三行半を突きつけるまたとない好機 没シーン集

ポケモン(サブマスメイン)三行半を突きつけるまたとない好機

後編一にて アルセウス戦 
攻撃から逃げ回るコウキを見ているだけで、何もできずに憤るクダリのシーンから繋がっています。
没理由:ワンチャン脳震盪を狙えるかもしれないと思ったけれど、いくらポケモン世界の人間でも、300キロ超えのアルセウスを殴ったところで、ダメージは入らないだろうと思ったのと、8月末辺りでコウキとクダリを共闘させるシーンを思いつき、個人的にこっちの方が胸アツな展開になりそうだなと思ったから。

「…………」

シャンデラで援護する場合も考えたが、あれだけ両者共に動き回っていれば、コウキにわざが当たってしまうかもしれない。
相手が一撃でポケモンを倒せるわざを持っているなら、いたずらに繰り出してポケモン達を傷つけたくない。

結局思いついた方法は、自殺行為にも等しい無謀なやり方。
大したダメージにならなくてもいい。
当たらなかったとしても、コウキがアルセウスに攻撃する隙になればそれでいい。
その後の自分がどうなったとしても、なるようになるだろう。
 
 
クダリはコウキとアルセウスに気づかれないように、ホルダーに付けていたある一つのモンスターボールを、指先でコツコツと叩いた。 

 
突然、コウキの背後でシャンデラが悲鳴をあげた。
急いで振り返ると、シャンデラが目を見開いたまま上を見上げている。
アルセウスの攻撃が当たった訳ではないらしく、ひとまずそこは安心したが、シャンデラに守られていた筈のクダリがいない。
彼を支える黒い杖だけが床に転がっている。
 
「クダリさん!?」

 アルセウスからの攻撃を避けながら慌てて辺りを見渡しても、あの長身がどこにもいない。
もしアルセウスの攻撃の流れ弾に当たって、クダリが吹き飛ばされてしまったのなら、シャンデラはすぐに彼の元へ飛んでいくだろう。
では何故シャンデラは、その場から動かずに上を見上げているのか?
 シャンデラの目線を辿ろうとしたら、次にアーケオスの悲鳴の様な大きな鳴き声が、遥か頭上から聞こえたので、つられて上を見上げると、飛び込んできた衝撃の光景に目を疑った。
いつの間に移動したのか、叫んでいるアーケオスが十メートル以上の上空にいて、その背中から飛び降りたらしいクダリが、頭から真っ逆さまに落下していた。
 彼はアルセウスに狙いを定めて、咥えていたホイッスルを思い切り鳴らす。
すると音に驚いたアルセウスは、上を見上げたまま動きを止めた。
これでアルセウスに大きな隙ができたが、このままではクダリがアルセウスに衝突するか、地面に叩きつけられてしまう。
今唯一彼をどうにかできるとしたら、サイコキネシスを使えるシャンデラだが、今クダリが落ちている高さまでは、シャンデラが今いる場所からは、どれだけ頑張ってもわざが届かない。
アーケオスが急降下してどうにかクダリに追いつこうとしているが、彼の落下スピードが速くてそれも間に合わない。

「クダリさん!!!」

真っ逆さまに落ちていく彼にコウキは何もできず、彼のポケモン達と同じく、ただ彼の名前を叫ぶ事しかできなかった。

 
『…………は?』

 突然頭上から降り注いだ高い音に気づいて顔を上げると、アルセウスは目の前の光景に目を見開き、自分の時間が止まったような錯覚を覚えた。
アルセウスは白い男の事を眼中に入れておらず、完全に戦力外だと思っていた。
だからアルセウスは男へ向かって攻撃は一切しなかった。
必要性を感じなかったからだ。

それなのにどうだ。

この男は丸腰で上空から落下して、自分に向けて拳を構えているではないか。

 神と呼ばれる伝説のポケモンに、たかが人間一人が普通に殴りかかったところで、大したダメージにはならない。
しかし高い所から落下して、重力によって勢いと威力が上乗せされた180センチ超えの成人男性の拳は、上を向いたアルセウスの顎を的確に捉えた。
完全な不意打ちで食らったクダリの拳は、アルセウスの脳を大きく揺さぶり、数秒に満たない短時間で平衡感覚を狂わせる。
結果としてクダリはアルセウスに膝をつかせるどころか、頭を地面に叩きつける事に成功したのだった。

 
『あ、あいたたた……まさか人間が素手で殴ってくるとは……あまりに予想外ですが、約束は約束です。あなた達を「ちょっと黙っててアルセウス。クダリさん聞いてますか!?ボク怒ってるんですよ!?」……ええ?』
 
 自分が課した試練を見事乗り越えた二人へ、望み通りチャンスを与えようとしたアルセウスだったが、コウキに怒りの表情のまま自分の言葉を遮られて、思わず困惑の声を漏らした。
困惑するアルセウスを置いてけぼりにして、コウキは再び厳しい顔でクダリに視線を戻して、アルセウスを殴って痛めた彼の左手首に包帯を巻き始めた。
 クダリはアルセウスを殴った後、シャンデラが必死に落下地点近くまで猛スピードで移動して、全力のサイコキネシスを使ってくれたおかげで、間一髪、身体を地面に叩きつけられる事は免れた。
それから助け出された彼は、現在激怒しているシャンデラとアーケオスに挟まれて、正座させられている。
といっても、足の装具の事があるので若干姿勢は崩していたが。

「大事な左手なのにこんな怪我して……!今回は手首を痛めただけでよかったけど、もっと酷い怪我になってたかもしれないんですよ!」
「…………」

 説教を受けるクダリは、コウキから顔を思い切り反らした状態で苦虫を噛み潰したような顔をして、何か言いたげにモニョモニョと口を動かしていた。
しばらく黙っていたクダリは、先程の戦闘で発生した粉塵が地面に溜まっている場所を見つけると、指で『一発殴らないと気が済まなかった』と雑な走り書きをした。
正確に言えば、ノボリとヒカリを理不尽に連れ去った事。
ノボリを使い捨ての様に扱った事。
加えて自分の目の前で、コウキを危険な目に遭わせたのが許せなかったのと、ポケモン達を傷つけずにアルセウスに隙を作らせる為には、あの方法しか思いつけなかったからだが、それらを全て一纏めにするとその一言に尽きる。
しかし、思っている事の大部分を省略した彼の言い分は、かえってコウキ達をもっと怒らせる結果になった。
 
「だからってあんな危ない事……!!シャンデラが間に合わなかったら、クダリさん頭から地面に叩きつけられてたんですよ!?アーケオスなんて、クダリさんが落ちていくのを見て泣いてたんですから!!」
 
禍々しく炎を燃やして、怒りの声をあげて詰め寄ってくるシャンデラと、泣きながら自分の腹に何度も頭突きをしているアーケオスの姿を交互に見て、クダリは居心地悪そうに黙ったまま肩を小さく丸めた。
 
「クダリさん言いましたよね!ボクに何かあったら、ヒカリが悲しむって!ボクを大事に思ってくれている人達が悲しむって!!クダリさんだっておんなじです!!クダリさんに何かあったら、ノボリさんだって、ボクだって、イッシュ地方の人達だって、ここにいるポケモン達だって!!みんな悲しむんです!!」

 アルセウスに攻撃する事だけを考えた、完全に捨て身の攻撃。
自分の命を顧みる様子が無かったクダリの行動に、コウキは腹が立った。
コウキを危険な目に遭わせたくないと言った癖に、自分が傷つく事で大切な人が悲しむ事を知っている癖に、クダリにだって大切な人がたくさんいる筈なのに、怒りに任せて自分の命を危険に晒すような真似をしたのが許せなかった。

「もっと……もっと、自分を大事にしてください!!」

この思いがほんの少しでも伝わって欲しくて、コウキは自分の怒りをクダリにぶつけ続けた。

 
『あの……もう、そろそろいいですか?彼も反省してるみたいですし』

 言われた通りにずっと黙っていたアルセウスは、恐る恐るコウキに声を掛けた。
ずっと大声で怒鳴っていた反動で、肩で息をするコウキの向こうには、ようやく反省したクダリが涙目で俯いてプルプル震えている。
その様子はさすがのアルセウスでも、彼が哀れに思えてくる程だ。
二匹のポケモンと少年からの、謝る暇も無いくらいの激しい説教は、昔よりややメンタルが脆くなったクダリにはきつ過ぎたのだ。
声を掛けられてようやくハッと我に返ったコウキは、元の温厚な少年の顔に戻ってアルセウスの方へ振り返った。
 
「ごめんね、アルセウス。お待たせ」
『あ、はい。……コホン。では、約束です。彼らを元の世界へ帰すチャンスを与えましょう』

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