「あいつに特が付いて、演練に行った時に気づいたんだけどさ、妙に他の山姥切国広より足が速いと思ったんだよ」
手入れ部屋で横たわっている同田貫の近くで、本体の刀を手入れしている審神者が、ふと零した。
顔だけ審神者の方へ向けると、あぐらをかいて手際よく動かしている手に対して、その横顔は静かだ。
他の審神者は札を使ったり、祝詞の様なものを唱える者もいるらしいが、この審神者は、通常の刀の手入れのと同じやり方で刀剣達を修復する。
体を癒す為に流される霊力は、通常流れている霊力とはまた違った心地よさがあり、ついうとうとしてしまう為、言葉を発するのも億劫になってしまう。
特に相槌を待っていた訳でも無いらしく、審神者はそのまま話を続けた。
「霊力の消費が早い分、体を巡っている霊力の純度が高いらしくてな、それで他の山姥切国広より数段身体能力が高いらしいんだ。その代わり眠りやすいし、二回連続で出陣は出来ないけどな」
「なんで、それを俺に言うんだ?」
「ん?」
手入れの手を一旦止めて、審神者はあぐらの姿勢のまま横たわる同田貫に向き直った。
「ああ、同田貫はいっつも寝ているまんばしか見れなかっただろ?だから同田貫には、まんばが戦っている姿を、戦場で見て欲しかったんだ。あいつ、強かったろ?」
「……ああ」
「最初の頃は、自分もあいつも眠気のコントロールが出来ずに、よく倒れていたんだ。……それで、特に最初の方に来てくれた刀達には苦労させた。大体どこまでが自分の限界なのかを見極めて、戦えるようになったから、あいつの今の強さがあるんだと思う。だからさ、刀として戦わせる為に、あいつが寝ているのは大目に見てやってくれないか?」
そう言って審神者は頭を下げた。
本丸はこの審神者と国広から始まった、だから互いの苦労が分かっているのだろう。
審神者自身も体質上、睡眠時間を多めに取らないといけない為、最低限の出陣しか出来ない。
その為目に見える実績は上手く積む事が出来ず、その上審神者の体質の事を知らない同期の審神者達からは、「落ちこぼれ」「怠け者」などと、嘲弄される事もあった。
「……あいつもあんた譲りで、随分と誤解を受けやすいんだな」
「ふ……まあな。誤解に関しては、もう慣れたよ。あ、もちろん写しがどうとかでウジウジしてたり、出陣の日に寝坊していたら、遠慮なくぶっ叩いてもいいからな」
神妙な顔からパッと表情を明るくすると、審神者は道具を片付け始めた。
「ぶっ叩くのはいいのかよ」
「戦うための睡眠と、ただの寝坊は違うからな。ああ見えて、ちゃんと睡眠がとれていたら寝起きはいいから。よし、手入れも終わったから、今日はこのまま寝ときな」
そう言って審神者が同田貫の肩を一発軽く叩くと、彼の本体を近くの刀掛けに置いて、他の刀の手入れに向かった。
同田貫はそんな審神者の言葉に甘えて、今日は眠ってしまう事にした。

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