シロナに礼を言って彼女と別れた二人は、念入りな準備と休息を取った後、テンガン山を登り始めた。
なみのりやロッククライムなどのひでんわざが必要な場所は、わざを覚えさせていたコウキのポケモンの力を借りて進み、クダリもイワパレスに乗せてもらいながら山道を進んでいた。
しかし上へと足を進めて行くに連れ、イワパレスがクダリを乗せて歩くには狭く、急な段差がある道が増えて、やがてクダリは自力で歩かないといけなくなり、彼の体力はみるみる削られていった。
「はあ……はあ……」
「クダリさん、大丈夫ですか?あっちに座れそうな岩があるから、一旦休憩しましょう」
「っ……うん……」
辛そうに息を繰り返して坂を上るクダリを見て、コウキはふらつきそうになっている彼の身体を支えながら、滝の近くにあった座れそうな岩に誘導して座らせた。
腰を下ろしたクダリは胸元に手を当てて、なんとか息を整えようと何度も深呼吸をしては、時折苦しそうに息を詰まらせて咳き込んだ。
顔色は悪く無いが、額や首筋からは汗が流れている。
ここに座らせてくれたコウキに礼を言う余裕も無く、薄らと目を開けた状態で地面を見つめるクダリの横顔は、どこか悔しそうに歪められていた。
彼の体力を気遣って、コウキは登り始めてからできるだけこまめに休憩を取って、クダリも文句一つ言わずにコウキに着いて来ていたが、それでも明らかに彼の歩くペースは落ちてきていた。
「クダリさん。そっちの足、大丈夫ですか?」
「はあ、はあ……まら……らい、じょーぶ」
先程から彼の下肢装具から金属が軋むような音がしていたので、コウキが気になって尋ねると、クダリは息が整わないながらも自分の右足のスラックスの裾を捲った。
足に装着された装具はまだ大きな欠陥は見当たらなかったが、足に巻き付いたベルトは所々に小さな傷が入っていて、金属の支柱は見た所変わりはない。
しかし軋む音がするのなら、どこかしらの不備が発生している筈だ。
彼の下肢装具は頑丈に作られているが、山登りには適していない。
この険しい山道を歩き回っていたら、故障してしまうのは時間の問題だろう。
クダリが座る岩にもたれて胡坐をかいたコウキは、水を飲みながらマップを広げてテンガン山の道を確認した。
自分達が進んで来た道を確認してから、目的地へ向けてこれから進む道を指でなぞる。
この距離なら、もう少し休んで体力を回復したら、ぎりぎり辿り着けそうだ。
「…………」
目的地が近づいて焦りが生じているのか、クダリはあまり間をおかずに休憩を切り上げて、すぐに立ち上がろうとしていた。
「クダリさん。もう、いいんですか?」
「うん。……もー、すこし……なんれ、しょ?」
「はい。でも……」
流れる汗はまだ止まっていないし、杖を頼りにして力を入れた足は、膝が震えて今にもカクンと折れてしまいそうなのに、彼は敵でも睨みつけるように前へと続く道を見据えている。
これからが本番の可能性もあるのに、ここで無茶をしたら、やりのはしらに着いた途端にクダリは体力切れを起こすかもしれない。
ずっと隣でクダリを見ていたシャンデラも予想できているらしく、もう少し休ませようと、彼の周りをくるくる回って声を掛けている。
無理に前に進もうとする彼をどうやって説得しようか考えあぐねていると、突然コウキのモンスターボールから、一番付き合いの長いゴウカザルが現れた。
「え?いきなり出てきてどうしたの?ゴウカザル」
「?」
よっぽどの事でもない限り、滅多に自分からボールの外に出ないゴウカザルの登場にコウキが戸惑っていると、ゴウカザルがスタスタと迷いない足取りで、何故かクダリの後ろに立った。
いきなり自分の背後に立たれたクダリも、ジッと自分を見つめてくるゴウカザルの意図が分からず、困惑顔でゴウカザルを見つめ返した。
「え!?ちょっと、ゴウカザル!?」
「あ、わ、わっ!?」
突然の事に、二人は驚きの声をあげた。
クダリの後ろに立ったゴウカザルが、少し身を屈めたかと思うと、次の瞬間いきなり彼を杖ごと抱き上げて、いわゆるお姫様抱っこの状態にしたのだ。
ゴウカザルの身長はクダリよりもずっと低いが、その身長差にふらつく事もなく、目を見開いたまま固まっているクダリを抱き上げたまま、自分のパートナーへ向けて顎で前の道を指し示して、そのまま歩き出した。
「……分かった。じゃあお願いね、ゴウカザル」
「え、え?コーキ?」
そのまま歩き始めたゴウカザルと、何か理解した様子で一緒に歩きだしたコウキを交互に見て、クダリは戸惑いの声をあげた。
「ゴウカザルがクダリさんを運んでくれるみたいです。このまま進みましょう」
「え。……おもく、ない?わっ!」
クダリが恐る恐る尋ねると、ゴウカザルはこれくらいへっちゃらだと言いたげに、クダリを一段高い場所まで持ち上げてみせて、ニカリと笑った。
「……ふふっ……あぃ、あと。おぇがい、ね」
ゴウカザルの笑顔を見て大丈夫だと判断したクダリは、小さく笑ってゴウカザルの胸にそっと頭を預けた。
クダリが力を抜いて身体を委ねる様子を見て、近くでずっとハラハラと見ていたシャンデラは、ホッと無い胸を撫でおろして後ろを着いていった。

コメント
WEBイベントをきっかけに、前編~後編一、読ませて頂きました。
ヒカリを探すコウキと、ノボリを探すクダリ……珍しい組み合わせに興味を引きました。
現代に残された側の人達が必死に可能性をひとつひとつ当たって進んでいく様は、読み進めていて(当人達にとってはとんでもないでしょうが)非常に面白かったです。まだ出会って間もない事もあり、片方が沈んだ時の微妙な距離感、それによる互いへの思いやりから感じる人間性がとても良いなと感じました。
事故や身体的にどうしようもない事があって ままならないなと思うシーンや出来事が多々あれど、クダリさんの介助をするポケモン達の描写・関係性がとても好きです。
終盤のアルセウス戦は、トレーナーもバトルに巻き込まれるような戦いが未経験の現代っ子コウキが序盤に相棒ゴウカザルが倒され、これはまずいと手に汗握りました。
クダリさんは観戦ポジションに甘んじず己の出来る事を見出し、『あのホイッスル、ここで活きた!』と読んでいて滅茶苦茶テンションが上がりました。
これまでの旅路と同じく、それぞれ役割分担で互いを補い合い戦う展開が本当に熱いです。
コウキとクダリさんの共闘に新たな可能性を見出したアルセウス、という落としどころも非常に納得感がありました。
……所変わってのヒスイのターンでは、ショウちゃんもノボリさんもすっかりヒスイに慣れており どう連れ帰るのか、それとも帰らない選択をするのか。全く読めません。蓑浦さんの納得のいく作が出来ますように……!
優しい文体(という印象を受けました)でとても読みやすかったです。
特に好きだったのが後編一の3ページ目にあった『クダリが力を抜いて身体を委ねる様子を見て、近くでずっとハラハラと見ていたシャンデラは、ホッと無い胸を撫でおろして後ろを着いていった』の文章表現が豊かですごく面白いなと思いました。アルセウス戦でのサポートも映像が浮かぶようでした。
大ボリュームの作品を一気に読む贅沢を味わわせて頂きました。本当に面白かったです。
コメントいただきありがとうございます!
もうめちゃくちゃ嬉しくて、しばらく布団の上で悶えてました。
今まで書いてきたものは短編集が多くて、一つの話に対してここまで長く書いた事が無かったので、展開がダラダラになってないか、読みにくくないかと心配でしたが、読みやすいと言ってくれて嬉しいです!
片方が沈んた時のもう一人の接し方は、まだ知り合って間もなくて、声の掛け方が分からずにその場を去ってそっとしておくしかなかったコウキと、二人で旅をしてそれなりに日数が経ち、自分から寄り添いに行ったクダリと、対比になるように考えて書きました。
アルセウス戦は「直接戦えないクダリを絶対に空気にさせない」という事を絶対条件に、頑張って書いていたので、手に汗握る程楽しんでもらえてよかったです。
他にもこだわっていた所とか、癖に従って筆が乗っていた所とかも拾って読んでもらえて嬉しいです。
後編二も頑張って書いていますので、完成したらまた読んで頂ければ幸いです。
とても嬉しい感想をありがとうございました!