三行半を突きつけるまたとない好機 【中編】

ポケモン(サブマスメイン)三行半を突きつけるまたとない好機小説

「白いお兄さん!お兄ちゃん!ありがとー!!」
「またねー!!」
「ばいばーい!!」

「    !」 
「ばいばーい!!」

入口まで見送ってくれる子供達に手を振って、二人はトレーナーズスクールを後にした。

「……うーん!久っしぶりに思い切りバトルができて楽しかったなあ!」
『ケガしてからみんな全然バトルしてくれなくなったから、久しぶりにすっごく楽しかった!』
 
 スクールの校舎を出た二人の表情はどことなくすっきりしていて、コウキは歩きながら思い切り伸びをして、隣を歩くクダリも杖をつく音も、心なしかリズムを取っているみたいに弾んでいる。
旅の間は内心余裕がない状況が多かったので、子供達とのポケモンバトルは二人にとっていい気分転換になった。

「それに、クダリさん子供達に教えるのもすごく上手でしたね。教え方もすごく分かりやすそうだったし、まるで本物の先生みたいでしたよ!」
 
 ポケモンバトルを終えた二人は、その後もスクールに留まり、バトルのコツなどを子供達にアドバイスした。
コウキも頭の中で伝わりやすい言葉を探しながら、懸命に子供達にポケモンの事について教えていたが、子供達の質問攻めのペースに答えが追いつけず、最後はタジタジになってしまった。
対してクダリは、元々車掌という接客対応が必要な仕事をしていたからだろうか、自分よりもずっと多くの子供達に群がられても、彼は慣れた様子で簡潔な言葉と絵を手帳に書き、時には身振りも使って教えていた。
 
「…………」
「あれ?」

 コウキがトレーナーズスクールでの出来事を思い出しながら、頭の後ろで手を組んで歩いていると、ふと隣の足音が聞こえなくなった。
振り返ると、クダリが数メートル後ろで立ち止まっている。
目を丸くしたままポカンと口を開け、杖を持ち替えた状態で、首から提げたホイッスルを握りしめ、何も言わずに棒立ちになっていた。

「クダリさん?」
「!」 
「ポケッチカンパニーの建物、もうすぐ着きますけど。一旦休憩しますか?」
  
我に返ったクダリは苦笑いでジェスチャーでコウキに「ごめん」と謝ると、再び歩き出してコウキに追いつき、そのまま何も言わずに自分を心配する少年を追い抜いて、ポケッチカンパニーの方へ歩いていった。

 ポケッチカンパニーに辿り着いた二人は聞き込みの末に、ヒスイの時代に書かれたと思われる手記を個人で持っている人に会い、無理を言ってその手記の写真を何枚か撮らせてもらった。
手記の紙は経年劣化で薄茶色に変色していて、端が少し破れているが、とても大切に保管されていたのが伺えるそれは、絵日記みたくいくつかの絵と、小さく掠れた文字が乱れなく並んでいた。
絵の方はどれもペンのインクとは違う黒が使われていて、なめらかに太さが変わる不思議なタッチで描かれていた。
 その手記に描かれていた絵は四つ。
上空に渦巻く不穏な黒が浮かぶテンガン山と思わしき山。
草原らしき場所でこちらを向いている丸い身体の鳥ポケモン。
大きな体躯の四つ足のポケモン。
そしてこれは思わぬ偶然か、四つ足のポケモンの絵の隣には、コウキがヒカリの母親から預かった、不思議な形の笛の絵が描かれていた。

 手記を見せてくれた人に礼を言って別れた二人は、集めた情報を一旦整理する為に、再びポケモンセンター戻った。
まだ日は高かったのでもう少し情報収集に精を出す事もできたが、クダリの顔に隠しきれない疲労の色が浮かんでいたので、早々に切り上げて休息を取る事にしたのだ。
自分とポケモン達の食事を終わらせて、部屋の外には出ないように注意してからポケモン達を自由にさせておくと、二人はクダリのベッドの上で、手記の内容の解読に努めた。
 
「うーん、結局ほとんど掠れてて読めなかったし……。これは……多分『ポケモン』、だ。『なんとかのポケモン』って意味なんだろうけど……うーん……全然読めないや」

 コウキはジャケットと帽子を脱いだ姿でクダリのベッドの上にあぐらをかき、ペンを回しながら足元に置いた自分のレポートとにらめっこして、うんうん唸った。
文字の方はほとんどが掠れてしまっていて、高画質の写真データを拡大して確認しても所々の単語しか読めず、コウキはひとまずはっきりと読めそうな単語のみを書き写してみたが、こういった事は専門外だ。
よくよく見てみると手記に書かれていた文字は、現代の文字よりもかなり癖があって読みづらく、更に言うと、今ではほとんど使われていない言葉も多く含まれていて、結局コウキは手記の文字のほとんどを解読できなかった。
 
「うーーーん駄目だ……やっぱり分からない。クダリさん、この絵のポケモンについて何か分かりました?」

 お手上げ状態でペンをレポートに投げ出したコウキは、少しばかり気分転換にと、手記に描かれていた鳥ポケモンについて調べてくれているクダリに声を掛けた。 
枕を立てかけた壁に背中を預けて、両足を投げ出した状態で座っていたクダリは、手記と同じ姿のポケモンが写っているスマホの画面を見せて、自分の手帳に自分の言葉を書き込んだ。

『このポケモンはモクロー。本来アローラ地方にいるポケモン』
「アローラ地方?ここからだとかなり遠い地方ですよね?」

絵のポケモンが思わぬ地方に生息していると知って、コウキが思わず目を瞬かせると、クダリは再び頷いて続きを書いた。

『アローラ地方はシンオウ地方とかなり距離ある。モクローは空を飛べるポケモンだけど、この距離を移動するのは難しい。自力でここに来れた訳じゃないと思う』
「……じゃあ、もしかして。このモクローは、ヒカリ達みたいに時空を超えて、ヒスイ地方に来たかもしれないって事ですか?」
『断言できない。でも可能性ある』

 クダリは自分の手帳のページを遡ると、ページに貼り付けられている、新聞の切り抜きと思わしき写真を指さした。
その写真は何でもないアローラの穏やかな景色だったが、上空に一か所だけ明らかに異質に光るトンネルの様な物が写り込んでいた。
コウキはその写真をまじまじと見てから、その隣に細かい文字で書き込まれている文章を読んだ。

「ウルトラホール……」

 アローラ地方において太古から観測されている未知の空間。
その空間の裂け目の先は、別世界へと繋がっていて、現にアローラ地方で度々目撃されているウルトラビーストは、このウルトラホールを通ってやって来たポケモンの一種らしい。

「別世界……じゃあ、このウルトラホールを通れば、ヒカリ達がいる世界に行ける可能性もあるって事ですよね!」
「…………」
 
 今までの手掛かりは、ヒカリとノボリがどこにいるかの手掛かりばかりで、ヒスイ地方に行く為の手段については、何も見つかっていない。
そこでクダリからウルトラホールの話を聞いて、ヒスイ地方に行ける可能性を見出したコウキが表情を明るくすると、クダリの表情は途端に苦々しいものになって、首を激しく横に振った。
そんな彼の仕草にコウキが戸惑っていると、クダリは白紙のページに長めの文章を素早く書き連ねた。
 
『ノボリを探す旅に出てからすぐ、ぼくもこの別世界の事が気になって、国際警察に連絡して聞いてみた。そしたら国際警察の人の中にウルトラホールを通った人がいたみたいで、その人ウルトラホールを通る前の記憶がほとんど無くなってたんだって。
どこの世界に繋がってるか分からないから、ウルトラホールを通ったからってヒスイ地方に行ける保証無い。自分が記憶を無くしちゃうだけで、目的地にずっと辿り着けない可能性の方が高い。だからこの方法はあまり試したくない。他の方法を探した方がいい』
「……そう、なんですね」

目に見えて肩を落としたコウキを見て、クダリは手帳に自分の思いを綴って、彼の肩を叩いてその内容を見せた。
 
『ごめんねコウキ、ぬか喜びさせて。でもぼく、コウキを危険な目にあわせたくない。もしコウキに何かあったらヒカリだって悲しむ。ヒカリだけじゃない、コウキを大事に思ってる人達、たくさん悲しむ。それだけは絶対に駄目。だから他の方法探そう?』

 再び手詰まりになりかかっているこの状況で、こんな上げて落とすような真似。
酷な事をしている自覚はあったが、コウキがこの危険且つ、実現するにはあまりにも低すぎる可能性に賭けてしまわないように、クダリは予め釘を刺しておくべきだと判断した。
コウキを大事に思っている人達の為にも、ここで彼が自らを危険に晒す選択に走るようなら、なんとしても止めるつもりだ。
すぐに納得してもらうのは難しくても、分かってもらいたい一心で、クダリは真っ直ぐにコウキを見つめると、彼は残念そうな顔でしばらく項垂れていたが、切り替えるように一度目を閉じてから思い切り自分の両頬を叩いた。
 
「……よし!ヒスイ地方に行く方法はまた別で考えるとして、他の絵について考えましょうか。ボクとしては、なんでこの笛が描かれているか気になってるんですけど……クダリさんはどの絵が気になりますか?」

クダリは笛の隣に描かれている四つ足のポケモンを指さした。
 
「このポケモンの絵が気になってるんですか?」

クダリは小さく頷いて、手帳に文字を書き連ねた。
 
『アローラ以外の他の地方のポケモン図鑑も見てみたけど、このポケモンだけどれだけ調べても出てこなかった。コウキはこのポケモン、知ってる?』
「うーん……ごめんなさい、分からないです。でもこのポケモン、どことなくディアルガと顔つきが似てる気がするんですよね……。もしかしたらこの二匹と関わりがあるポケモンだったりして……あっ!」

コウキは自分にとって家族以外で一番身近な大人で、クダリと出会った博物館のチラシをくれた人の顔を思い出した。
 
「クダリさん。少しの間、このスマホ借りてもいいですか?」
「?」

突然コウキにそう尋ねられて、彼の意図が分からなかったクダリは、目を丸くして首を傾げた。

「やりのはしらにディアルガが現れた時、ナナカマド博士がディアルガについて調べていたんです。もし本当にこのポケモンがディアルガと関係があるなら、何か分かるかもしれない。だからボク、ナナカマド博士に連絡してこのポケモンについて聞いてきます」
「…………」

訳を聞いてから少し考えるように俯き、ややあってからクダリは自分のスマホを差し出した。

「ありがとうございます。できるだけすぐ戻って来るんで、ちょっと待っててください!」

スマホを受け取って礼を言うと、コウキは部屋を飛び出した。

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