三行半を突きつけるまたとない好機 【後編一】

ポケモン(サブマスメイン)三行半を突きつけるまたとない好機小説

「お待たせアルセウス。始めよう」

コウキはゴウカザルを連れてアルセウスの真正面に立つと、光り輝く玉を突きつけるように構えた。

『分かりました。では、始めます』
「コーキ!にぇてっ!!」

アルセウスが地面の上でしっかり踏ん張るように、四つ足を広げて身構えた瞬間、背中にゾワリを嫌な感覚が走ったクダリは、直感に従ってコウキへ向かって必死に叫んだ。

「え。……うわあっ!?」

 ゴウカザルへ指示を出そうとする前にクダリの声を聞いて、コウキとゴウカザルは慌ててその場から飛びのいた。
アルセウスを中心に放たれた波状のエネルギーが、地面に添ってコウキ達に向かって猛スピードで襲い掛かってきたのだ。
まさか自分まで巻き込まれるとは思わず、当たったらどうなっていたかを想像してゾッとした。
しかしそんな事に気を向ける暇もなく、急に視界が薄暗くなる。
不思議に思って上を見上げると、ドラゴンわざのりゅうせいぐんとは違う、大型の隕石が近くまで迫って来ていた。

「あ……」 

 今すぐ逃げないといけないのに、死の恐怖で足が竦んでしまって動けない。
隕石を見つめたまま固まっているパートナーを見て、ゴウカザルはすぐさまコウキを脇に担いで、すんでの所で回避した。
 
「……あ、ありがとうゴウカザル」

 地面に降ろしてもらって礼を言うコウキに、ゴウカザルは「まだだ」と言わんばかりに鋭い鳴き声をあげた。
上を見上げると、未だ無数の隕石がコウキ達に襲い掛かってくるので、震えそうになる足を叱咤して、隕石から必死に逃げ回った。

「……っ……ゴウカザル、フレアドライブ!」

隕石から辛うじて逃げ切ったコウキは、タイミングを見計らって指示を出すと、ゴウカザルは炎を纏ってアルセウスに向かって突進した。

『…………』

ゴウカザルの攻撃は間違いなく当たった。
しかしアルセウスには全く効いている様子がなく、まるで何も無かったかのようにそこに佇んでいる。
反撃としてアルセウスの身体の色が青く変化すると、アルセウスの頭上から無数のレーザーが放たれ、それに当たったゴウカザルは一撃で地面に沈められた。
 
「こうかばつぐん!?それに今、アルセウスは自分のタイプを変えた?」
『闇雲に攻撃したところで、わたしにダメージは与えられませんよ』

 一番の相棒のゴウカザルが一撃で倒された事と、先程のアルセウスの攻撃までの一連の様子に、コウキは目を剥いた。
 倒れたゴウカザルを無感情に見下ろすアルセウスを見て、コウキは自分へ注意を向ける為に、持っていた光の玉をアルセウスに当たるように思い切り投げつけた。
 
「アルセウス!まだ勝負は終わってないよ!!」
『……正解です。その玉を使って隙を作ってみせなさい』

アルセウスはゆっくりと顔を上げて、コウキを真正面から見据えた。

 あんなのポケモンバトルでもなんでもない。
逃げ回るコウキをただ一方的に、じわじわと嬲っているようにしか見えない。
今は辛うじて攻撃から回避できているけど、それも長く続かないだろう。
見ているだけで怒りの感情に脳が焼かれて、どうにかなってしまいそうだ。

 アルセウスの隙を作るには、あの近づくことさえ難しい複数種類の広範囲攻撃を掻い潜らないといけない。
その為にはアルセウスの動きを見て、どんなわざが来るか把握する必要がある。
しかしアルセウスがこれからどう動くのか、あの危険なわざをどう避ければいいのか、今までのバトルの経験からある程度予測できても、咄嗟に声を出すのが難しいから、コウキに伝える事ができない。
歩くのもやっとなこの足じゃ、走り回って囮になる事もできない。

「〜〜〜っ!!」
 
 壊れてまともに動かない自分の身体が恨めしくて、恨めしくて、クダリは歯を食いしばって、杖の先を思い切り床に打ちつけた。
目の前でコウキが危ない目に遭っているのに何もできず、離れた安全な場所でただ見ている事しかできない、役立たずな自分に腹が立つ。
段々輪郭がぼやけていく足元に目を落としていると、胸元に何かがぶつかったと同時に、クダリの視界は紫に包まれた。

「……シャ、デあ」

クダリが顔を上げると、怒った顔のシャンデラが炎を大きく揺らして自分に呼び掛けていた。
クダリのホイッスルを持って、コウキの方へ何度も目を向けている。

「ぼぅ、が……コー、キを?」

そう問いかけると、シャンデラはコクコクと頷いた。
シャンデラはクダリがアルセウスの動きを読める事に気づいているのだ。

「…………」

もし上手くいけばこの状況を打破できるかもしれない。
でもそんな事本当にできるだろうか?
ぐらぐらと瞳を揺らして俯くクダリを見て、シャンデラは彼の両頬を包んで無理矢理上を向かせて、強く訴えかけた。

『大丈夫、クダリならできます!』

 励ましてくれるシャンデラの表情は、奇しくもシャンデラの本来のパートナーの姿と重なって、昔の思い出とその時の彼の声を思い出させた。
子供の頃、不安な事があった時に、ノボリにこうやって両手で頬を包んで励ましてくれた事があったのだ。
シャンデラのまっすぐで真剣な目を見ると、クダリの胸の内に巣食っていた不安はまるで魔法のように取り払われ、代わりに目的地へ向けて走り出す為の力がどんどん湧いてきた。
もう大丈夫だという意味を込めて、クダリはシャンデラに微笑みかけると、シャンデラも笑顔で力強く頷いた。
 
「…………ふー」

大丈夫、きっと上手くいく。
クダリは目を閉じて長い深呼吸をすると、静かに目を見開いて杖を持ち替えた。

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コメント

  1. より:

    WEBイベントをきっかけに、前編~後編一、読ませて頂きました。

    ヒカリを探すコウキと、ノボリを探すクダリ……珍しい組み合わせに興味を引きました。
    現代に残された側の人達が必死に可能性をひとつひとつ当たって進んでいく様は、読み進めていて(当人達にとってはとんでもないでしょうが)非常に面白かったです。まだ出会って間もない事もあり、片方が沈んだ時の微妙な距離感、それによる互いへの思いやりから感じる人間性がとても良いなと感じました。
    事故や身体的にどうしようもない事があって ままならないなと思うシーンや出来事が多々あれど、クダリさんの介助をするポケモン達の描写・関係性がとても好きです。

    終盤のアルセウス戦は、トレーナーもバトルに巻き込まれるような戦いが未経験の現代っ子コウキが序盤に相棒ゴウカザルが倒され、これはまずいと手に汗握りました。
    クダリさんは観戦ポジションに甘んじず己の出来る事を見出し、『あのホイッスル、ここで活きた!』と読んでいて滅茶苦茶テンションが上がりました。
    これまでの旅路と同じく、それぞれ役割分担で互いを補い合い戦う展開が本当に熱いです。
    コウキとクダリさんの共闘に新たな可能性を見出したアルセウス、という落としどころも非常に納得感がありました。

    ……所変わってのヒスイのターンでは、ショウちゃんもノボリさんもすっかりヒスイに慣れており どう連れ帰るのか、それとも帰らない選択をするのか。全く読めません。蓑浦さんの納得のいく作が出来ますように……!

    優しい文体(という印象を受けました)でとても読みやすかったです。
    特に好きだったのが後編一の3ページ目にあった『クダリが力を抜いて身体を委ねる様子を見て、近くでずっとハラハラと見ていたシャンデラは、ホッと無い胸を撫でおろして後ろを着いていった』の文章表現が豊かですごく面白いなと思いました。アルセウス戦でのサポートも映像が浮かぶようでした。

    大ボリュームの作品を一気に読む贅沢を味わわせて頂きました。本当に面白かったです。

    • 蓑浦水端 蓑浦水端 より:

      コメントいただきありがとうございます!
      もうめちゃくちゃ嬉しくて、しばらく布団の上で悶えてました。
      今まで書いてきたものは短編集が多くて、一つの話に対してここまで長く書いた事が無かったので、展開がダラダラになってないか、読みにくくないかと心配でしたが、読みやすいと言ってくれて嬉しいです!

      片方が沈んた時のもう一人の接し方は、まだ知り合って間もなくて、声の掛け方が分からずにその場を去ってそっとしておくしかなかったコウキと、二人で旅をしてそれなりに日数が経ち、自分から寄り添いに行ったクダリと、対比になるように考えて書きました。

      アルセウス戦は「直接戦えないクダリを絶対に空気にさせない」という事を絶対条件に、頑張って書いていたので、手に汗握る程楽しんでもらえてよかったです。
      他にもこだわっていた所とか、癖に従って筆が乗っていた所とかも拾って読んでもらえて嬉しいです。

      後編二も頑張って書いていますので、完成したらまた読んで頂ければ幸いです。
      とても嬉しい感想をありがとうございました!