三行半を突きつけるまたとない好機 【後編一】

ポケモン(サブマスメイン)三行半を突きつけるまたとない好機小説

 倒されたロトムをボールに戻したコウキが、顎に伝った汗を拭いながら苦しくなってきた息を整えていると、突然耳を貫くホイッスルの高い音が鳴り響いた。
攻撃のモーションに入っていたアルセウスも驚いたらしく、攻撃を止めて音の方へ振り返る。

「クダリさん?」

アルセウスにつられてコウキも音の方へ顔を向けると、ホイッスルを咥えたクダリが、真剣な顔でコウキに向けて指をさしていた。
彼の隣で浮いているシャンデラも、それを真似するかのように、黒い腕をコウキへ向けている。

「……ボク?」

コウキが自分を指さすとクダリは小さく頷いて、トレーナーズスクールの時と同じように、隣で浮いているシャンデラへ音で指示をし始めた。

「前……右……左……あれは、逃げる?かな……投げる……」

 シャンデラはクダリの指示で前に進み、右へ、左へと移動して、次に頭を抱えて逃げるように慌てて後退して、そして空中に向けて何かを投げる仕草をして見せる。
その一連の指示をもう一度繰り返して、同じくシャンデラに再現してもらってから、クダリはもう一度コウキを指さして、その次にアルセウスへ向けて鋭く指をさした。

「……そうか。……わかった!わかりましたクダリさん!!」

クダリが伝えたい事を理解したコウキは、大きく手を振って了承した旨を伝えると、自分を見下ろすアルセウスへ向き直った。

『まだ、続けますか?』
「もちろん続けるよ!ボク達は、絶対に諦めないから!」

さあ、仕切り直しだ。 
そう意気込んで、コウキはもう一度走り出す為にぐっと姿勢を低くした。

『くっ……これは……』

何度目かの視界を横切るおにびを避けながら、アルセウスは少年への攻撃の手は止めずに、白い男の方へ目を向けた。

 アルセウスは最初、白い男の方は完全に戦力外だと判断していた。
だから今まで彼への攻撃は一切しなかった。
必要性を感じなかったからだ。
 それがどういうことか、彼が首から提げた小さな笛を使って少年に指示を出し始めると、少年が自分に玉を命中させる回数が急激に増え始めた。
最初はただ走り回ってわざから逃げ続けるだけで、玉を投げられる余裕なんて無かったのに、今の少年はまるで自分の動きが分かっているかのように、攻撃を回避して自分に玉を投げつけている。
それだけ白い男の指示が恐ろしく的確なのだ。
 加えて少年の動きが男の指示下に入った事により、少年が流れ弾に当たりにくくなったと判断したのか、シャンデラがアルセウスの目元を狙って、時折おにびを飛ばして来るようになった。
狙うといっても当てるつもりはないらしく、アルセウスが少し首を動かせば簡単に避けられる程度のもの。
しかし絶妙なタイミングで放たれるおにびに、一瞬視界が奪われるので、少年の姿が見失いやすくなる。

完全に予想外だ。
まさか彼が指示役として機能する事で、ここまで強力な相手に変貌するとは思わなかった。
自分ができる事を最大限に発揮して、互いの欠点を補い合い、圧倒的な相手にも負けない力に変える戦い方。
アルセウスはじわじわと不利な状況に追い込まれながら、こういった力の示し方もあるのかと、驚きつつも感銘を受けていた。

『……っく!』

 何度も投げつけられて蓄積した玉の影響によって、次第に動きが鈍っていく。
男の鋭い笛の音を聞いて、少年はアブソルを繰り出した。
とどめを刺す為に、彼らはアルセウスに向けて同時に指をさす。
その瞬間、自分を睨みつける彼らの目に、自分の試練を乗り越えてみせたあの少女と同じ、強い意志の輝きを見た気がした。
 
「アブソル!つじぎりだ!!」
『……わたしの負けですね』

アルセウスは正面から飛びかかって来たアブソルの渾身の一撃を、思いのほか静かな気持ちでその身に受け入れた。

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コメント

  1. より:

    WEBイベントをきっかけに、前編~後編一、読ませて頂きました。

    ヒカリを探すコウキと、ノボリを探すクダリ……珍しい組み合わせに興味を引きました。
    現代に残された側の人達が必死に可能性をひとつひとつ当たって進んでいく様は、読み進めていて(当人達にとってはとんでもないでしょうが)非常に面白かったです。まだ出会って間もない事もあり、片方が沈んだ時の微妙な距離感、それによる互いへの思いやりから感じる人間性がとても良いなと感じました。
    事故や身体的にどうしようもない事があって ままならないなと思うシーンや出来事が多々あれど、クダリさんの介助をするポケモン達の描写・関係性がとても好きです。

    終盤のアルセウス戦は、トレーナーもバトルに巻き込まれるような戦いが未経験の現代っ子コウキが序盤に相棒ゴウカザルが倒され、これはまずいと手に汗握りました。
    クダリさんは観戦ポジションに甘んじず己の出来る事を見出し、『あのホイッスル、ここで活きた!』と読んでいて滅茶苦茶テンションが上がりました。
    これまでの旅路と同じく、それぞれ役割分担で互いを補い合い戦う展開が本当に熱いです。
    コウキとクダリさんの共闘に新たな可能性を見出したアルセウス、という落としどころも非常に納得感がありました。

    ……所変わってのヒスイのターンでは、ショウちゃんもノボリさんもすっかりヒスイに慣れており どう連れ帰るのか、それとも帰らない選択をするのか。全く読めません。蓑浦さんの納得のいく作が出来ますように……!

    優しい文体(という印象を受けました)でとても読みやすかったです。
    特に好きだったのが後編一の3ページ目にあった『クダリが力を抜いて身体を委ねる様子を見て、近くでずっとハラハラと見ていたシャンデラは、ホッと無い胸を撫でおろして後ろを着いていった』の文章表現が豊かですごく面白いなと思いました。アルセウス戦でのサポートも映像が浮かぶようでした。

    大ボリュームの作品を一気に読む贅沢を味わわせて頂きました。本当に面白かったです。

    • 蓑浦水端 蓑浦水端 より:

      コメントいただきありがとうございます!
      もうめちゃくちゃ嬉しくて、しばらく布団の上で悶えてました。
      今まで書いてきたものは短編集が多くて、一つの話に対してここまで長く書いた事が無かったので、展開がダラダラになってないか、読みにくくないかと心配でしたが、読みやすいと言ってくれて嬉しいです!

      片方が沈んた時のもう一人の接し方は、まだ知り合って間もなくて、声の掛け方が分からずにその場を去ってそっとしておくしかなかったコウキと、二人で旅をしてそれなりに日数が経ち、自分から寄り添いに行ったクダリと、対比になるように考えて書きました。

      アルセウス戦は「直接戦えないクダリを絶対に空気にさせない」という事を絶対条件に、頑張って書いていたので、手に汗握る程楽しんでもらえてよかったです。
      他にもこだわっていた所とか、癖に従って筆が乗っていた所とかも拾って読んでもらえて嬉しいです。

      後編二も頑張って書いていますので、完成したらまた読んで頂ければ幸いです。
      とても嬉しい感想をありがとうございました!