三行半を突きつけるまたとない好機 【中編】

ポケモン(サブマスメイン)三行半を突きつけるまたとない好機小説

 身支度もそこそこにポケモンセンターを出た二人は、早速近くにあるトレーナーズスクールへやって来た。
温かみのあるフローリングの木目が浮かぶ床と、淡い暖色系の色の壁は目に優しく、至る所に駆け出しのポケモントレーナーの子供達がポケモンについて学んでいる。
パソコンを使ってポケモンのタイプについて勉強をしている子もいれば、黒板一面に書かれたポケモン体調の変化についての内容を眺めながら、口元に手を当てて小さく頷いている子供もいる。
少し遠くにある広いスペースでは、習った事の復習も兼ねて、ポケモンバトルをしている子供達もいた。
見知らぬ来訪者と、この地方には生息していないシャンデラの存在が気になっているのだろう、一部の子供達からの遠巻きの視線を受けながら、コウキ達はスクールにいくつもある本棚を前に、目当ての本を探し始めた。
 

 本棚にはポケモンの生態、進化について、ポケモンバトルについてなど、大小様々で色とりどりの背表紙を持つ本達が、ここに来たトレーナー達に読まれる為に整然と並んでいる。
大量に並ぶ本達の中には、背表紙にタイトルが書かれていなくて、わざわざ本を取り出して表紙を確認する必要がある本もあって、本探しは予想以上に難航した。
 
「うーん……どんな本かもう少し調べておけばよかったな……」
「…………」
 
本棚を前に腕を組むコウキを横目に、隣に立っていたクダリは、おもむろに背表紙にタイトルが書いていない、濃紺の分厚い本を手に取った。
表紙には『シンオウ地方のポケモンバトルの歴史』と書かれていて、まさに二人が探していた本だった。
 
「すごいクダリさん!一発で探し当てるなんて、どうして分かったんですか?」
 
一発で本を探し当てたクダリに目を丸くして驚くコウキに、彼はニッコリと笑って口だけで「なんとなく」と答えて、近くにあるテーブルを指さしたので、コウキは促されるままテーブルに本を置くと、立ったまま本の中身を読み始めた。

 本の内容によると、シンオウ地方のポケモンバトルの歴史はこのコトブキシティと深く関わっているらしく、まず冒頭部にコトブキシティの歴史について書かれていた。
コトブキシティは元々、『コトブキムラ』という村が発展して大きくなってできた町で、他の地方からここへ渡って来た人達が築き上げた村らしい。
そしてコトブキムラにあった訓練場は、当時警備隊の鍛錬をする場所だったが、いずれポケモンを手懐ける事に長けていた人物が中心となって、ポケモン勝負の訓練もされるようになり、それがシンオウ地方にポケモンバトルの文化を広めるきっかけになったそうだ。
そして最後に、「その訓練場は時代を経て形を変え、現代ではこの町のトレーナーズスクールとして、次世代のトレーナーのタマゴ達にポケモンバトルの楽しさを伝える場所となっている」という一文で締めくくられていた。
 
「ポケモンバトルの楽しさを伝える場所となっている、か……あっ」
「!」

 ページを捲ると、左下にモノクロの古びた写真の画像が載っていて、二人はそれを見て声をあげた。
劣化していた写真は、見やすいように復元されているらしく、博物館にあった写真よりも鮮明に写っていた。
写真に写っているのは当時の訓練所を正面から撮影した景色らしく、建物の前に簡易的に造られたバトルコートが広がっていて、ポケモンバトルをしているらしい二匹のポケモンが対峙している。
コートの両端には、炎を纏う大きなポケモンを指示する少女と、グライオンを指示しているあの黒いコートを身に着けた中年の男性が写っていた。

「ヒカリ!」
「ノぉ、リ!」
「え!?」
「!?」

自分と同時に探し人の名前を叫んだので、コウキは目を見開いてクダリの方へ振り返った。
クダリも同じ理由で驚いたらしく、片方だけの目を丸くしてコウキを見つめ返していた。
 
「……この人が……ノボリさん?」
「……ヒカぃ?」
「はい、この子がヒカリです」

 コウキとクダリは恐る恐る確認をし合い、しかし互いに掛ける言葉を見つけられないまま、もう一度本に載っている写真に目を落とした。
写真に写っているヒカリは、頬や手の甲などに小さな切り傷や擦り傷を作っていたが、そんな状態を気にした様子もなく、今まで何度かポケモンバトルとした事があるコウキでも見た事が無い、強気の笑みを浮かべて対戦相手を見据えている。
一方ノボリの方は、黒い帽子の鍔を下げていたので、顔はほとんど見えなかったが、双子のクダリよりも遥かに年を重ねた姿をしていて、僅かに見える瞳は画質の悪い写真でも分かる程に鋭く光っていた。

「…………」

 不意にクダリが、写真のノボリのコートの左側にある大きな穴の部分に指を滑らせた。
ポケモンに切り裂かれ、ノボリの生死に関わっている可能性があった、あのコートの穴。
しっかりと両の足で地面に立っているノボリの姿を見るに、どうやらポケモンに襲われたとされていたコートの穴は、彼の生死には関わっていなかったようだ。

「…………」
「あっ、クダリさん!」

 写真を見たクダリは口元を覆い、細く長い息を吐いたかと思ったら、突然力が抜けるように膝から崩れ落ちそうになった。
咄嗟にシャンデラがサイコキネシスを掛けて身体を支えたので、コウキも彼の背中を支えてテーブルに寄りかからせた。
 
「……大丈夫ですか?」
「…………よぁ、ったぁ」

震える手に隠されたクダリの口から漏れたのは掠れた安堵の声で、堪えるように目は細められていたが、涙が目尻に僅かに滲んでいた。
彼の表情を見ていると、コウキも胸の中から何かがこみ上げてきて、つられて目頭が熱くなった。
  
「……よかったですね、クダリさん」

涙声のコウキの言葉を聞いた瞬間、彼は今度こそ涙を溢れさせ、小さく鼻を啜りながら何度も頷き、同じく隣で目を潤ませているシャンデラを抱き寄せた。

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