「ノボリさーん!こんにちは!」
所変わってヒスイ地方、コトブキムラの訓練所。
シンジュ団のキャプテンのノボリは、今日も訪れてくる挑戦者を待つ為に建物の前に立って虚空を見つめていると、この訓練場の常連である少女、ショウが笑顔で大きく手を振ってこちらへ向かって来た。
「おや、こんにちはショウさま。今日はどのようなバトルになさいますか?」
「あ、ごめんなさい。今日はシンオウ神殿に異変があったみたいなんで、様子を見に今から天冠の山麓の方に向かう予定なんです。しばらくかかるかもしれないんで、一応ノボリさんにも声を掛けておこうかなって」
「それはご丁寧に、ありがとうございます。……して、ショウさま。シンオウ神殿の異変とは?」
バトル目的で来てくれた訳では無い事に内心少し落胆しながらも、彼女の話の中に気がかりな部分があったので、ノボリはその内容をショウに尋ねた。
「はい。実は昨日、シンオウ神殿の方で強い光を見た人がいたらしいんです。それで様子を見に行って欲しいって、シマボシさんに」
「なるほど、そうでございましたか。…………」
「ノボリさん?」
ショウから事情を聞いたノボリは、顎の髭を触りながら、急に何かを考え込むように俯いてしまった。
険しく目を細めて思案している彼の表情は、霧の向こうの見えない物を、なんとか見ようとしているようにも見える。
ショウが声を掛けると、ノボリはゆっくりと顔を上げた。
「……ああ、申し訳ございません。……何やら昨日から胸騒ぎがしているのです。今回の事と無関係であればよいのですが……」
眉を寄せて胸元に手を当てるノボリは、どこか苦しそうだ。
ショウは何か声を掛けようと口を開きかけたが、彼女の意図に反してノボリは、「失礼、引き止めてしまいましたね」と彼の中で早々に話を終わらせてしまった。
「ショウさま、昨日は雪が降っておりましたので、天冠山に向かわれる際はお足元にご注意ください。くれぐれも、くれぐれもお気をつけて、行ってらっしゃいませ」
「ありがとうございます。じゃあ行ってきます!」
ノボリの忠告に礼を言ったショウは、元気な足取りで訓練場を離れると、そのまま天冠山の方へ向かって姿を消した。
彼女の背中が見えなくなると、己に何かを訴えようとする胸中を宥めるように、ノボリは再び胸に手を当てた。
「しかし、何故でしょう。……こんなにも胸がざわついているというのに。……わたくし、この時が来るのを待ち焦がれていた気がするのです」
ノボリは誰にも聞こえない声で一人呟き、薄暗くなりつつある空を見上げた。

コメント
WEBイベントをきっかけに、前編~後編一、読ませて頂きました。
ヒカリを探すコウキと、ノボリを探すクダリ……珍しい組み合わせに興味を引きました。
現代に残された側の人達が必死に可能性をひとつひとつ当たって進んでいく様は、読み進めていて(当人達にとってはとんでもないでしょうが)非常に面白かったです。まだ出会って間もない事もあり、片方が沈んだ時の微妙な距離感、それによる互いへの思いやりから感じる人間性がとても良いなと感じました。
事故や身体的にどうしようもない事があって ままならないなと思うシーンや出来事が多々あれど、クダリさんの介助をするポケモン達の描写・関係性がとても好きです。
終盤のアルセウス戦は、トレーナーもバトルに巻き込まれるような戦いが未経験の現代っ子コウキが序盤に相棒ゴウカザルが倒され、これはまずいと手に汗握りました。
クダリさんは観戦ポジションに甘んじず己の出来る事を見出し、『あのホイッスル、ここで活きた!』と読んでいて滅茶苦茶テンションが上がりました。
これまでの旅路と同じく、それぞれ役割分担で互いを補い合い戦う展開が本当に熱いです。
コウキとクダリさんの共闘に新たな可能性を見出したアルセウス、という落としどころも非常に納得感がありました。
……所変わってのヒスイのターンでは、ショウちゃんもノボリさんもすっかりヒスイに慣れており どう連れ帰るのか、それとも帰らない選択をするのか。全く読めません。蓑浦さんの納得のいく作が出来ますように……!
優しい文体(という印象を受けました)でとても読みやすかったです。
特に好きだったのが後編一の3ページ目にあった『クダリが力を抜いて身体を委ねる様子を見て、近くでずっとハラハラと見ていたシャンデラは、ホッと無い胸を撫でおろして後ろを着いていった』の文章表現が豊かですごく面白いなと思いました。アルセウス戦でのサポートも映像が浮かぶようでした。
大ボリュームの作品を一気に読む贅沢を味わわせて頂きました。本当に面白かったです。
コメントいただきありがとうございます!
もうめちゃくちゃ嬉しくて、しばらく布団の上で悶えてました。
今まで書いてきたものは短編集が多くて、一つの話に対してここまで長く書いた事が無かったので、展開がダラダラになってないか、読みにくくないかと心配でしたが、読みやすいと言ってくれて嬉しいです!
片方が沈んた時のもう一人の接し方は、まだ知り合って間もなくて、声の掛け方が分からずにその場を去ってそっとしておくしかなかったコウキと、二人で旅をしてそれなりに日数が経ち、自分から寄り添いに行ったクダリと、対比になるように考えて書きました。
アルセウス戦は「直接戦えないクダリを絶対に空気にさせない」という事を絶対条件に、頑張って書いていたので、手に汗握る程楽しんでもらえてよかったです。
他にもこだわっていた所とか、癖に従って筆が乗っていた所とかも拾って読んでもらえて嬉しいです。
後編二も頑張って書いていますので、完成したらまた読んで頂ければ幸いです。
とても嬉しい感想をありがとうございました!