「ものすごいごり押しだったもんな……」
「結局気圧されちゃったもんね」
そして現在、ジェイドに用意してもらった専用のウェアを身に着けて、二人は登山道の中間地点で手ごろな岩に腰かけて休憩を取っていた。
ジェイドに無理矢理寝かされているアズールは、今は地面に敷かれたレジャーシートの上に座り、スレイド達が座っている岩に凭れた状態で眠っている。
よほど疲れていたのか、それともアズールがかなり図太い神経の持ち主なのか、彼は規則正しく息をするだけでピクリとも動かなかった。
「まあ山って行った事ないから、これはこれで楽しめそうだけどね。風も気持ちいいし」
「そうだな。陸には『空気がウマい』って言葉があるって聞いたけど、山に登ってたらなんとなくその意味が分かる気がするぜ。それに静かなのもいいな」
「そうだね。学校はなんだかんだ騒がしいし、やっぱり静かな方が落ち着く」
強い風が吹いてきて、スレイドは咄嗟に帽子を押さえて飛んでいくのを防いだ。
用意してもらったつばの広い帽子は、強い光に弱いスレイドの目をサングラスと共に守ってくれている。
半ば無理矢理連れてこられたようなものだったが、来たことのない山の景色にスレイド達はそれなりに楽しんでいた。
「あれ、そういえばジェイド先輩どこ行ったんだ?」
「あそこ。なんか面白いの見つけたから出発はちょっと待ってってさ」
スレイドが指さした先には、坂道の下の方にある木の根元の近くでしゃがみこんで、小型のスケッチブックを片手に何かを描き込んでいるジェイドがいた。
かなり熱中しているらしく、瞳孔が開き切った状態で対象物を凝視している。
その状態で口元に笑みを浮かべているので、そこまで彼と親しくない人物が今の彼を見たら間違いなく怖がってしまうような表情を浮かべていた。
「ふーん。まあ、急いでいる訳じゃねえし。日帰りで帰れるってんならゆっくりしてくか」
「そうだね」
「うっ、んん……?」
「あ?」
今の内に目を休めておこうかと遮光眼鏡を外そうとしたバイトは、下の方から聞こえて来た呻き声に手を止めた。
声の方に目を向けると、先程まで眠っていたアズールが眉を歪ませてうっすらと目を開けていた。
「あ、アズール先輩起きたのか?」
「うう……バイトさん?……っ、はっ?えっ!?どこですかここ!?」
アズールはしばらく寝ぼけ眼で顔を覗き込んでいたバイトを見返していたが、自分が置かれている状況に気づくと慌てて飛び起きてキョロキョロと辺りを見渡した。
「起きて早々元気だねアズール。活きのいい奴は好きだよ」
「は、スレイドさんも!?一体どうして?」
「ジェイドにゴリ押しで誘われて、今俺達山にいるの」
「とりあえず今は休憩中ってところだな」
「山!?……あ~~…そういう事ですか」
「山」というワードと、自分に着せられたウェアを見下ろして状況を理解したアズールは、目を細めて標的を見つけると、すぐさまそれに向かって駆け出した。
「やってくれましたねこのバカウツボ!!」
「痛いです!!」
「……いい蹴りだったね。あ、水のおかわりちょうだいバイト」
「ああ、ちょっと待ってろ。まあ、あの音なら骨にもダメージいっただろうな」
下り坂による助走に助けられ、アズールのドロップキックはスケッチで視野が狭くなっていたジェイドの肩に綺麗に吸い込まれた。
それを止めることなく眺めていたスレイドは、暢気に水筒を持っていたバイトに水のおかわりを頼んだ。

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