「……これから補習だけど、一体何するんだろう?先生遅いし」
翌日の放課後、特別補習の為に教室でトレインが来るのを待っていたスレイドは、机の上に座って足をぶらぶらさせながらバイトに尋ねた。
対して上には乗らずに隣の机にもたれて立っている彼は、一時的に目を休める為に遮光眼鏡を外して目を瞑っていた。
「さあな。あとオレ達以外にもう一人補習受ける奴って、どんな奴なんだろうな」
「でっかくて、牙があって、声が大きい奴だよ」
「会った事あるのか?」
「ううん、適当に言った。会った事ない」
「なんだよ。本気にしちまいそうになっただろうが」
「ふふ」
そうやってたわいない話を二人でしていると、教室の扉が大きな音を立てて開いた。
音に驚いたバイトはビクリと肩を跳ねさせると、慌てて眼鏡をかけて誰が来たのか確認した。
「間に合ったー!あ、ワタシで最後?」
青年にしては少し高い、快活な声を響かせながら入って来たのは、黄緑のベストを着たディアソムニア寮の生徒だった。
薄い茶色のレンズの眼鏡をかけていて、その下から覗くアイスグリーンの大きな瞳は、バイトのそれと同じ様に僅かに濁っている。
淡いコーラルピンクの長い髪はよく櫛が通されていて、赤いリボンで一つにまとめて左肩から前に流してあり、こちらに向かって歩く度にさらさらと毛先が揺れる。
白いフリルシャツにリボンの形に結ばれたネクタイ、そして黒いレースアップのドレスシューズを履いて、可愛らしく制服を着こなしていた。
「……オンナノコ、か?」
「ここオスしかいない学校って聞いたけど」
少女にも見える外見の生徒に、二人は戸惑いながら声を潜めて、こちらに歩いてい来る人物の性別がどちらなのか話し合った。
「こんにちは!今日から同じ補習仲間だよね、よろしく」
「あ、ああ。オレはバイト、よろしくな」
笑顔で挨拶をしてきた相手に、バイトは「結局どっちなんだ」と思いながらも自己紹介をした。
「俺はスレイド。あんたオス?メス?」
「えっ?」
「げっ」
とても短い自己紹介をしたスレイドは、いつもの顔でさらりとストレートな質問をした。
彼、もしくは彼女が怪訝そうな表情を浮かべた事に気づいたバイトはギョッとして、すぐさま隣の幼馴染の後頭部を「スパアン!」と音が鳴る程思い切りはたいた。
「……痛いんだけど」
「バッッカ野郎お前!!せめてオトコノコかオンナノコって言えよ!!」
叩かれた頭を摩りながら、スレイドがバイトをジトリと見下ろすと、彼は目を吊り上げて怒鳴った。
「ええ……今俺変な事言った?」
「初めて会った奴にいきなりオスかメスかなんて聞くもんじゃねえだろが!!」
「あっはははは!いい反応!」
面倒くさそうな顔をするスレイドと、それに怒るバイトとのやり取りを見て、三人目の補習受講者はお腹を抱えて笑い出した。
その大きな笑い声に二人が目をパチパチさせて固まっている間に、目の前の生徒は腰に片手を当てて、もう片方の手を胸に当てた。
「ワタシはスワロー。見ての通り、かわいいオスのラブカの人魚よ」
「オスの人魚だったんだ。俺ウツボの人魚」
「オレはダルマザメの人魚だ。わりいな、オレ達ジョーシキ?ってのが、いまいち分からなくてさ。こいつも悪気はねえんだよ」
「あはは。いいよ気にしないで。常識なんてワタシも知らないし」
バイトがスレイドのフォローをすると、スワローは手をひらひらさせながら、特徴的な歯を見せて笑った。
「それにしても二人も人魚なんだ!ワタシ他の人魚に会ったの、昔別れたお母さんと兄弟達以外初めて」
「家族以外の人魚に会った事ないって……お前どこから来たんだ?オレ達船の墓場から来たんだけど」
「ワタシ深海の色んな所を旅して過ごしてたから、ちゃんとした家が無いんだ。だから『深海のどこか』としか答えられないね」
「そうなんだ」
「全員揃っているな」
三人の話が弾みだした頃、いつの間にか何冊かの本と、愛猫のルチウスを抱えたトレインが教壇に立っていた。
彼の存在に気づいた三人は、慌てて自分の席に着いた。
「それでは特別補習を始める。クッキーカッター、フリルは文字の読み書きも同時進行で、エレメンタリースクールの内容から教える。今日は導入として、グレートセブンについて話をしよう」
トレインは三人の生徒を前に、持って来た本を開いて内容を簡単にかみ砕きながら話を始めた。

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