番に充てられた時にも、何も分からない自分達に一から必要な知識や、何かあった時の対処法を教えてくれた。
質問をすれば必ずと言ってもいいくらい答えが返ってくるので、二本は薬研の事を知識の豊富な刀だと密かに尊敬していたが、この日記を見れば、自分達に教えてくれた事は全て薬研の経験に裏打ちされた物だというのが理解できた。

「こら、何を読んでいるんだ?」
「あ」
「薬研!?」

後ろからひょいと持っていたノートを取られたので、二本が慌てて振り向くと、先程まで眠っていた薬研が立っていた。

「す、すまない。勝手に覗いてしまって」
「ここに置いてあったから気になって読んでいた、まずかっただろうか」
「隠している物でも無いからな、たまになら別に構わないぜ」

後ろからやって来た薬研に、静形は日記を勝手に読んだ事を慌てて謝り、巴形は表情を変えずに日記を読んだ事を正直に話した。
薬研は大して気にしていないと言った風に、男らしく笑いながら自分のノートを揺らした。

「それにこれを他の奴が読む事で見つかる物、ってのもあるかもしれないからな」
「なるほど、ならここに来た時にまた読ませてもらおう。ここではこんな風に記憶を形に残す事もできるのだな。俺も日記を書いてみたくなった」
「おお、それはいい考えだな。俺も初めてみるとしよう」
「薬研。今度上手く書けているか見てくれないか?」
「ああ、もちろんさ。楽しみにしてるぜ」
「その前に日記を書くためのノートを用意しなくてはな。巴、薬研、今度共に見に行ってくれないか?」
「そうだな。じゃあ、今度休みが合ったら一緒に万屋街に行くとするか」

 三振りで次の休みを確認して出かける約束をしていると、壁に取り付けてある審神者の執務室に繋がる内線の電話が鳴った。
先程の和やかな空気が、耳に痛いくらいの無機質な音によって消え去り、嫌な予感がした薬研はすぐさま受話器を取った。

「こちら手入れ部屋」
「薬研!負傷者が出た!!重傷三、中傷二、軽傷一だ、帰還の用意ができたらすぐに向かうから、手入れの用意を!!」
「全員負傷か」

酷く動揺しているのだろう、審神者の声は酷く切迫していて、予想以上に悪い状況に薬研も険しい表情を浮かべる。
彼は一度息を吐いて目を閉じると、穏やかな笑顔に表情を切り替えて、審神者を落ち着かせようとした。

「……分かった、すぐ用意する。大将。一旦深呼吸して、落ち着いてからこっちに来てくれよ」
「……ああ、ありがとう薬研。じゃあ頼んだぞ」
「ああ」

努めてゆっくりした口調で語り掛けると、いくつか落ち着きを取り戻した審神者は、薬研に礼を言って通信を切った。

「薬研、負傷者か」
「今、全員負傷と聞こえたぞ」

薬研と審神者の会話を聞いた巴形と静形は、聞かされた第一部隊の事態に顔を強張らせた。

「ああ。どうやら予想以上に悪い状況らしい、すぐに仕事を始めるぞ。巴形は千代金丸達を呼んで人手を集めてくれ。静形は担架の用意ができ次第、それを持ってゲートへ向かってくれ」

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