三行半を突きつけるまたとない好機 【後編二】

ポケモン(サブマスメイン)三行半を突きつけるまたとない好機小説

「は……は……」

 クダリは荒い呼吸を繰り返しながら、ポケモンへ指示する為にずっといろんな場所を指さし続けていた左手を下ろし、だらんと上半身の力を抜いて項垂れた。
バトル中ずっと咥えていたホイッスルも、咥え続ける力がなくなって、口から零れ落ちる。
 
やり切った。
今自分が持っているもの全てを出し切った。
そう思えるとても楽しいバトルだった。
バトルの時の興奮が中々冷めなくて、心臓がドキドキして、今でも身体が熱い。

ノボリはこのバトルをして、どう思ったのだろう?
今自分が思っている気持ちと、ノボリの今の気持ち、同じだったらいいのに。
でもそれを今のノボリに尋ねるのは少し怖くて、バトルの反動の疲労となってクダリの背中にのしかかる。
クダリはその場から動かず、そのまま顔を上げられないでいた。
  
「ブラボー!スーパーブラボー!!」

 突然訓練場に響き渡った大きな声に、クダリは顔を上げた。
本気を出して、心から楽しいと思えるバトルができた時に、彼が対戦相手へ送っていた賞賛の言葉。
激しいバトルの跡が残るコートの向こう側で、ノボリは涙を流しながら微笑み、自分とシンメトリーだったいつものポーズを取って、クダリを賞賛していた。
 クダリがずっと探していた、ずっと追い求めていた光景が現実として目の前にある。
その事実が、クダリの中でひび割れていた所を癒やし、空っぽになっていた部分をじんわりと満たしていった。
 
一歩、クダリはノボリの元へ歩みを進める。
 
二歩、あまり力の入らない足を引きずって前へ進む。

三歩、バトル後の疲労で重たい左腕を持ち上げて、こちらへ駆け寄って来る兄の方へ手を伸ばす。

四歩目を踏み出した瞬間、既にガタがきていた下肢装具が大きな音を立てて壊れた。
 
視界が大きく傾いて、迫りくる地面の衝突に備えて目を閉じて身体を強張らせると、クダリがずっと焦がれていた温かい黒に包まれた。

「……ノぉ、リ」
「クダリ」

 クダリがゆっくり目を開いてそっと名前を呼ぶと、震える声で名前を呼ばれる。
地下で共にバトルをしていた時とは違う、土埃と植物の匂い。
背中に回されている力強くなった腕。
親子と思われそうな程にかけ離れてしまった年齢。
なにもかもが別人と感じる程に変わってしまっている。
それでも自分を呼ぶ優しい声、自分を抱きしめるその温かさはちっとも変わっていなかった。
  
「クダリ……来てくれて、ありがとうございます。……とても……とても、ブラボーなバトルでした」
「……ノぉ、リ」
「はい」

もう一度名前を呼ぶと、ずっと返ってこなかった返事がちゃんと返ってくる。
それだけでもクダリの目頭をグッと熱くさせた。

「……はぁしたい、こと……いっぱい、あぅ」
「ええ。わたくしも。……聞きたい事も、謝りたい事も、話したい事も沢山……それはもう、沢山あるのです。クダリ」
「……はは……たぉ……しみ……」

クダリは弱々しい笑い声をあげて、眼帯に隠されていない目から涙を溢すと、抱き返せない代わりにノボリの肩に顔を埋めた。

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