「皆さん、頂上に着きましたよ」
「やれやれ、やっと着きましたか」
「ついた!」
「おー、ここが頂上か」
朝から登り始めて日が真上に昇った頃、四人はようやく山頂に辿り着いた。
山頂はちょっとした広場の様になっていて、辺りを一望できるように木でしっかりと作られた小さな展望台がある。
スレイドはパタパタと小走りで展望台へ向かうと、手すりに身体をくっつけるようにして、そこから見える景色を眺めた。
「おいスレイド、いきなり走るなよ。こんな所で転んだら危ねえだろ」
「バイトすごいよ、すっごく広い。あ、あそこに川もあるんだ」
「うわあ、すげえ眺めだなあ。おっ。スレイド、今あそこにでっかい鳥がとまってるぜ」
「えっ、どこどこ?」
山頂の景色を前にはしゃぐ二人の背中を追いかけて、ジェイド達ものんびり歩きながら展望台へ続いた。
「元気なものですね、あの二人。はあ……疲れました」
「お疲れ様ですアズール、しばらくそこの展望台のベンチで休憩されては?誰もいないのでちょうど貸切状態ですし」
「そうですね、そうさせて貰います」
慣れない登山道に歩き疲れたアズールは、ジェイドに促されて近くに設置されていたベンチに座った。
「あ、そうだ。山の上って大きな声出したら声が返ってくるって本で読んだことある」
「そんな本あったか?」
「かなり前に拾った絵本に書いてた。バイトも一回は聞いてると思う、試してみない?」
「そうだな、せっかくだしやってみるか」
「うん。ええっと確かこういう時のお決まりの言葉って何だったかな……あ、そうだ「ヤッホー」だ、じゃあ行くよバイト」
「ああ、せーのっ」
「「ヤッホー」」
期待を込めてしばらく耳を澄ませていたが、声の余韻はが響くだけで、二人の声は山から返っては来なかった。
「…………あれ?」
「何にも返ってこねえな」
「ふふふ。二人とも、山彦は限られた条件の山でしか綺麗に聞こえてこないんですよ」
「そうなの?」
不思議そうに首を傾げる二人に、ジェイドは笑いながら彼らの隣に立った。
「はい。大きくて硬い部分を目標にして、約300メートル位の距離から大声を出せば綺麗に声が返ってくるんです。ここは木が多いので声を出しても音が吸収されて、聞き取りづらいかもしれませんね」
「へえ、ちゃんとした条件があるんだな」
「なんだ、ちょっと残念」
ジェイドの解説にバイトは感心した様に頷いて、スレイドは少し拗ねて展望台の手すりに頭を乗せた。
「今度は山彦が綺麗に聞こえる山に行きましょうか。ちなみに山を愛する会に入れば、更なる珍しい植物や面白い生き物との出会いを楽しむ事もできますよ」
「引き抜きはやめて貰えますか、彼らはうちのボードゲーム部の部員ですよ」
さりげなく二人を自分の部へ勧誘しているジェイドに、アズールはベンチからすかさず釘を刺した。
「おや、バイトさん。スレイドさんはどうしたんですか?確か一緒にトイレに行っていましたよね」
山頂に着いてから数十分後、そろそろ山を下りようと準備をしていると、ジェイドはスレイドの姿が見えない事に気がついた。
「えっ。オレが用を足した時にはもうあいつはいなかったぜ?先に戻ってなかったのか?」
「ええ、戻って来てませんね」
「……まさか、あいつまたフラフラと!」
バイトはギッと目を吊り上げると、彼の名前を呼びながら山頂の広場を歩き回った。
「おーーい!スレイドーー!どこいったー!!」
「スレイドさん!」
「いるなら返事してください!」
三人で大声で声を上げて彼を呼んでも、植物が動く音もスレイドの声も聞こえず、ただ鳥のさえずりだけが遠くから聞こえてくる。
「どうします?一旦手分けして探しますか?」
「いえ、来た事の無い山で別々に行動すると二次遭難の恐れがあります。固まって動いた方がいいでしょう」
「仕方ねえな……こうなったら魔法使うか」
バイトはため息を吐くと、ウェアのポケットに入れていたマジカルペンを構えた。
「追跡魔法をするつもりですか?けれど彼を探す為の媒介なんてありませんよ」
「大丈夫だ、必要ねえよ。『オレの目、オレの灯、望む場所へ連れて行ってくれ』……自律する疑似餌(オート・デコイ)」
バイトがペンを振るうと、半透明の赤と青色の小さな魚が現れて彼の顔の周りを泳ぎ始めた。
「ランタン、スレイドを探せ。ガイドはオレ達を案内してくれ」
バイトが簡潔に指示を出すと、赤い魚の方がヒレを翻してどこかへ泳いでいき、対して青い魚の方はそのままバイトの顔の周りを泳いでいた。
「先輩達ちょっと待っててくれ、今ランタンが探してくれてるから」
「バイトさん、その魔法は?」
ジェイドはバイトが出した魚の幻影を指さして尋ねた。
「オレのユニーク魔法、自律する疑似餌(オート・デコイ)だ。さっき泳いでいった赤いのはランタン、こっちの青いのはガイド。これでスレイドがどこに行ったかを探して貰ってるんだ」
「そんな。媒介なしで追跡ができる魔法なんて、便利すぎる!」
相手がどこにいるか確認する魔法はいくつか存在するが、大抵は相手の髪の毛などの身体の一部か、相手の持ち物などを媒介にして追跡魔法を掛けるのが主流のやり方だ。
なのでその媒介が無い場合で魔法を使うと、魔法の難易度も、溜まるブロットも何倍にも跳ね上がる。
なので媒介を必要とせずに相手を探せる魔法と聞いて、アズールは興奮して大きな声を上げた。
「追跡魔法と言うより探索魔法の方が近いな。元々獲物を探す補助に使ってたんだけど、あいつがいっつもフラフラどっか行っちまうから、今じゃあいつを探す時に使っている方が多いんだよ」
しばらくバイトがガイドを見上げて指で戯れていると、突然ガイドがピカピカと光り出して、どこかへ向かって宙を泳ぎ出した。
「お、見つかったみたいだな。じゃあガイド案内を……って、こっちなのか?」
ガイドがトイレの裏側の方へ泳ぎ出したので、バイトは困惑しながらそれについて行き、残りの二人もそれに続いた。
トイレの裏は手入れがされておらず雑草などが伸び放題になっていたが、一か所だけ雑草が薙ぎ倒されて道の様になっている。
「道?こんなのがあったのか」
「こんな所に獣道ですか」
「見てください。よく見ると真新しい足跡があります、靴底の模様も僕が貸した靴のものと似ています。おそらくスレイドさんでしょう」
ジェイドが指をさした所には、彼が言った通り比較的新しい足跡が道の向こうまで続いている。
ガイドは困惑している主人達を置いて、そのまま雑草の中の道の向こうへ泳いで消えていった。
「急いで行ってみよう、ガイドを見失ったらまずい」
バイト達はガイドを追いかける為に獣道の中へ駆け出した。

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