7、「なんで俺達山にいるんだろう」

ツイステッドワンダーランド生き別れのウツボの人魚

 獣道は登山用に整備されていないので、飛び出た石やぬかるみで地面がでこぼこしており、バイトが躓いたり、山道に慣れているジェイドがアズールに手を貸しながら、ガイドを見失わないように追いかけた。
坂道を下りて木々の間を潜り抜けると、小さな白い花が沢山咲いている花畑がある少し開けた場所に出た。

「花畑……こんな所があったのですね」 
「あ、いた!!」 

その花畑の真ん中で、細長い人影の頭上をランタンが目印になるようにグルグルと泳いでいる。
ずっと探していたスレイドが一人、フラフラと覚束ない足取りで歩いていた。 
 
「おいスレイド!」
「あ、バイト。どうしたの?」

魔法を解除してバイトが駆け寄ってスレイドの腕を強引に掴むと、先程のフラフラした様子とは違って、彼は至っていつもの様子で首を傾げていた。
 
「お前勝手にどっか行くなよ!心配しただろうが!!」
「ふふ、ごめんごめん。ちょっと変わったチョウチョ見かけたから着いて行ったら逸れちゃった」
「は?変わったチョウチョ?」 

目を吊り上げて怒るバイトに、スレイドが悪びれも無く楽し気な笑顔で謝って訳を話すと、バイトは毒気を抜かれて目を丸くした。 
 
「ほら、これ」

スレイドが手を虚空に伸ばすと、青い炎を纏った小さな蝶が一匹飛んで来た。
 
「小さいし、綺麗な色でかわいいでしょ?」
「へえ、見た事無い蝶だな。燃えてるけど熱くねえのか?」
「うん、イデアさんの髪の毛みたいな感じ。熱くないよ」 

 スレイドが笑って指先にじゃれつく蝶を見つめているのを、バイトは興味深そうに眺めていたが、少し離れてそれを見ていた残りの二人は蝶を見て顔を引き攣らせていた。
その蝶はただ青い炎を纏っているだけでなく、よく見ると体全体が今にも折れそうな細い骨の様な物でできており、繊細な作り物の様にも見える。
よく見れば見る程、とても生き物とは思えない見た目をしていた。
 
「待ってくださいスレイドさん。この蝶、普通の蝶じゃないですよね」
「え?」 
「まさかこの蝶……死炎の蝶では?」 

アズールが告げた聞きなれない単語に、スレイドとバイトは首を傾げた。

「死炎の蝶?なにそれ」
「詳しい正体は分かっていないそうですが、人の魂が何らかの形で変質して、蝶の形になったモノとも言われています。とても珍しい蝶で、陸の人間の間では「不吉の象徴」とか「死を連れて来る蝶」と言われていて、あまりいいモノではないとされているそうです」
「そうなのか」
「こんなに綺麗なのにね」

アズールの説明を聞いて、スレイド達は少し不思議そうな顔をした。

「まあいっか。このチョウチョ結構人懐っこいみたいだし、可愛いし」
「確かに、こうしてると結構可愛い所あるな。オレの髪にもじゃれついてくるし……っ、ひひっ、こら、くすぐってえよ!」 
「クスクス。このチョウチョ、バイトの髪が気に入ったみたい」

蝶はスレイドの指から離れ、今度はバイトの髪にじゃれつき始め、そのくすぐったさに彼は肩をすくめて笑い声を上げた。  

「……驚くほどに彼らに懐いていますね」
「ええ。しかし滅多に姿を見られない炎を纏った蝶……とても興味深いですね」
 
好奇心がくすぐられたジェイドが、早速二人に近寄って蝶を良く見ようとしたが、蝶はジェイドから逃げる様に飛び去って花畑のもっと奥の方へ飛んで行き、見えない所へ下りて行ってしまった。
  
「おや、僕は嫌われてしまいましたか」
「図体はスレイドとそんなに変わんねえのにな」
「ジェイドの事苦手なのかな。あっち行っちゃった」  

 どこかへ下りて行った蝶にスレイドがついて行くと、突然足元がぐらついて慌てて後ずさった、蝶が飛んだ先は十数メートルの崖になっていたのだ。
スレイドは崖から落ちないように地面に四つん這いになって、少しずつ前に進んで崖下に何があるか覗き込んだ。  

「……あっ」   
「スレイド?どうしたんだ?」 
「……そっか、見つけて欲しかったんだね」

花畑の影にあった崖の下には、何年も経過してボロボロになっている一人の白骨死体が転がっていた。 


「お待たせしました。ひとまずこれで必要な所への連絡は終わったので、僕達も帰りましょうか」
「ああ」
「そうだね」

 さすがに白骨死体をそのままにしておくわけにはいかなかったので、山の管理人や警察などに一通り連絡をして後の処理を任せると、一同は学園に帰る事にした。

「暗くなってきましたので、皆さん足元に気を付けてくださいね」 
「やれやれ。とんだ厄介事に巻き込まれましたね。しばらく山登りは遠慮したいです」
「そう?俺は結構楽しかったけど」
「お前がフラフラどっか行かなかったらな。はあ……さすがに疲れた」
  
 元の登山道に戻る為に、四人はジェイドを先頭に獣道の坂道をゆっくりと上っていた。
既に日は大分傾いているので、夜になる前に早く下山したかったが、余り体力の無いバイトとアズールにそんな元気は残っておらず、スレイドとジェイドが彼らの歩くスピードに合わせる形で歩くことになった。 

「けど綺麗なチョウチョに会えたでしょ?それにあそこに面白い形の花も生えてるし、面白い発見が沢山あって楽しかったじゃない」
「まあな……ん?面白い花?」
「ほら、あそこ」  
「ん?……こっ、これは滅多に市場にも出ない貴重な花!まさかこんな所でお目にかかれるとは!これがあれば高難易度の魔法薬も作れますよ!」

スレイドが指さした花がとても希少な物だと気づいたアズールは、今日一番のハイテンションでその花に飛びついた。

「アズール待ってください!採取する前に写真と簡単なスケッチをさせてください!」
「いいでしょう、待つ代わりに僕がこれを貰いますからね!あっ、お二人ともこちらを譲って貰ってもいいですか!?」
「え?ああ、うん」
「あー……オレ達は見てるだけでいいから構わないぜ」
「ありがとうございます!」    
 
目をぎらつかせながら迫って来るアズールに気圧されて、二人は戸惑いながらも頷いた。

「な、なんか、すごい食いつきようだな……」
「なんだ。アズールあれだけずっと嫌そうにしてたのに、ちゃんと楽しんでるじゃない。こういうの何て言うんだろ、ツンデレ?」
「それ使い方間違ってんじゃねえか?」 

それからジェイドとアズールが大興奮で花を取り囲む姿を、二人はすっかり置いてけぼりにされた心地でしばらく眺めていた。

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